「ガス帝国」日本が有害な投資サイクルでオーストラリアをLNGに縛りつけている
2025年8月4日 – Viktor Tachev/Energy Tracker Asia
この記事の要旨
ジュビリー・オーストラリア・リサーチ・センターを始めとする機関が、日本と韓国が企業利益のためにオーストラリアの天然ガス開発の事業拡大に巨額投資を行なっていることをレポートで明らかにした。
レポートは、日韓を「ガス帝国」と呼び、日韓の豪ガスへの出資が、17年間で205億ドルにも上ることを指摘。さらに、総額の64%を占める出資は日本のJBICによるものだった。
日本と韓国は、過剰契約で余ったLNGの転売先として東南アジアをターゲットとしている。東南アジアのガス関連インフラ設備への投資でガス需要を人工的に作り出し、利益を得続けることが目的だ。
最新報告書が日韓による豪天然ガス開発への巨額投資の実態を暴露
7月中旬、ジュビリー・オーストラリア・リサーチ・センター(Jubilee Australia Research Centre)が、オーストラリア自然保護財団(Australian Conservation Foundation)およびFossil Free Japanと共同で発表したレポート「ガス帝国の築き方(How to Build a Gas Empire)」が、日本と韓国が企業利益を得るために大規模な資金投入を行い、オーストラリアの天然ガス開発の事業拡大を促進していることを明らかにした。
同レポートは、日本と韓国がオーストラリアのLNGプロジェクトに資金提供を行うことで、温室効果ガス排出を助長し、オーストラリアの脱炭素目標を遠ざけるだけでなく、日韓市民に数十億ドルの納税負担を強いることにもなっていると報告している。
さらに、この資金提供は重大な投資リスクにもつながっているという。こうした天然ガス開発プロジェクトには、開発地域周辺の自然環境と地域住民の生活を脅かすという負の側面があるという点も念頭に置くべきだろう。
エネルギー政策を背景にした日本と韓国の政治的思惑や企業戦略が、レポートによって明らかになっている。オーストラリアの天然ガス開発で不当に利益を得ているのは誰か、その実態を報告内容に沿って掘り下げる。

日韓の豪ガスへの出資17年で205億ドルーー筆頭は65%を占めるJBIC
同レポート内で、日本と韓国は「ガス帝国」と形容されている。両国は2008年から2024年にかけて、合計で205億ドルを豪ガスプロジェクトに出資しており、その巨額な投資から「ガス帝国」の名を冠した。また、そのうちの64%以上を出資していたのは日本の国際協力銀行(以下、JBIC)だった。
レポートは、具体的な投資事例として2023〜2024年の間に日本が行なった西豪州北西部沖合スカボローガス田への29億ドルもの投資に触れているが、これには2022年にドイツベルリンで開催されたG7での公約(「温室効果ガス排出削減対策が取られていない国際的な化石燃料関連事業への新たな公的融資を2022年末までに停止する」)への違反という指摘も加えられている。

日本政府による豪エネルギー政策への介入
オーストラリアのエネルギー政策は、日韓の化石燃料業界の外交圧力によって方向付けられてきた。化石燃料偏重路線を維持させようと、特に日本政府や企業関係者による介入が繰り返されてきたというのだ。
こうした介入戦略は、日本が直接介入できる、もしくは強い影響力を発揮できる他のアジア諸国のエネルギー政策設計にも如実に表れている。その例としてインドネシアがあげられる。インドネシアでは再エネよりも天然ガスの方が高コストであるにもかかわらずだ。
Fossil Free Japanの渡邉未愛氏は「日本にとって、オーストラリアのガス政策はねんど細工のようなもの。まるで子どもの遊びのように、好きなかたちに変えられる」と指摘している。それは、「気候や地域社会のためではなく、化石燃料産業のためにかたち作られている」という。
とはいえ、オーストラリアにおける天然ガス開発の拡大は、完全に日韓の化石燃料ロビイストら国外勢力に強いられて進んでいるというわけではない。同レポートは、オーストラリア政府が、クリーンエネルギー移行パートナーシップ(CETP)に則って、化石燃料プロジェクトへの公的資金提供を終了させながらも、その一方で海外からの投資を容認、奨励している矛盾を指摘する。
レポートの著者の一人、ジュビリー・オーストラリアのジェームズ・シャーリー氏は「アルバニージー政権がエネルギー政策の転換を示唆すると、日本や韓国の化石燃料利権勢力は公然と干渉する。ガス帝国が、投資を盾に天然ガス生産の拡大を要求し、政府がそれを黙認している」と述べる。
長期LNG契約終了を見据え東南アジアを新たな需要先に
日韓両国は、これまで長くLNG輸入に依存してきたが、太陽光、風力、蓄電技術のコスト低下を背景に再エネ移行を進めており、国内需要は減少傾向にある。レポートは、現行の長期LNG契約が2030年代前半に終了する予定であるため、契約延長に必要なその後の需要を正当化するために東南アジアが市場としてターゲットにされていると指摘する。
輸入基地やガス火力発電所などの「インフラ整備」に投資し、それらの稼働を通じてさらなるガス供給を必要とさせる構図だ。レポートはこの他にも、エネルギー政策への介入、現地の供給過剰に対応するための余剰ガス販売、融資支援など、日韓がアジア諸国で行なう「需要の育成」のための努力の事例をあげている。
例えば、日本が提唱するアジア・ゼロエミッション共同体(以下、AZEC)の取り組みは、実際には再エネを推進するどころか、化石燃料を延命させる「グリーンウォッシュ」だと批判されている(AZECについてはEnergy Tracker Asiaがそのリスクを詳細に報じている)。オーストラリアはAZECの下で12件の事業に関与しているが、再エネ関連はわずか3件にとどまる反面、化石燃料技術関連事業は8件を数える。
新たなガスインフラの需要はどのようにもたらされたのか
オーストラリアと太平洋地域での複数の新規、または拡張ガスプロジェクトにも、これから日本や韓国からの資金投入の可能性があるという指摘にも注目すべきだろう。これらプロジェクトの商業運転が開始すれば、さらなる環境、経済、社会への多大なリスクをもたらすことになる。
レポートは、既存の豪州ガスプロジェクトは、日・韓・豪3国におけるエネルギー安全保障のニーズをすでに上回っていると結論づけている。本来、新たなガスインフラは不要であるはずなのだ。
国際エネルギー機関(以下、IEA)も、すべてのエネルギーシナリオにおいて、ガス需要のピークは2030年までに訪れると見通しており、その兆候はすでに現れている。オーストラリアにおいても、レポートが述べる通り、天然ガスはオーストラリアの将来的なエネルギーミックスにおいて、ごく小さな役割を果たすかもしれないが、その役割はさらに縮小していくと見られる。
日本のガス転売の有害な影響
日本はオーストラリアガス事業への巨額投資を「エネルギー安全保障に不可欠」と主張するが、これもレポートで根拠とともに否定されている。日本のLNG購入企業は、実際には過剰契約に陥っており、日本が輸入したガスの約3分の1は他アジア諸国に転売されているのが実態であるのだ。

シャーリー氏は2023年3月に当時の駐オーストラリア日本国大使、山上信吾氏の「オーストラリアのガスは東京のネオンを輝かせるために不可欠」という発言を取り上げ、「実際には輸入したガスを利益目的で転売している」と反論する。
これは、2024年に米エネルギー経済・財務分析研究所(以下、IEEFA)が発表したレポート内容とも一致しており、日本は東アジアおよび東南アジアで「過剰ガスのさばき口」を人工的に創出していると見られている。
シャーリー氏は日本の転売戦略を指して「人工的な需要で新しい供給を正当化する有害なサイクル」と表現する。「移行的」な燃料であることをを建前にしながら、実際は投資による需要創出で「際限なく拡大を続け、その結果、開発途上国はクリーンで安価な再エネから締め出される」。
巨額の経済的影響を負担するのは誰か
レポートは、ガス帝国による展開が地域社会や気候にもたらす損害に加え、オーストラリアが「ガスを無料同然で輸出している」とも指摘している。例えば、ほとんどのLNG設備がロイヤリティ(資源使用料)を支払っておらず、石油資源利用税(以下、PRRT)に至っては支払っている施設は一つもないという。
法人税を納めている事業者もごく一部であり、オーストラリアの教育現場で働く教師たちの納税額は、石油ガス業界が法人税とPRRTで支払う総額の2倍に上る。ガス業界が、不必要に高いエネルギーコストを一般の消費者に転嫁しているとレポートは批判する。そして、これはフィリピンなどのLNG輸入に依存するアジア諸国で顕著に見られる傾向だという。
投資面でも、LNG関連インフラの拡張は、すでに問題となっている座礁資産リスクをさらに悪化させる恐れがある。2022年時点で186億ドルに上ると見積もられていたこのリスク規模は、すでに想定ではなく現実の問題となっている。韓国政府が管轄する輸出信用機関の豪バロッサ・ガスプロジェクトからの投資撤退が良い例だろう(Energy Tracker Asiaの記事より)。
さらに、IEEFAが示すように、豪州のガス産業は、カタールのような低コスト産出国には敵わないことが見込まれ、国際的な競争力においても疑問を払拭できない。
COP31を控えたオーストラリア政府への提言
レポートの主任著者であるジュビリー・オーストラリアの担当ディレクター、スハイラー・アリ博士は、「もしオーストラリア政府が気候変動対策のリーダーであると主張したいのであれば、化石燃料からの脱却に向けた大胆な行動が必要だ」と述べる。
レポートではオーストラリア政府に対し、以下の措置が強く勧告されている。
- 化石燃料採掘の段階的廃止。その第一歩として、新規ガス事業および既存ガス事業の拡張の承認を即時に停止すること。
- オーストラリア政府のガス市場見直しにおいて、新規ガス事業または既存ガス事業の拡張を必要とする将来のLNG契約へのガス企業の参入を禁止する機会を検討すること。
- 貿易相手国との間で脱炭素に関する二国間協定を締結し、化石燃料からの秩序ある移行を相互利益のもとで支援すること。
そして、気候政策への信頼性を得るために、COP31の国家代表団から化石燃料ロビーを排除し、同会議での化石燃料企業によるスポンサーシップを禁止することが必要であることが加えられている。
アリ博士は政府に向け、「もし太平洋諸国と肩を並べて立ち、誠実かつ説明責任のある立場を取るのであれば、化石燃料の段階的廃止に向けた計画は不可欠であり、その第一歩は、新たな石炭およびガスプロジェクトを一切認めないことにある」と呼びかける。博士によると「2026年のCOP31の開催国を目指し、舞台裏で猛烈なロビー活動を展開している」というオーストラリア政府には、これらの提言は非常に重要な指針になるはずだ。
この記事はEnergy Tracker Asia掲載のViktor Tachevによる記事 “What’s Behind Gas Expansion in Australia – New Report”(公開日2025年8月4日)を翻訳、編集の上公開しています。