【過去最高の猛暑が経済を冷やす】2025年暑すぎる夏の影響
2025年6月18日 – Energy Tracker Japan
この記事の要旨
2025年の夏は、地球温暖化による気温の底上げに加え、ラニーニャや太平洋高気圧の影響が重なり、記録的な猛暑となっている。WMOは今後5年間でさらに記録を更新する可能性が高いと警告している。
一部では猛暑による特需が経済を押し上げると考えられてきたが、気温が35℃を超えると消費行動が鈍化し、むしろ経済を冷やすことが指摘されている。ILOは猛暑による2030年までの世界GDP損失を2.4兆ドルと予測している。
猛暑は気候変動への危機感を高め、消費行動にも影響を及ぼす。消費者は環境負荷の低い製品に対し価格上乗せも受け入れる傾向があり、企業には気候対応と規制への備えが求められる。
地球温暖化による異常高温の夏
「記録上最も暑い」という表現をよく見る数年間だった。2023年6月から世界の月間平均気温は13カ月連続で記録更新。2023年は世界の年平均気温も観測史上最高を記録したが、2024年の年平均はそれを更新し、2年連続で過去最高となった。
猛暑の襲来はまだまだ収束せず、2025年が2024年の記録を更新する可能性も低くない。世界気象機関(WMO)は、2025年から2029年の間に、少なくとも1年が過去最高となった2024年の記録を更新する可能性を80%としている*。

文字通りこれまでにない猛暑が連続する背景には2024年まで発生していたエルニーニョ現象、2025年のラニーニャ現象寄り分布など、自然がもともと持つゆらぎが関係はしているが、主要因としては人為起源の地球温暖化があげられる。
地球温暖化による気温の底上げ、さらに自然現象を極端化させていることの影響が大きい。
35℃超えの猛烈な暑さ続くおそれ
2025年6月17日午前から、全国各地で軒並み気温が上昇し、真夏並みの厳しい暑さが続いている。
身体が暑さに慣れていないこの時期の猛暑は熱中症を始め、健康被害のリスクを高める。皮膚中の血流量が増加しにくく、熱解放が難しいことや、汗でミネラルが失われやすいことなどが原因だ。

暑熱順化(身体が暑さに慣れること)には個人差があるが、数日から2週間程度が必要となる。6月の急な猛暑到来のような状況は、命に関わる健康リスクとなる。
急な気温上昇や激しい寒暖差は、地球温暖化の影響で落差を大きくしながら増加し続けており、この傾向は今後も強まることが予想されている。
▶︎【今年も猛暑の予測】温暖化とラニーニャ現象影響で過去最高の暑さ
異常な暑さの経済影響「猛暑効果」はウソ
一般的に日本では猛暑は経済をまわすといわれてきた。日照時間の増加や、猛暑特需が個人消費を増加させるなどが理由だ。
しかし、実は気温上昇が行き過ぎた場合話は違ってくる。気温が35℃を超えると人々が外出を避け出すため、消費が減少に転じることが指摘されている*。それ以下の気温であっても、暑さ対策で増加した消費は反動による買い控えを引き起こす可能性がある。
行き過ぎた気温上昇は経済に甚大な影響をもたらすのだ。エイドリアン・アーシュト・ロックフェラー財団レジリエンスセンターのリサーチによると、アメリカでの暑さによる経済損失は控えめに見積もっても年間1,000億ドルをくだらないという。
リサーチは労働者の生産性に焦点をあてた内容だが、実際のところ、暑さは、観光、インフラ、医療費、エネルギーコストなどにも大きく影響を与えるため、それらを計算に含めると損失は倍にも膨れ上がる。さらに、将来的には2050年までに約5,000億ドルにも達する見込みだ*。

国際労働機関(ILO)は、特に労働者の日中の屋外労働が妨げられるなどの結果、猛暑によって2030年までに世界GDPの約2.5%にあたる2.4兆ドルの損失が世界的に生じるとしている*。国連機関は、5年程度で8000万人の労働力が猛暑によって失われる試算を発表した。
異常な暑さは経済を強く冷やす。
進む国際規制、炭素累進課税の議論
科学者らは現在、気候システムが人間の活動により、加速度的に気候変動が進行する転換点へと至っているのか、その答えを出すための調査に入っている*。温暖化の進行はすでに科学者の予想を超え、未知の領域に突入したといえるだろう。
「地球沸騰」の時代となり、温室効果ガス(以下、GHG)の排出削減数値が非財務情報の中でも大きな指標となっている。2026年度には国や企業ごとに定めたGHGの排出枠を取引する「排出量取引」が本格的に始まる*。2023年にドバイで開催された国連気候変動会議(COP28)で、化石燃料からの移行が合意され、「資金をどこから調達するのか」について移行金融などの議論が始まっている。

炭素集約度(エネルギー消費量単位あたりの二酸化炭素排出量)の高い活動に対する累進課税を求める声も高まりを見せている*。具体的には、二酸化炭素排出量1トン当たり5ドルを課税した場合には、年間2,100億ドルを移行資金として調達できる、といった具合である。
国際通貨基金(IMF)は、気候変動への対策資金として、二酸化炭素排出と化石燃料採掘に対する課税を長年提唱し続けてきたが、追い風は徐々に強まっている。トランプ政権による米国の後退もあり、国境を越えて課税を行うハードルは低くはないが、フェーズ移行にともない国際規制を後押しする世論が成熟しつつある。
猛暑は企業の好機となり得るのか
一方で、消費者の心を掴み、成長を遂げる親環境企業の活躍が著しい。気候変動への危機感の高まりに上手く適応し、環境に配慮した商品やサービスの提供が評価されている。
グリーン・マーケティング市場の成長は右肩上がりの成長を見せ、2021年の約492.5億ドルから、2031年には約700億ドルへと毎年約3.58%拡大することが予測されている*。

年々暑くなる夏、日々飛び込む気候災害のニュースに触れて高まる危機感が消費者の関心に変化を起こしている。
持続可能な製品やサービスに関連するGoogle検索数は、2017年から2022年にかけて約3割増加した。消費者のサステナビリティへの貢献の意欲は高ま、マッキンゼーの2020年の調査では、全回答者の66%、ミレニアル世代の75%が購入の際に持続可能性を考慮すると回答した*。
グローバル経営コンサルティングファーム、ベイン・アンド・カンパニーの2023年の調査によると、環境負荷の低い製品に対して、消費者がより多くの金額を支払う傾向にあることもわかっている。環境への影響を最小限に抑えるために、平均して1割以上の値上げを許容するという*。
同調査では、平均値を下回りはするが、日本においても消費者は環境負荷の低い製品には、6%を上乗せして支払っても良いと回答している。
企業には、消費者のニーズの変動への理解、そしてこの先に起こり得る国際規制への準備が求められ、事業コンセプトの路線変更を迫られる場合もあるだろう。
続く「過去最高の暑さ」には、気候変動が加速的であることを体感させられる。高まる危機感は、消費者に環境への配慮をより厳しく値踏みさせるようになる。グリーンビジネスへの投機というよりは、乗り遅れへのデッドラインが迫っている。
(2024年6月1日の記事を再編集)