【なぜいつまで続く】円安を活かすエネルギー戦略
2024年6月17日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年12月9日
円安基調が続く日本。エネルギー自給率の低さが引き起こす負の相乗効果が日本経済の未来に影を落としている。しかし、その一方で国内エネルギーへの投資に期待が寄せられる。円安を活かし、今後日本で爆発的に伸びる可能性があるエネルギー分野とは?
歴史的円安の推移とその原因
34年ぶりとなる歴史的な円安が長期化している。2024年4月には円相場が一時1ドル160円台まで急落。政府、日銀は、少なくとも4月29日と5月2日の2回に渡って為替介入を行ったとみられている*。
為替介入とは
為替介入とは、わかりやすくいうと、為替相場の急激な変動を抑え、安定化を図る目的で、通貨当局が行う外国為替市場での通貨間の売買を指す。2024年4月に行われた為替介入は、2022年10月以来およそ1年半ぶりとなった。これは、直後に有無を公表しない、いわゆる「覆面介入」だった。規模は、財務省の5月31日の発表で、額として過去最高となる総額9.8兆円に上ったことがわかっている*。
G7間では「為替の過度な変動や無秩序な動きが経済に悪影響を及ぼす」という合意があり*、この為替介入は、当局が4月末の急落を「過度な変動」と判断しての動きだった。鈴木俊一財務相は、「今後も為替の動向を注視し、万全の対応を取っていく」と話した*。しかし、イエレン米財務長官は、「為替介入は極めてまれであるべき」など、日本の為替介入にあてたと思われる不満をたびたび表わにしている*。また、国内からも、売買によって「含み益」といわれる差益が出たはずとの指摘も出た。
円安どうしていつまで続く?
円安の主な理由には、日本の金利が他の国々より低いことがあげられる。2024年5月22日に、日銀による追加金融政策修正への見込みが、市場の長期金利をおよそ11年ぶりに1%台に押し上げた*。しかし、日本金利は依然として米金利を大きく下回っている。さらに、短期的な為替相場には金利差が大きく影響するが、長期的な相場には人口減少や経済の低成長など、構造的な要因が色濃く反映される。
現在のところ、「日米金利差の縮小で円高転換」という予測シナリオは外れ続けており、為替介入が円安を歯止めする効果も一時的なものとなった。円は約1年でおよそ15円値下がりし、その後も小規模の揺り戻しを起こしつつ1ドル150円前後の水準でドル高基調が続いている。
円安に拍車をかける輸入エネルギー
日本はエネルギー資源の約9割を輸入に頼っている*。 液化天然ガス(以下、LNG)を中国に次いで世界で2番目に多く輸入し*、原油の輸入量も世界第5位となる**。
政府が2024年6月4日に閣議決定した2023年度版のエネルギーに関する年次報告「エネルギー白書2024」によると、2020年に11.3兆円だった化石燃料の輸入金額は、輸入量に大きな変動がないにもかかわらず、2022年に33.7兆円と約3倍に急増した。ここで、年間20兆円を超える過去最大の貿易赤字を記録し*、続く2023年も輸入金額は27.3兆円と高止まりしている。
貿易収支の赤字化には、ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の悪化による資源価格高騰の影響が大きく、さらにそこに拍車をかけたのが円安だ。
つまり、円安が輸入エネルギーの価格を引き上げ、エネルギー自給率の低さがエネルギー価格の上昇にともなう円安を加速させている。負の相乗効果が日本から資本を流出させてといえる。
燃料価格高騰と倒産件数の増加
エネルギー価格の上昇は、他分野にも連動して価格上昇を引き起こし、経済に損失を与えた。エネルギーコストが大幅に上昇することは、多くの企業にとって死活問題となる。帝国データバンクが2023年4月に行った「電気料金値上げに関する企業の実態アンケート」では、値上がりした電気料金を販売やサービス価格に転嫁できていない企業が半数を超えている。原材料価格の価格転嫁が優先され、電気料金までは厳しいという声が目立った。
2024年5月の円安関連倒産は、前年同月比33.3%増となり、2020年以降最多となった。長引く円安は、物価やエネルギー価格の上昇と絡み合い、企業活動に悪影響を与えている*。この悪循環から抜け出すために、最も早急に取り組むべきはエネルギーにおいての自給率向上、そして競争力向上の施作だ。
景気回復と投資の鍵は再エネ
現在のところは日本経済の足かせとなっているエネルギーだが、再エネに限ると日本でも意外に大胆な動きが目立っている。経済産業省は2024年4月4日、円安に伴う原材料価格の上昇などに対応するため、脱炭素事業に投資するグリーンイノベーション(GI)基金から追加支出する方針を示した。コスト上昇の影響が大きい事業に合計で最大3,900億円を投じる*。
国内における再エネ由来電力の2040年度の市場は、2022年度比で13.2倍の5兆1634億円に成長。電力、天然ガス、液化石油ガス(LPG)販売額のおよそ17%を占めると予測されている*。
世界的にも、再エネの世界的な市場規模は2022年に1.04兆米ドルを超えた。2023年から2030年の間に19.4%以上の年平均成長率(CAGR)で成長し、3.96兆米ドルに達する見込みとなっている*。COP28では、「再エネ発電容量2030年までに3倍」という目標が掲げられ、その指針はCOP29後も維持されている*。
しかし、現在のところ、国産再エネ設備のシェアは国内においてすら振るわない。例えば、国内供給される太陽電池では、2013年度の73%から2020年度には43%と国産が年々減少、海外産が増加傾向にある*。
円安のメリットをどう活かすのか
海外勢に押される日本の再エネ市場だが、円安の逆風は、再エネ設備の国内生産にとっては好機とも考えられる。これには企業がある製品を一定量作るのに必要とする労働経費「単位労働コスト(ULC)」が関係する。
現在日本では、1ドル150円を中心に為替相場が推移しているが、150円を割った日本は中国よりも安い生産拠点となるからだ*。実際に、海外からは工場としての日本に熱視線が注がれている。
円安にともなう製造拠点の国内回帰の風潮がすでに起きている。これを活かし、一挙に再エネ設備の国内生産ラインを増やす試みが成功すれば、国産再エネモジュールの技術革新、量産化の実現が、再エネ普及におけるコスト問題を解消し、ゆくゆくはエネルギーの輸入依存度を引き下げることができる。
利点はそれだけではなく、国産再エネへの投資は、国内メーカーの国際再エネ市場への返り咲きにも繋がる。国産再エネ設備の開発、製造への投資は、日本にとって一石二鳥、三鳥ともなる起死回生の切り札となり得るのだ。
ただ、LNGや、水素、アンモニア混焼等、未確立分野のエネルギーに資金を振り向ける動きには注意が必要となる。再エネにカウントされない日本独自の「クリーン」エネルギーは、世界水準の再エネにカウントされない*。そのズレを修正しないままでは、日本はグローバルなエネルギー市場の成長から取り残され、経済的な負のスパイラルからの脱出は叶わない。
世界的な需要増に合致するメイド・イン・ジャパンの再エネ設備に磨きをかけ、エネルギー自給率を上げることが、円の流出を食い止める最大の手立てとなる。
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