花粉飛散量2025年は四国近畿で倍 花粉症が気候変動で悪化
2025年3月19日 – Energy Tracker Japan
花粉飛散の長期化が進み、花粉症患者が増加している。日本人の3人に1人はスギ花粉症といわれている。待ち遠しいはずの春が、重苦しい季節に変わりつつある背景には気候変動の悪化がある。
この記事の要旨
花粉症患者が世界的に増加している。日本でも10年ごとに約10%ずつ増加し、2019年の段階で3人に1人以上がスギ花粉症と推定されている。
2025年の花粉飛散予測は、全国平均で平年比165%増加。気候変動によって花粉が増加、花粉飛散の期間が長期化しており、気候変動の悪化にともない、花粉症の健康被害のさらなる深刻化が予想されている。
花粉への曝露で、体内に蓄積された抗体が一定量を超えると花粉症が発症しQOLを落とす。飛散花粉量の増加のために、発症までの期間が短縮されているが、特に小児に顕著となっている。花粉症の児童には、集中力の低下などの影響が認められている。
花粉症に悩まされる人が年々増えている
花粉アレルギー、いわゆる花粉症患者の世界的な増加が止まらない。一般に花粉症として知られるのは、アレルギー性鼻炎だが、2023年には全世界で4億人以上が罹患しており、有病率は成人で10~30%、小児では40%を超えている*。日本ではスギやヒノキによる花粉症が多いが、ヨーロッパではイネ科、アメリカではブタクサ、オーストラリアではアカシア(ミモザ)、南アフリカはイトスギなどさまざまな草木がアレルギーを誘発している*。
アメリカの2019年の研究では、植物を由来とする健康被害は毎年約3.5〜6万件に上った。これらの数字は気候変動を背景に90年までに14%増加する見通しだ*。また春が短いロシアでも花粉症罹患者が増加している。全ロシア世論調査センターの2019年の調査では、約4分の1のロシア人が植物を原因とするアレルギーを発症していることを発表した*。
日本はどうか。日本耳鼻咽喉科学会の調査結果によると、花粉症の有病率は1998年が19.6%、2008年が29.8%、2019年は42.5%であり、10年ごとに約10%ずつ増加している*。日本は国土に占めるスギ林の面積が広大で、全国の森林の18%、国土の12%を占めている。2019年には3人に1人以上の38.8%がスギ花粉症と推定された。
2025年国内の花粉飛散量の予測
花粉の飛散量は、前年春の飛散量が少ないと増え、多いと減少する傾向がある。2024年春は花粉の飛散量が抑えられた地域が多かった。そのため2025年は、東北北部と北海道をのぞき、全国的に花粉量が増加すると予想されている。特に近畿では例年比で190%、前年比では380%、四国は例年比210%、前年比では840%と、これまでとは比較にならない飛散量が予測されている*。全国平均では、平年比165%増加の予測となり、これは過去10年と比較しても最大となる可能性が高い。
気候変動によって花粉は増加し飛散期間は長期化
海外においてもアメリカとカナダでは、花粉シーズンの問題がすでに深刻だ。1990年から2018年にかけて、北米60カ所の観測拠点で得られた花粉関連の指標を調査した結果、花粉飛散の時期は20日早まり、飛散日数は8日長くなっていた*。
背景には気候変動の問題がある。花粉の飛散は、気温や雨量の変化と密接に関係する。2024年には世界全体の気温が産業革命以前と比べて1.55℃上昇し、観測史上最も暑い年となった*。そのために花粉飛散の時期は大幅に早まり、期間も長期化したと考えられている。花粉の個数も、1990〜2018年の間に約30%増加、春の花粉シーズンに限ると、増加率は21.5%にも上った*。
大気中のCO2濃度の増加が温暖化の最大の要因となっていることは科学的に合意されているが、CO2濃度の上昇は、植物の光合成と生殖作用を高め、花粉をより多く生産させる要因にもなっている*また、CO2濃度の上昇によって、花粉アレルゲンが効力を強めていることも指摘されている。
花粉症は気候変動によって症状が悪化している典型的な疾患といわれている。気候変動が悪化し続ければ、花粉症の健康被害もさらに深刻化することが予想される。
花粉症のメカニズム なぜ花粉症が起きるのか
花粉症は、人間の体内に入った花粉という異物を排除しようとするメカニズムだ。人間には異物である「アレルゲン(抗原)」に対して抗体を作り、異物が再度侵入した場合に排除しようとする正常な免疫反応がある。しかし、この免疫反応が過剰になると生活への支障を起こすなど、身体にマイナスに働く反応が出てしまう。
花粉が体内に入ってもすぐに花粉症になるわけではない。アレルギーの素因を持っていない者は花粉症にはならないからだ。アレルギー素因者は、体内に花粉が入るとアレルゲンを認識する細胞(マクロファージ)が、花粉のアレルゲンに対する情報をリンパ球のT細胞に送る。さらにT細胞はアレルゲンの情報を同じリンパ球のB細胞へ送り、花粉にぴったりと合う「抗体」を作り出す。この状態を「感作」と呼ぶ。いったん感作が成立した後に、再度アレルゲンが体内に入ると、IgE抗体が付着しマスト細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、くしゃみや鼻水などのアレルギー症状を引き起こす*。
人により異なるが、数年以上花粉を浴び続け抗体が一定量を超えることで感作が成立してしまう。近年は飛散する花粉量が増加したため、その期間が短くなり、花粉症患者が増加した。特に小児患者が増えている*。
花粉対策が生活を変える未来
気候変動の影響により、花粉による健康被害は拡大する可能性が高い。中長期的には花粉症患者の発生率は増加する予想だ。花粉症は、生活の質(QOL)や学業、仕事の能率を落とす。花粉症のある児童とそうでない児童とでは、集中力の低下などから成績に差が出ることもわかっている*。治療や受診、入院にかかる費用も高額なため、個人への負担も深刻だ。
世界的に治療にかかる抗ヒスタミン剤や吸入器などの直接的コストや、欠勤や生産性低下といった間接的コストの推計は、数十億ドルに上ると言われている。人口950万人のスウェーデンでの研究では、コストが年間13億ユーロ(約2,100億円)を超えていることが分かった*。
日本ではいまや花粉症は「国民病」と呼ばれている。花粉症による労働力低下の経済損失は1日あたり2,320億円という試算もあり、打撃は大きい*。政府や自治体はアレルギーシーズン長期化の影響緩和に取り組むと同時に、根本的な原因である気候変動対策により重きを置く必要がある。効果的な対策が講じられなければ、花粉症は人にも経済にも今後ますますダメージを与える。