日本のLNG海外転売量が過去最高を記録
東京のネオン(Photo:DiegoMariottini/Shutterstock)
2024年11月29日 – Sam Reynolds / IEEFA / Research Lead, LNG/Gas, Asia Christopher Doleman / IEEFA / LNG/Gas Specialist, Asia
2023年度の日本企業によるLNGの海外転売が過去最高となった。国内需要を減らしているにもかかわらず、輸入量を維持した結果、転売量は2018年度以降2.5倍に増加している。国際的な脱化石燃料の潮流に逆行するエネルギー戦略にはリスクはが大きい。
これまでで最も多くのLNGを転売した日本
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下、JOGMEC)が30社を対象に実施した最新の調査によると、日本企業は、2023年度に海外市場に過去最大量の液化天然ガス(以下、LNG)を転売した。2023年の4月から3月までで3,825万トンに達したLNG転売量は、これまでの過去最高値であった2021年度の3,811万トンを上回った。
一方、日本の燃料需要は6,489万トンで、2022年度比で8%減となった。データによると、2023年度には日本企業のLNGの総取扱量のうち、国内で消費されずに海外転売された割合は37%となり、5年前の16%から上昇している。
いまや日本は世界最大のLNG輸入国の一つだ。しかし、原子力発電所の再稼働や再生可能エネルギーの拡大による需要減にともなって、大手企業はより多くのLNGを海外に転売するようになっている。
需要減でも維持されるLNG輸入量
エネルギー経済・財務分析研究所(以下、IEEFA)は2024年3月、世界のLNG産業に大きく影響するこうした日本の傾向についてレポートを発表した。
国内需要が減少しているにもかかわらず、日本政府は現在のLNG取引量を維持する方針だ。経済産業省は国際資源戦略において、世界市場での日本の影響力を堅持すべく、少なくとも年間1億トンのLNGの取り扱いを継続するよう企業に向けて指針を示している。
その結果、2023年度のLNG総取引量は前年度比1%増と横ばいで推移した。しかし、この期間に国内需要が急減したため、必然的により多くのLNGが海外に転売された。日本のLNG輸入量は2014年にピークを迎えているが、転売量は2018年度以降2.5倍に増加している。
日本のLNG転売は、2023年度のオーストラリア、マレーシア、ロシア、米国、パプアニューギニアという主要LNG取引相手国からの輸入量を上回る。また、世界第4位のLNG輸出国ロシアの年間総生産量をも超える量となった。
LNG投資はエネルギー安全保障のためなのか
日本はまた、G7が海外の化石燃料プロジェクトへの財政支援を段階的に廃止すると公約しているにもかかわらず、世界中のガスやLNGプロジェクトに対し、世界最大規模の公的資金投入を続けている。日本政府は、こうした投資は自国のエネルギー安全保障のために不可欠だと主張し、LNG市場での売買を妨げる可能性のある動きを阻止するロビー活動を展開してきた。
とはいえ、国内需要を減少させながらLNGを大量転売する日本の現状は、LNG投資の本来の目的が、大手日本企業の商機拡大にあることを物語っている。LNGを取り扱う日本大手企業は、南アジアや東南アジアなどの新興マーケットへのLNG販売を企業戦略としてたびたび表明している。
この戦略に沿って、日本企業はサプライチェーン全体にわたる海外のLNGインフラの開発を支援してきた。IEEFAとロイターのデータによると、日本企業は南アジア、東南アジア、台湾の全域で30以上の異なるガスおよびLNG関連プロジェクトに投資している。これらプロジェクトには、LNG輸入ターミナル、火力発電プラント、ガス販売事業などが含まれる。
国内のエネルギー需要の見通し
一方、現在の日本のエネルギー計画に照らせば、日本のLNG需要は2030年まで減少し続けると予想される。LNG輸入量は2024年10月までに1%増加したが、需要は2014年から2023年の間に25%減少した。IEEFAは、日本のLNG国内需要は第6次エネルギー基本計画の下で、2030年までにさらに22~31%減少する可能性があると推定している。
ただし、データセンターや他セクターの電化による電力消費の増加に対応するために、より多くのLNGが必要になる可能性があると指摘するアナリストもいる。こうした傾向は、最新の第7次エネルギー基本計画に反映されるだろう。計画草案は年内発表の予定だ。
国内LNG需要の不確実性から、日本のLNG取扱企業は長期契約において、最終仕向地を流動的に選択できるかどうかを重視する傾向を強めている。従来、LNG取引契約には、LNGの転売を防止する仕向地制限が含まれていた。しかし、日本ではこうした仕向地制限のない契約の割合が、2016年度の25%から2030年度には66%へと上昇する見通しだ。
契約の柔軟性に左右される取引
日本企業は、LNGの転売機会をさらに拡大するため、新規契約における仕向地制限の撤廃を支持するよう政府に働きかけている。2021年、日本企業は、カタールとの年間700万トンのLNG購入契約を終了させたが、その理由の一つには契約における厳しい仕向地制限があった。
冒頭のJOGMECの公的調査には、LNG転売の仕出地と仕向地に関するデータは含まれていない。船舶追跡データはLNG取引量を過小評価する傾向にあるが、それによると、日本が転売するLNGの大部分を仕向地を柔軟に設定する米国やオーストラリアから買い入れていることがわかる。仕向先は韓国、中国、台湾、インドなど、アジアの主要LNG輸入国だ。
現在かつてないほど活発な新規輸出の拡大を見せる世界のLNG市場。日本のLNG転売と国内消費の動向は、これに大きな影響を与えている。LNG供給の急速な伸びと、日本や欧州などの主要消費市場での需要減少が相まって、今世紀後半には世界的規模でLNG余剰が発生する可能性が高い。
供給過多の中、LNGを転売し続ける日本企業は、LNG産出国を相手にした熾烈な価格競争に直面することになる。価格下落の圧力が高まれば、取扱業者の財務リスクに深刻な影響を及ぼすことになる。つまり、市場での主導権の長期維持を目論む日本のLNG戦略は報われないかもしれない。
この記事はInstitute for Energy Economics & Financial Analysis (IEEFA) 掲載のSam Reynolds, Christopher Dolemanによる記事 “Japan’s LNG resales into overseas markets hit record high in FY2023 as domestic demand plummeted”(公開日2024年11月19日)を翻訳、編集の上公開しています。