太陽電池はパネルからペロブスカイトへー積水化学は中国とのシェア争いに勝てるのか
2025年8月28日 – Walter James/Energy Tracker Asia
最終更新日:2025年9月4日
この記事の要旨
軽量かつ柔軟な性質で多様な場所への設置が可能な次世代技術として注目されるペロブスカイト太陽電池。日本政府は2040年までに20ギガワットのペロブスカイト導入と国産サプライチェーンの構築を目指す。
経産省は研究開発や導入支援に巨額の予算を投じ、積水化学などの企業が実証実験を進めている。
耐久性やコスト面での課題など、導入拡大にはハードルもあるが、中国が大量生産で先行する中、日本が再び市場の優位性を取り戻すには、政策支援のさらなる強化が不可欠となる。
ペロブスカイト市場は2040年までに67倍に
太陽光発電の次世代技術を巡る国際競争が激しさを増している。その中心にあるのが、柔軟かつ軽量なペロブスカイト太陽電池だ。
富士経済によると、ペロブスカイトの世界市場は2040年までに2024年比で67倍に拡大すると予測されている。日本は独自の脱炭素技術を模索する中で、ペロブスカイト生産でのトップを目指すが、そのためには、中国に加え、欧州、米国、韓国の企業との熾烈な競争を乗り越える必要がある。
島国の日本にとって、ペロブスカイト太陽電池は、再エネ導入量を着実に増やす手段として極めて大きな可能性を持っている。また、ペロブスカイトの国産サプライチェーンの確立に成功すれば、輸出国として貿易相手国の脱炭素化にも貢献できるようになる。
ペロブスカイトのシェア争いに先行するための戦略は、野心的で堅固な導入目標の設定、供給と需要の双方を視野に入れた支援策の展開、そして企業の具体的な実証プロジェクトが柱になる。加えて、根強く残るコストと技術面の課題をクリアすることも大事で、そのためには、さらに踏み込んだ大胆な政策措置が必要になるだろう。
ペロブスカイト太陽電池とは?
ペロブスカイト太陽電池を初めて開発したのは日本だ。桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が、フィルム状のペロブスカイト太陽電池を開発し、研究グループでの研究開発を進めてきた。

近年の技術革新により、ペロブスカイトの太陽光を電気に変換する効率は大幅に向上し、従来型の太陽電池に迫る水準にまで達している。
高効率型ペロブスカイト太陽電池3種類
日本の各企業や研究機関は、現在3種類のペロブスカイト太陽電池の開発を進めている。

- フィルム型
ペロブスカイト層をプラスチックや金属箔などの薄いフィルムの上に塗布する構造。材料使用量が少ないため、製造コストを抑えやすく、大量生産に適しているのが利点。一方で、耐久性に劣り、水分、熱、紫外線による劣化の影響を受けやすい。
- ガラス型
ペロブスカイト太陽電池をガラスで封入することで、構造的な安定性と耐久性がある。ただし、フィルム型に比べて重量が増し、柔軟性が低くなる。
- タンデム型
ペロブスカイト太陽電池と他の太陽光発電技術、主にシリコン電池を組み合わせた構造。太陽光スペクトルの異なる領域を利用して発電するため、変換効率を大幅に向上させることが可能である。一方で、構造の複雑化により製造コストが高くなるという課題もある。
日本のペロブスカイト戦略
ペロブスカイト太陽電池は柔軟で軽量なので、屋根以外の場所にも設置できるのが、大きな魅力の一つだ。
2024年9月に自然エネルギー財団が発表した報告書は、ペロブスカイト太陽電池が、建築物の外壁、窓、屋根、バルコニーなどのあらゆる場所への設置が可能であり、公共施設や商業ビルをはじめ、建造物に導入することで、建物で消費する一次エネルギーの収支を建物自体で賄う「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)」の実現に貢献すると指摘する。
さらに、十分な研究開発が進めば、従来型の太陽電池に比べ、低コストでの大量生産と設置が実現できると期待されている。
日本がシェア2位を誇るペロブスカイトの原料ヨウ素
ペロブスカイトの原料であるヨウ素を、日本が国内に豊富に有している点も、重要なポイントだ。これは、日本が中国製太陽電池への依存を減らし、国産のサプライチェーンを構築する上で極めて大きな意味を持つ。

2024年11月に経済産業省が公表した「次世代型太陽電池戦略」は、ペロブスカイト技術の推進には「太陽光電池産業を巡る過去の反省」という動機があることが明記されている。
つまり、「過去の挫折に対する歴史的なリベンジ」ともいえることを示している。同戦略では、「1973年のオイルショックを契機として、サンシャイン計画を皮切りに太陽光パネルの技術開発を進め、2000年頃には、世界シェアの50%を占めるに至った。2005年以降、中国等の海外勢に押され、日、米、独勢は一斉にシェアを落とし、日本のシェアは直近1%未満となっている」と述べている。
ペロブスカイト原料の国産生産基盤を育成することには、特別な意味合いがあるのだ。
同戦略は、ペロブスカイト太陽電池に関して明確かつ野心的な数値目標を掲げる。2030年までに、国内で年間1ギガワット以上の発電容量に相当する生産能力を確立し、2040年までには、累計で約20ギガワットの導入と完全な自立型サプライチェーンの構築を目指す。
また、それにともなって、ペロブスカイトモジュールの生産コストを、2025年に1ワットあたり20円、2030年に14円、2040年には10円まで段階的に低下させることを想定している。
ペロブスカイト普及を推進する政策支援
経産省は、設定した目標に沿って、とくにフィルム型およびタンデム型のペロブスカイト太陽電池に関する研究開発への支援を表明している。実際、2025年度より、政府はペロブスカイトの変換効率および耐久性向上を目指す企業への支援を開始している。
「グリーンイノベーション基金」は、エネルギー、輸送、製造、建築などの分野におけるグリーン技術の研究開発・実証・実装を支援するために2021年に創設され、総額2兆円を運用する組織だが、2024年時点で、ペロブスカイト技術の推進に割り当てられた予算は4,210億円にのぼる。
積水化学は世界にペロブスカイトシェアを拡げられるか
この基金から直接の恩恵を受けている企業はそう多くないが、中でも代表的な存在は積水化学工業だ。

積水化学工業は2024年に、ロール・ツー・ロール(連続生産方式)によるペロブスカイト太陽電池の製造技術を公開し、同技術を用いたパイロットプロジェクトを積極的に展開している。2027年4月までに100メガワットの生産能力を確保することを目標に、将来的にはフィルム型ペロブスカイトの海外市場への輸出も視野に入れている。
官民連携の実証実験進む
ペロブスカイトは製造するだけでなく、実際に設置し、活用しなければ温室効果ガスの削減につながらない。そのため、国および地方自治体は需要側の施策にも力を入れている。たとえば、経済産業省は2026年以降、エネルギー多消費型の企業や団体に対し、屋上太陽光発電の導入目標を策定するよう義務付ける方針を打ち出した。政府は、ペロブスカイトが十分に安価で耐久性のある技術として選択肢になることを期待している。
そのためにも、北海道、福島、東京など全国各地で、官民連携による多数の実証プロジェクトが進行中であり、実用化に向けたPoC(概念実証実験)と技術改善が同時に進められている。
技術とコスト面のハードルは?
ペロブスカイト太陽電池の普及を妨げている課題にはどのようなものがあるのか。建設業界からは、従来型の太陽電池と比較すると、同程度の投資額に対する発電効率がまだ低いという声が聞こえる。
耐久性への懸念も根強い。ペロブスカイトの期待寿命は10〜15年とされるため、50年以上の長期運用を前提とする工場経営者には導入がためらわれるだろう。
現在の補助金や政策プログラムが、これらのハードルを克服するのに十分かどうかは、まだ明らかではない。国際的なシェア競争に勝つためには、こうした技術とコストの課題を捨て置くことは得策でない。
中国はすでにペロブスカイトの大量生産を先行していて、2024年末には浙江省において世界最大規模のペロブスカイト太陽電池プロジェクトが始まっている。
ペロブスカイト太陽電池には、日本を太陽光発電の強国へと押し上げる現実的な可能性がある。脱炭素化の観点からも、国際競争の観点からも、日本はペロブスカイト支援策の規模と実効性をさらに引き上げるべきだろう。
この記事はEnergy Tracker Asia掲載のWalter Jamesによる記事 “Perovskite Solar Cells Race: Japan’s Plan to Lead”(公開日2025年8月18日)を翻訳、編集の上公開しています。