ホルムズ海峡封鎖で日本に何が起きるか
2025年7月21日 – Eric Koons/Energy Tracker Asia
この記事の要旨
地域情勢の緊張が高まり、ホルムズ海峡封鎖の可能性が高まっている。ゼロ・カーボン・アナリティクス(ZCA)はホルムズ海峡が完全に封鎖された場合、ブレント原油価格は130ドル近くまで急騰すると警告している。
アジアの中でも日本はホルムズ海峡封鎖によってより大きな影響を受ける。日本が日々消費する原油とLNGの約80%がホルムズ海峡を経由している。
一時的にでもホルムズ海峡が封鎖されれば、日本は非常に大きな経済ショックを受けることになり、スタグフレーションの発生、GDP低下などの影響が予測されている。
ホルムズ海峡封鎖の懸念
イスラエルとイランの対立が深刻化するにつれ、ホルムズ海峡をめぐる緊張が高まっている。2025年6月、イランのミサイルがカタールにある米軍基地を攻撃したことで、この緊張は一気に激化し、テヘランが日量約2,000万バレルの原油と世界のLNGの5分の1を通過させているこの海峡を封鎖する可能性が懸念されている。

日本は依然として一次エネルギーの約85%を化石燃料に依存しており、この緊張によって深刻な影響を受ける国の最上位にあげられている。この状況の背景を理解することは、リスクの規模だけでなく、どうすれば被害を避けられるかを知るための鍵となる。
ホルムズ海峡ーー世界のエネルギーのチョークポイント
2024年にペルシャ湾から出荷された原油の84%、LNGの83%がホルムズ海峡を通ってアジアへ輸送された。そのうち、原油の75%、LNGの59%を受け取っているのが中国、インド、日本、韓国の4か国だ。

ホルムズ海峡というチョークポイント、つまり海上輸送における要所は、地理的条件によってリスクを増幅させている。ホルムズ海峡の航路はわずか3.2キロメートルの幅しかなく、三方をイラン領に囲まれており、容易に封鎖が可能なのだ。一時的な封鎖でさえアジアのエネルギー安全保障に致命的な機能不全もたらす可能性があるため、アジアはその時々の地域情勢如何によって驚くほど高いリスクにさらされる。
イランがホルムズ海峡の封鎖を示唆
イランはこれまで幾度となくホルムズ海峡の封鎖をほのめかしている。米国の情報機関は、2025年6月下旬にイラン軍が艦船への機雷積み込みを行なったと報告した。実際に機雷がホルムズ海峡に敷設されたわけではないが、この行為は海峡封鎖に向けた緊張の高まりを意味する。
ゼロ・カーボン・アナリティクス(ZCA)は最新のシミュレーションの結果、ホルムズ海峡が完全に封鎖された場合、ブレント原油価格は2025年6月初旬の1バレル60ドル台前半から130ドル近くまで急騰し、2008年の原油ショックと並ぶ水準に達すると警告している。
より過激な予測になると、イラクの副首相兼外務大臣は、ホルムズ海峡封鎖によって原油価格は1バレルあたり200〜300ドルにまで高騰すると指摘した。JPモルガンのアナリストは、深刻なシナリオでも130ドル程度までとの見方を示しているが、その影響はエネルギー価格にとどまらず、世界経済の成長やインフレにも波及する可能性が高い。
アジアのLNG価格は原油価格と概ね連動するため、同様の事態が起きた場合、日本、韓国向けの指標価格(JKM、Japan Korea Marker)は2〜3倍に跳ね上がる可能性がある。

ホルムズ海峡経由の燃料に依存する日本
日本は一次エネルギー供給全体の約87%を輸入に依存しており、電力の60%超を依然として化石燃料による発電で賄っている。これはOECD諸国の中でも相当に高い依存度だ。この状況下で、湾岸地域の海上輸送に何らかの支障が生じた場合、日本は経済全体に直接的な影響が及ぶ可能性が高く、主要なアジアの輸入国の中でも最も深刻な状況にある。
原油への依存
日本は、事実上すべての原油を中東から輸入している。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、2018年時点で日本の原油輸入の約80%がホルムズ海峡を通過していた。現在の日本への主要な供給国はサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートなので、この割合は現在でも大きくは変わっていないと見られる。

この高い依存度はアジア諸国の中でも日本特有だ。韓国は68%、インドは53%で、中国は15%とさらに低い。この違いの主な要因は、島国の日本には陸上パイプラインが存在せず、供給途絶の衝撃を緩和する国内生産機関が乏しい点にある。
LNGへの依存
福島第一原発事故以降、日本はLNGの輸入先を多様化させてきたが、それでも2022年には中東が日本の輸入量のおよそ10%を供給しており、その大半がホルムズ海峡を通過している。JERAや九州電力といった電力会社は、2021年に失効したカタールとの長期契約を現在更新交渉中にあるが、情勢が緊張を帯びる中で交渉の難易度は高い。原油と異なりLNGはQ-Max型の大型LNGタンカー専用の受入港を必要とするため容易に輸送ルートを変更できず、そのために湾岸地域への依存度が少しでも高いと有事の際に深刻な影響を受けることになるのだ。
日本が受ける経済ショックの波及経路
原油価格が持続的に1バレル120〜130ドルで推移した場合、日本の輸入コストは大幅に増加し、貿易赤字が拡大する。その結果、円安圧力が一段と強まり、日本銀行によるインフレ抑制の取り組みをさらに困難にさせる。予測によれば、この影響により日本経済はスタグフレーションに陥り、2026年のGDPは想定よりも0.6%低下すると見込まれている。

日本の電力市場の脆弱さも経済影響に拍車をかける。スポットLNG価格が上昇すれば、国内の電気料金も連動して上昇するため、経済全体にさらなる負担がかかり、年間の発電コストを数百億円単位で押し上げる。2022年のロシア政府によるウクライナ侵攻に伴うLNG価格の急騰が記憶に新しい中、化石燃料価格の変動が今後さらに激しくなる兆候はすでに垣間見られている。
日本に求められる戦略的対応
短期的な衝撃緩和策
日本は、政府と産業界によって国内の原油需要の約180日分に相当する備蓄を用意している。この備蓄で需要を一定程度補い、効率的に分配できれば代替の輸入元を探す時間的余裕を確保する助けにもなるはずだ。ただし、封鎖が180日を超えて長期化した場合、他国からの輸入だけで供給不足を完全に埋めることはほぼ不可能となる。
鍵は再エネーー欧州に学ぶ長期的なレジリエンス
日本国内の再エネ資源は決して不足しているわけではない。太陽光発電で2,000ギガワット超、風力で約1,000ギガワットの技術的ポテンシャルが見込まれており、これは現在の電力需要の10倍以上に相当する。これを一部でも活用すれば、日本のエネルギー安全保障は大幅に改善される。
再エネは、コモディティ(商品先物)価格ショックに対するリスク軽減機能も果たす。太陽光や風力はいったん建設されれば燃料コストゼロの電力を供給し続け、ホルムズ海峡危機のような価格変動から家庭や産業を守ることになる。
欧州の状況はその好例だ。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、EU各国政府は、風力太陽光および省エネ対策を迅速に強化し、その結果2023年までに天然ガス消費量を18%削減した。これによって、ロシアからのパイプライン供給が激減しても、貯蔵量を確保し、卸売価格の維持に成功した。
日本の「三重苦」を強みに変える再エネ
ホルムズ海峡にまつわるリスクは、地理的チョークポイント、地政学的対立、そして化石燃料へのほぼ全面的な依存という「三重苦」によって構成される。日本は湾岸危機のたびに重大なリスクに直面している。福島第一原発事故後も再エネ導入が停滞したことが、こうした脆弱性をさらに悪化させている。
しかし一方で、そこには転換のチャンスも存在する。風力、太陽光、電化への大胆な投資を行えば、2030年までに化石燃料の輸入を大幅に削減することが可能であり、日本の「弱点」を、低炭素かつ競争力ある「強み」へと転換させることもできるだろう。
この記事はEnergy Tracker Asia掲載のEric Koonsによる記事 “Japan Most at Risk from Disruption in the Strait of Hormuz”(公開日2025年7月9日)を翻訳、編集の上公開しています。
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