気候変動対策に消極的な日本がオーストラリアのガス産業を支えている
Photo:GrAl/Shutter stock
2024年11月14日 – Wesley Morgan / The Conversation / Research Fellow, Griffith Asia Institute, Griffith University
オーストラリアのガスプロジェクトには、日本からの資金援助がなければ実現し得なかったであろうものが多い。日本こそが、巨大化するオーストラリアの化石燃料ガス業界を巨額の公的融資で支えている。そして、日本はオーストラリアからの輸入量を上回る量のガスを輸出し、今や世界で最もガスを輸出入する国の一つとなりつつある。
日本とオーストラリアのパートナーシップ
現在、世界は再生可能エネルギーと脱炭素技術への投資を加速させ、化石燃料からの脱却を急いでいる。その最中に化石燃料にしがみつき、足並みを乱しているのが日本だ。
世界第4位の経済大国である日本は、長きに渡ってエネルギーを海外からの化石燃料に頼ってきた。近年、中国が国土の砂漠地帯を利用した太陽光発電プロジェクトを進める一方、日本はガスに力を注ぎ続けている。
そして、そうした日本の動きが、日本だけでなくオーストラリアの温暖化対策目標の達成をも遠ざけ、エネルギー産業の脱炭素化を妨げている。新たなガスプロジェクトは、輸出産業から労働力と投資を奪う恐れがあるからだ。
ただ、軌道修正が不可能なわけではない。オーストラリアは政府が掲げるフューチャー・メイド・イン・オーストラリア政策の一環として、グリーン電力、グリーン製造、グリーン輸出に多額の予算を投じている。この影響で、日豪間の永続的なパートナーシップもグリーンなものになる可能性が残っている。
オーストラリアが、日本をはじめ、中国、韓国など、エネルギーを欲するアジア諸国との間にクリーンエネルギーパートナーシップを選んだなら、気候対策協力が促進され、新たな脱炭素エネルギーの輸出拡大、投資促進が起こるかもしれない。
オーストラリアのガス産業を支える日本資金
エネルギー安全保障に頭を抱える日本は、オーストラリアの新しい海外向けのガスプロジェクトに補助金を出している。このプロジェクトは日本からの支援がなければ進まないと考えられる。
日本は、ガス生産における国際的な公的資金の世界最大の供給国だ。オーストラリアを含む他の国々が化石燃料への国際融資を廃止するなか、日本は資金の流れを止めなかった。
例えば2024年5月、国際協力銀行はオーストラリア最大のガス会社ウッドサイドに対し、西オーストラリア沖のスカボローガス田開発のために15億豪ドルもの融資を行った。
電力会社JERAも日本の銀行から12億ドルを受け取り、このプロジェクトの15%の株式を取得し、生産される液化天然ガス(LNG)の持分を得る権利を得た。
こうした財政支援がなければ、新しいガスプロジェクトの前進は困難になると予想される。他の資金提供者が現れる見通しが立たないからだ。
オーストラリアでのガス生産は、立地の悪さに加えて操業コストが高いため割高となる。オーストラリア産のガスプロジェクトは過去10年間を通して、納期の遅れや予算超過が常態化し、投資家の収益も芳しくなかった。
さらに今後数年間、オーストラリアのガスプロジェクトは、国際的に競争力のある価格でのガス供給に苦戦すると予測される。2022年、ロシアによるウクライナ侵攻でLNG需要が急増、そして今、世界にガスが余る事態となっている。
2年後には、主要市場でガス需要が本格的に減少する中、中東(主にカタール)と北米の低コスト生産国から新たに大量のLNGが供給されるようになるだろう。オーストラリア政府は、これらの生産者からのLNG価格が、オーストラリア国内での生産コストを大幅に下回ると分析、予測する。
市場に任せた場合、競争力を失いつつあるオーストラリア産ガスはシェアを失うだろう。しかし、そうはならない。日本が本来採算の取れないはずのプロジェクトを後押ししており、市場任せにはなっていないからだ。その後押しがオーストラリアが有益なグリーン経済へと移行することを困難にしている。
東京のネオンは輝き続ける
2023年3月、当時の駐オーストラリア日本国大使、山上信吾氏は、オーストラリアのガス輸出は東京のネオンを輝かせるために不可欠だと主張した。
実際には、日本はオーストラリアから輸入するよりも多くのLNGを他のアジア諸国に転売している。日本のガス会社は、今後10年間に日本が国内で使用するよりも多くの購入契約を結び、余ったガスをアジア市場に転売する計画を立てている。
これは、東南アジアのLNG基地やガス火力発電所への資金援助と供給を行う日本企業への支援によって、日本政府が東南アジアに新たなガス需要をつくり出した結果だ。
この政策は決して秘密裏ではない。2030年までに、日本政府が毎年1億トンのLNGを「取り扱う」ことは、むしろ公に発表されている。これは日本のエネルギー需要をはるかに上回る。なぜか? 政府は、東南アジアLNG市場に影響力をもたらし、 日本のエネルギー安全保障を担保しようと考えているのだ。
日本にエネルギー安全保障もたらすのは?
ガス業界は、LNG、天然ガスを「石炭よりクリーンな脱炭素移行に必要な燃料」とする印象づけに苦心してきた。
しかし現実には、天然ガスは極めて危険な化石燃料だ。天然ガスの主な成分はメタンであり、メタンは二酸化炭素の80倍の温室効果を有する。産業革命以降に起きた気温上昇のおよそ3分の1(約30%)がメタンに起因する。
オーストラリアのエネルギー企業ウッドサイド・エナジー・グループのCEOメグ・オニール氏は、オーストラリアのガス輸出により「石炭を代替し、アジアの脱炭素化に貢献できる」と主張している。しかし、ガスは石炭と同様、有害な結果を拡大させる可能性が十分にある。メタンガスの漏洩は、ガスのサプライチェーンのあらゆる段階で頻繁に発生している。そして、ごくわずかな漏出が、石炭と等しいレベルの影響をもたらすことになるのだ。
日本はオーストラリア産のガスを他国に転売する一方で、国内の電力網の再エネ化にいとまがない。政府は再エネを倍増させる方針を打ち立て、2019年には18%だった再エネ発電量を2030年までに37%へ引き上げるとしている。ガス火力は縮小の見通しだ。国内のガス需要はすでに減少しており、2022年までの10年間で18%の縮小、2023年は1年で8%縮小している。
再エネへのシフトをさらに加速させれば、輸入ガスへの依存を減らすことで日本のエネルギー安全保障は向上する。最近の分析によれば、日本は2035年までに再エネ90%を達成できる可能性すらある。
オーストラリアをガス大国に仕立てあげた日本の補助金
2017年までの5年間で、オーストラリアのガス産業は巨大な成長を遂げている。2019年までにオーストラリアは世界最大のLNG輸出国になった。米シンクタンクIEEFA(エネルギー経済財務分析研究所)の分析は、オーストラリアのガスの埋蔵地が孤立しているうえ小規模であることから、規格外の成長であることを指摘する。
日本の補助金の大盤振る舞いを筆頭にした「国際的な後押し」によって、オーストラリアは化石燃料大国へと変貌を遂げたのだ。しかし、こうした補助金は長期的にはオーストラリアの利益にはならない。補助金を受けた新規ガスプロジェクトへの資本投下の継続は、未来のためにオーストラリア政府が成長を促進させたいグリーン産業から、投資、労働力、サプライチェーンを奪うことになる。
オーストラリアと日本が関係を断つ必要があるということではない。日本は大量のエネルギーを確保する必要があるが、化石燃料に頼らずともそのエネルギーは十分得ることができる。オーストラリアとの協力体制下で、再エネや電池に不可欠な鉱物、環境に優しいレアメタル、肥料や工業用のグリーンアンモニア、輸送や工業用のグリーン水素を調達できる可能性が十分にあるのだ。
謝辞:Ben McLeod(Climate Council、クオンツアナリスト)とJosh Runciman(IEEFA Australian Gas、リードアナリスト)によるデータを記事で使用した。
この記事は The Conversation 掲載のWesley Morganによる記事 “Climate holdout Japan drove Australia’s LNG boom. Could the partnership go green?”(公開日2024年6月11日)をクリエイティブ・コモンズライセンスに基づき翻訳、編集の上公開しています。