日本型のLNG投資モデルとは? 迫る供給過剰リスク

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日本型のLNG投資モデルとは? 迫る供給過剰リスク

静岡県清水港に停泊するLNG輸送船。Photo: korinnna/Shutterstock

欧州で「日本型モデル」と呼ばれるLNG投資の全貌を解説。LNGの海外転売を前提とした投資モデルのコストとリスク。

2025年4月7日 – Sam Reynolds / IEEFA / Research Lead, LNG/Gas, Asia Christopher Doleman / IEEFA / LNG/Gas Specialist, Asia

最終更新日:2025年4月14日

海外の液化天然ガス(以下、LNG)輸出プロジェクトに直接投資し、共同購入を行うLNG投資アプローチが「日本型モデル」と呼ばれている。「日本型モデル」のLNG投資の特徴とこの先考えられるリスクについて。

この記事の要旨


欧州委員会が最近公表した「手頃な価格のエネルギーに関する行動計画」で、LNG輸出プロジェクトに直接投資し、共同購入を行うという投資スタイルが「日本型モデル」として、欧州の輸入業者に向けて提案された。

この「日本型モデル」とされるLNG投資の流れは極めて複雑で、高コストかつ多額の公的支援が必要となり、LNGバリューチェーン全体にわたって多数のプレーヤーが介在することとなる。

日本企業は国内の需要が減少する中、取引能力を開発しつつ新たな供給源への投資を行っている。余剰LNGの海外転売には、マーケティング、輸送、サプライチェーンの下流部門に関する専門知識が必要とされ、さらに企業は国内市場の固定化された収益と比較して、不確実なキャッシュフローに晒される。

欧州は地域の需要減少にともない、LNG輸出に際して、より重大な課題に直面する可能性が高いだろう。長期的に見て化石燃料への依存を強めるだけのLNG投資にリソースを費やすよりも、ガス需要の削減やクリーンエネルギー技術の促進に資源を費やす方が賢明といえる。


LNG投資の「日本型モデル」とは何か

2025年2月、欧州委員会は、クリーン産業ディール(欧州の競争力強化と脱炭素化のためのロードマップを示した政策文書)の一環として、エネルギー価格の引き下げ、市場の安定化、欧州エネルギーシステムに対する将来的なショック緩和を目指し、「手頃な価格のエネルギーに関する行動計画」を発表した。同計画は、輸入化石燃料がエネルギーコスト高騰の主な要因であると認めつつ、より安価な再生可能エネルギーとエネルギー効率の高い代替案を急ぎ開発することを推奨している。

しかし同時に、この行動計画では、「日本型モデル」と銘打たれるLNG投資導入の検討が提案されていた「日本型モデル」とは、輸入業者がLNG輸出プロジェクトに直接海外投資を行い、共同購入を行う投資アプローチを指している。ここには、いくつかの重要な疑問が提起される。実際のところ、日本が行なっている投資アプローチはどのようなものなのか。「日本型モデル」にはどのようなコストとリスクがともなうのか。そして最も重要なこととして、エネルギー価格を引き下げるために、日本を手本とすることははたして正しいのか。


複雑で高コスト「日本型のLNG投資モデル」

日本におけるLNG投資のアプローチは、単一の設計図というより、70年以上かけて発展してきた政策指針、金融的手段、エネルギー安全保障上のインセンティブの集合体だ。これらの施策は、単なる輸出プロジェクトではなく、LNGバリューチェーン全体を支えている。より強固な市場の構築により、日本は豊富なLNG供給源へのアクセスだけでなく、余剰LNGを転売するための需要先へのアクセスも得やすくなる。

「日本型モデル」には様々なプレーヤーが関わっている。たとえば、国際協力銀行(JBIC)のような公的金融機関は、LNG融資を通じて国内のエネルギー安全保障を確保するという法的義務を負うことが多い。国際協力機構(JICA)や、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などの政策金融機関は、主に海外における日本の国益を支援する目的で、資金援助や技術支援を提供している。さらに、日本貿易保険(NEXI)は、海外取引を行う日本企業に対して保険や保証を提供している。

国内企業によるLNG購入資金調達の想定案件
国内企業によるLNG購入資金調達の想定案件(出典:経済産業省、資源エネルギー庁

その結果、日本は化石燃料分野における世界最大級の公的資金供給国の一つと見なされている。日本の公的金融機関は過去10年間で、主に融資や保証を通じて海外のガスプロジェクトに560億ドルを拠出してきた。中でもJBICは最大の資金提供者であり、2016年以降、ガスおよびLNGプロジェクトに約190億ドルを投じている

こうした公的資金の投入は化石燃料投資の採算ラインを下げる効果があり、民間の日本企業や金融機関が、政府系の保険、保証、融資、出資といった支援とともにLNGプロジェクトに参加することを後押ししている。日本の三大メガバンク(三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほ、SMBCグループ)は、世界でも有数のLNGプロジェクトの資金提供者であり、2021年から2023年の間に270億米ドル以上を提供している。

経済産業省は、2030年までに日本企業が年間1億トン以上のLNG取引を行うことを目標に据えている。2014年以降、日本の国内LNG需要が25%減少していることを考えると、この固定目標は、企業が新規LNG供給への投資を継続すると同時に、より多くのLNGを海外転売しなければならないことを示唆している。


LNGの海外転売に注力する日本

日本の長期調達戦略とLNGプロジェクトへの投資は、将来のエネルギー需要の不確実性に対処しつつ、業界での支配的地位を維持し、より有利な価格を確保することを目的とする。最近の日本の商社は、世界有数のLNG輸入企業として、オーストラリアとの交渉で見せたように、強い態度でグローバルサプライヤーとの価格交渉を行う構えだ。

静岡県清水港に停泊するLNG輸送船
静岡県清水港に停泊するLNG輸送船。Photo: korinnna/Shutterstock

とはいえ、日本国内のLNG需要が再エネと原子力に取って代わられていることを考えると、日本企業には余剰LNGの転売スキルも求められる。日本の大手LNG買い手企業は、国内需要の減少を理由に、南アジアや東南アジア市場向けたLNG転売拡大を繰り返し表明している。

▶︎2023年度の日本企業によるLNGの海外転売は過去最高量を記録

LNG転売を行うには、トレーディング、マーケティング、海運、およびバリューチェーンなどの下流部門での高度な専門知識が必要となる。日本の主要買い手企業の多くは、主要市場にトレーディングデスクを設置し、LNG運搬船を直接チャーターすることで、裁定取引の機会にリアルタイムで対応できる体制を整えている。さらに、輸入ターミナル、ガス供給網、発電所などの下流の部門に投資することで現地需要を喚起し、転売の機会を創出する。実際、日本企業は2024年7月時点で、東南アジア全域で30を超える下流ガスプロジェクトに関与している。

欧州の石油ガス大手の中にはこうした能力を有する企業もあるが、LNGトレーディング事業の立ち上げは、高コストでリスクの高い取り組みといえる。LNG転売事業にますます注力する日本のガス事業者は、国内市場における安定した規制収益から、グローバル商品市場の激しく変動する収益構造へと実質的に移行しつつある。このような不確実性の高いキャッシュフローを受容する姿勢は、企業の信用格付けや、株式、債券の投資適格性に影響を与える


「日本型モデル」はLNGを安価にしない

日本のLNG戦略は数十年にわたって形成され、公的および民間双方の多大な資金支援が投入されてきた。LNGバリューチェーン構築への支出に加え、2024年にはLNG輸入額が2016年の300億ドルから410億ドルへと急増している。需要は減少し、なおかつ日本のバイヤーが世界市場に一定の影響力を持っているにもかかわらず日本のLNG輸入費用は増加している。

また、LNGの長期購入契約は、スポット市場の変動から日本を守る緩衝材の役割を果たすが、それでも税関データが示す通り、ロシア政府のウクライナ侵攻後の2022年には、同国のLNG輸入額が640億ドルを突破し、記録的な貿易赤字を招いた。LNGへの強い依存の結果、日本の家庭用電気料金はアジア全体の平均の2倍以上に達していることが指摘されている

2024年9月の日本の住宅および業務用電気料金(1kWhあたり米ドル)
2024年9月の日本の住宅および業務用電気料金(1kWhあたり米ドル)
同時期の世界の平均電気料金は、住宅ユーザーの場合1kWhあたり0.155米ドル、企業向けの場合1kWhあたり0.152米ドルとなる。(出典:GlobalPetrolPrices.com)


日本国内のLNG需要が減少する中、大手日本企業は新たな供給源に投資しつつ、アジア全域の主なLNG成長市場との取引関係の強化やトレーディング部門の拡充を進めている。しかしこの動きは、差し迫っている世界的なLNG供給過剰のリスクに日本企業を晒すことになる。


▶︎世界と日本のLNG市場の現実的な今後の見通し

同様に自国内の需要を減少させながら、欧州が「日本型モデル」と呼ばれるバリューチェーン全体に関わる複雑で高コストなアプローチを真似て、LNGを海外転売しようとすれば、日本以上に重大な課題に直面する可能性が高い。長期的な化石燃料への依存を固定化するだけのLNG投資や契約に資金を投じるより、むしろ、ガス需要の削減やクリーンエネルギー技術の加速にリソースを振り向ける方が賢明だろう。

この記事はInstitute for Energy Economics & Financial Analysis (IEEFA) 掲載のSam Reynolds, Christopher Dolemanによる記事 “The “Japanese model” of LNG investment is not suitable for Europe”(公開日2025年3月25日)を翻訳、編集の上公開しています。


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