【日本のLNGはあまる】電力会社のシナリオと東南アジアにおける責任
2024年10月3日 – Energy Tracker Japan
日本は、半世紀に渡って世界最大のLNG(液化天然ガス) の買い手として君臨している。しかしLNGはロシアのウクライナ侵攻以来、燃料としての不確実性が浮き彫りとなり、環境影響の見直しを求める声も大きくなっている。LNGサプライチェーンを買い支え、さらに東南アジアに市場開拓を目論む企業の計画の行く末は。
LNGという燃料について
LNGとは、採掘したメタンを主成分とする天然ガスを分離、精製し、マイナス162℃の超低温に冷却した液体を指す。液化することで体積が約600分の1まで小さくなるため、貯蔵に適し、可燃性に優れている*。正式名称を「Liquefied Natural Gas(液化天然ガス)」という。
また化石燃料と比較して、温室効果ガスであるCO2(二酸化炭素)やNOx(窒素酸化物)の発生が少ないことから、クリーンエネルギーとして期待される。しかしLNGが本当に「クリーン」であるかについては議論が大きい。
例えば米コーネル大学のロバート・ハワース教授は、これまでのLNGの気候影響に関する研究において、ガス液化のための冷却に際するCO2排出量が考慮されていない点を指摘する*。また、LNGのメタン排出量は、これまで推定されていたよりもはるかに高いという研究結果が報告されている。個々のガス田を調査した研究では、生産される天然ガス総量の最大6%が漏洩していることが判明した*。
2023年12月には170人の気候科学者が、「LNGは石炭よりも少なくとも24%気候に悪影響を及ぼす」と発表し、メキシコ湾沿岸にLNG輸出ターミナルを増設する計画を拒否するよう求めた。議論を受けて、バイデン米大統領は、2024年1月にLNG輸出の承認の一時停止に踏み切っている。
世界と日本はLNGをどう位置付けているか
世界のLNG業界は、東南アジア、南アジアにおける老朽化した石炭火力発電所のガス転換にともなうLNG需要拡大を狙っていた。それを後押しするため使われているのが「つなぎ燃料」というキーワードだ。つまり、LNGが化石燃料から再エネへのトランジションに有効というロジックである。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、価格高騰や調達困難など、LNGの燃料としての不確実性が浮き彫りとなった。IEA(国際エネルギー機関)は、2025年までのLNG需要の伸びは過去5年間と比べて60%減少すると予想する。実際に、2022年1月〜7月のアジアにおけるLNG輸入量は、2021年の同時期と比べて6%以上減少していた。
ところが、日本においてLNGは再生可能エネルギーへのつなぎや橋渡し的役割というより、石炭に代わるメインエネルギーに見据えられているように見える。現在LNGは日本の総エネルギー消費量の21%を占める。
その9割は海外からの輸入だ。特にオーストラリアからの輸入が多く、生産量や需要の減少に脆弱な両国にとって望ましいとはいえない依存関係だ。
※LNGは中央円グラフ。海外依存度は総合エネルギー統計より、年度ベース
また、世界のLNG産業界での日本の存在感はあらゆる意味合いで際立っている。日本は毎年平均43億ドルを事業に投じる世界有数の公的資金提供国だ*。さらに、日本の大手企業は年間に関連事業から少なくとも140億ドルの利益を得ているとの報告もある*。
日本のLNGは余る
しかし、肝心の国内の電力ミックスにおけるLNG需要は急速にしぼみつつある。2023年で自家消費分を含むと、全発電電力量中推計25.7%へと成長した再エネの影響が大きい*。
このようなエネルギー市場動向の変化により、日本の大手電力会社「JERA」、「東京ガス」、「大阪ガス」、「関西電力」など大手電力会社は2030年まで継続的なLNG余剰に直面する可能性が高い。将来的に余剰は約1,200万トンに達するといわれている*。
そのため日本企業は、余剰LNGで利益を生むために、在庫販売先の開拓を活発化させている。これにはエネルギー安全保障の観点からLNGの調達を維持したい政府の思惑もある。
そのため、契約済み燃料を、柔軟に売買できるアジアでの新興市場での需要開拓が必要なのだ。
電力会社のLNG「転売」プラン
日本は余剰LNGをどのように処分しようとしているのか。一言でいえば「転売」である。
日本企業による第三国へのLNG販売量は、2018年度の1,497万トンから2021年度には3,800万トンへと、2.5倍に増加した。
日本で余ったLNGの今後としては、2通りの予測ができる。
まずは既存の引き取り数量柔軟性と解約権を行使し、企業が追加コストを負担するシナリオ。もう1つは、余剰LNGを海外で再販するシナリオだが、前述の通り進行中となる。日本企業が海外で販売するLNGの量は、すでに国内消費量の約50%に相当する*。
日本政府の熱心な後押しもあり、企業は現在、老朽化し資金繰りが困難になりつつある石炭発電所を抱える国々に、完全なパッケージとしてLNGを供与している。
東南アジアで進む再エネ移行
一方、日本が「転売」を考える東南アジアの国々では、LNGの不確実性や気候変動への影響を理由に再エネに切り替える動きが起きている。
東南アジアの再エネ市場は拡大しており、今後10年間で2050億ドルの投資機会があるという分析結果も報告されている*。
例えば、これまで電力の3分の1以上をLNGに頼ってきたパキスタンでは、ロシアのウクライナ侵攻による価格高騰で購入することができなくなった。国土の広範囲が停電に見舞われるなどの事態に、政府は自国にマッチしたエネルギー方針として輸入LNGを段階的に廃止し、積極的に再エネを導入する計画を発表している。
パキスタンのムサディク・マスード・マリク石油相は、ロイターのインタビューに応え、「燃料を150〜180億ドル輸入している国が、総輸出額300億ドルを下回る状況では持続可能といえるわけがない。LNGなどの輸入燃料から脱却する必要がある」と話す*。
タイでも海外からの燃料依存を減らすため、再エネ移行を加速することが決定した。2037年までに電源構成の50%以上を再エネ化する予定だ。エネルギー省のワタナポン・クロワット局長は「最終的には、電力構成におけるガスの役割はますます小さくなるだろう」と述べている*。
投資リスクは不確実さと環境影響
これまで、再エネは初期コストの高さや、供給の不安定さが問題視されてきた。しかし、これらの課題はもはや解消されつつある。LNGを「つなぎ燃料」に位置付け国境を越えて推進する日本の理屈はいつまで通用するのか。
IEAは、「2050年までのネットゼロ」ロードマップの中で、石炭、石油、天然ガスの需要はすべてこの10年間でピークを迎えると予測。もちろん付随するインフラへの投資の余地もないとしている*。
さらに、日本やその他の主要市場のLNG需要が減退するにつれ、価格は今後10年間で下落する可能性が高い。日本の大手電力会社を含むLNG販売業者は、マージン低下や、場合によってはマイナスに転じる市場変動リスクに備える必要があるだろう。
かつての石炭がそうなったように、世界的にLNGがキャンセルされる未来に警戒が必要だ。LNGへの投資を見直す時期に来ているのではないか。