暖冬で雪不足なのにドカ雪「どうして?」
Photo: MAHATHIR MOHD YASIN/ShutterStock
2025年1月23日 – Energy Tracker Japan
近年「50年に一度」レベルの雪不足が多発している。しかし、一方で雪害をともなうドカ雪に見舞われる地域も。雪の振り方に変化が起きている。原因は気候変動による地球温暖化だと考えられている。
日本の雪の降り方が変わる
北海道をはじめとする、日本北部地域のきめ細かな粉雪、パウダースノーは、「JAPOW(ジャパウ、ジャパンパウダー)」*とも呼ばれ、世界的な人気を集めている。
パウダースノーの代表的地域である北海道のニセコエリアは、インバウンド観光客向けのホテルやレストランが多数あり、世界有数のリゾート地として名高い。北海道以外でも、日本の積雪寒冷地では、ウィンタースポーツや冬季観光を主な収入源とし、地域経済を潤している。
しかし近年、積雪地であるはずの地域で雪が十分に降らず、雪不足が深刻な問題となっている。
2024年には、山形県で、雪不足のために1日も営業できないスキー場が現れた*。長野県白馬村では、この30年で降雪量が約1メートル減少。同村の八方尾根スキー場は、通常5月の連休まで営業するが、雪不足で4月末に営業終了せざるを得なかった*。
北海道札幌市の一大イベントである雪まつりは、ここ数年、雪不足のため周辺自治体から雪を輸送するなど対応に苦心している。全国のスキー場が雪不足にあえぎ、スキー場の利用者は1990年代初頭のピーク時から現在4分の1にも減ってしまった*。
雪質にも変化 失われるパウダースノー
また、雪質にも変化が起きる可能性が高く、希少なパウダースノーがベタ雪に変わってしまうかもしれない。
水分量の少ないパウダースノーは、低気温の条件下で、上空で氷粒子に付いた水蒸気が結晶化することにより生まれる。一方、気温が高い場合には、水蒸気ではなく水滴が付着して凍るため、水分量の多い重たいベタ雪になるのだ。
北海道大学大学院理学研究院と気象研究所は、地球温暖化が進んだ未来では、気温上昇で北海道の雪も本州並みに重くなることを指摘する*。
雪不足や雪質の変化は、ウィンタースポーツにも大きな影響を与える。実施困難になるほか、選手の怪我に繋がる恐れもある。この事態に、有志のアウトドアメーカーやオリンピック選手が、政府に気候変動対策強化を求めて提言書を提出するなどの動きも起こっている*。
雪不足と大雪災害が同時に起きる
一方で、雪が減るなら当然減りそうなものである雪による災害リスクは減っていない。
気象庁気象研究所の発表では、10年に1度レベルの大雪のリスクが、東日本の山沿い地帯や北海道で増加、特に北陸地方では約5倍に増えているという。全国的な降雪量は平均を下回っていたにもかかわらずだ*。2015年の12月から2021年3月までの間に、24時間降雪量が記録を更新した地点は、全国で60カ所以上に上った。積雪量が減少する一方で、短時間に大量に降るいわゆる「ドカ雪」は発生しやすくなっているのだ。
雪氷災害の増加と温暖化の相関は、これまでにも気象専門家によって多数指摘されてきた。1度上昇するごとに、7%多く水蒸気を含むことができる大気の性質上、降雨同様に降雪も局地化、極端化が進み、予測困難になるため、これまであまり雪が降らなかった地域でも雪による災害が発生すしやすくなる可能性があるという。
しかし、このまま気温上昇が続けば、降雪量自体は当然減少を続けることになる。温暖化対策が進まなければ、2100年頃には日本の積雪量は約7割減ると予測される。大雨、大雪による災害リスクは増えるのに、雪が必要な地域は雪不足に悩まされるという皮肉な状況は今後も加速することになる。
近年の積雪による災害
ここ数年に日本国内で発生した大雪の災害事例を振り返ると、大雪による被害が深刻であることが見てとれる。
2023年1月に、大雪の影響で各地の高速道路で立ち往生が発生したことは記憶に新しい。新名神高速道路で三重県から滋賀県にかけて、34.5キロの立ち往生が発生し、解消に丸一日かかった。今年2025年には、青森県で積雪が平年の3倍を記録する大雪が発生し、災害として対応されている。
年代 | |
2022年 | 札幌市を中心とした大雪で24時間降雪量が記録更新。交通網に多大な影響を与えた。 |
2020年 | 北日本から西日本の日本海側を中心に大雪。群馬県藤原で48時間と72時間の降雪量が歴代全国1位を更新。多数の車の立ち往生が発生し、交通障害や除雪作業中の事故が発生。 |
2018年 | 1981年の「五六豪雪」以来の記録的な大雪。除雪作業中に屋根から転落するなどして22人が死亡、約300人が負傷。石川県、福井県の国道8号で車が1,500台以上立ち往生。 |
2017年 | 関東甲信地方の山地を中心に大雪が発生。急激な積雪量の増加で、栃木県那須町のスキー場で雪崩に巻き込まれた8人が死亡、40人が負傷。 |
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大規模な雪害は日本だけではない。2024年11月韓国ソウル市が大雪に見舞われ、積雪16.1センチを記録した。ソウルでこれまで観測された1日の積雪量としては史上最大となり、これによって光州など近隣の市は数百世帯が停電、航空便150便が欠航または遅延した*。
雪の変化による経済影響
気候変動による積雪量の減少や雪質の変化は、日常生活のみならず経済にも大きな影響を与える。
2023年の雪不足によるスキー場の倒産はリゾート会社やホテル、第三セクターなど合計7件に上り、これは過去10年で最多の数である*。また、暖冬、小雪の影響で冬季イベントの中止を余儀なくされている積雪寒冷地も多く、地域経済が打撃を受けている。
除排雪業者や冬物商品を扱う小売業者などへの影響も少なくない。11~2月の気温が高くなることで、使い捨てカイロや家庭用手袋といった冬用商材の売上が落ちている*。
また、近年では、短期間に発生する猛烈な積雪により、農林水産業にも多くの被害が発生している。例えば2020年から2021年にかけて発生した大雪では、東北、北陸地方をはじめ、全国的に農業用ハウスや畜舎等の倒壊、果樹の枝折れなど、多数の被害が報告された。
雪による農作物等の被害は2020年は約230億円に及ぶ。その他、水産業や林業においても漁船の被災や雪崩による森林損壊など、経済的損失は多大だ*。
日本は世界有数の雪大国だ。国土の半分が豪雪地帯に指定される日本に住む人々は、雪とともに生活し、雪にあわせた工夫や知恵、文化を育んできた。雪の変化を実感する人はすでに多いだろう。気候変動という原因に正しく対応する必要がある。