エネルギー投資の鍵を握る「クリーン」と「グリーン」の違い
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2024年9月24日 – Energy Tracker Japan
ジェットコースターのような動きを見せている日本株式市場。日経平均株価の月間値幅は8月に過去最高の7189円を記録した。今後もAIの成長に市場が揺れることが予測される。その中でも需要増が確実視される電力分野の鍵を握るのが「クリーン」エネルギーと「グリーン」エネルギー。株式市場の今後を見定めるには、まず両者の違いを知ることだ。
生成AI関連銘柄を中心に大幅ダウン
日本株価が短期間で振り幅の大きなアップダウンを見せている。要因としてはドル安、円高の進行や日米金利差などが大きい。
そして、もう一つ台風の目となったのは、生成AI関連銘柄だった。
右肩上がりだったはずの生成AI関連株が、米半導体大手エヌビディアを中心に8月末から急落に転じた。日本株にも連動した揺れがおきている。
ただ、一連の動きは、度を越した熱狂から市場が冷静さを取り戻す過程といえるだろう。一時世界トップを記録したエヌビディア株価の伸び方は、そもそも2年間で8.5倍という規格外れのものだったことを織り込む必要がある*。
中長期投資へ目を移すと、AIの浸透と技術成長は明らかに一過性のものではない。今後も関連需要に応じて株価変動が続くだろう。
市場の今後、成長確実は電力分野
実際に、上昇率が大きかった半導体銘柄には下落が見られたが、日本では、AI関連でも例えば電線大手などは現在も株価を伸ばしている*。しかし、AIに関連する世界的に確実な需要の代表格はなんといってもエネルギーだ。
生成AIの消費電力はすさまじく、例えばChatGPTの回答に必要な電力量は、従来のGoogle検索のおよそ10倍となる。
それに応じて、世界で増加の一途をたどるデータセンターのエネルギー消費量は、2026年までに2023年から倍増する見込みだ。AI専用のデータセンターでは10倍超の水準に達する可能性がある。
台湾では、電力不足が理由で、大型データセンターの新規開発にストップがかかった*。電力需要は今後さらに増えるだろう。
日本、そして世界のエネルギー分野は今後どのような勢力図で成長するのだろうか。
<GX>日本のエネルギー戦略の現在地
現在、日本では経済産業省が掲げるグリーントランスフォーメーション(以下GX)の名の下に「化石燃料をできるだけ使わない、クリーンなエネルギーの活用」が推進されている。
中身はというと、LNG(液化天然ガス)の活用を進め、水素、アンモニア、合成燃料とそのサプライチェーン構築を主とする計画だ。日本政府は、LNG、水素、そしてアンモニアを「クリーンなエネルギー」の代表格と位置付けている。
※1971年度までは沖縄電力を除く。
しかし、世界と日本のエネルギーへの認識にはズレが大きい。今後、外圧が大きくなるにつれ、是正が必要となる可能性が高い。
2023年11月30日から12月13日の期間、ドバイで開催されたCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では、「1.5℃目標」の道筋に沿うためにエネルギーシステムの化石燃料脱却を進めるという点で、初めて最終合意するに至った。
日本が推奨するLNGだが、実態は化石燃料の一種だ。石油や石炭に比べて燃焼時のCO2排出量が少ないだけで、メタンを主成分としている。日本の「再エネへのトランジションのためにLNGを使う」という主張に批判が目立つのも無理はない。
COP28ではさまざまな問題のひとつとして、LNGの主成分であるメタンの排出量削減の必要性も大きく取り上げられた*。
メタンは強力な温室効果ガスであり、CO2のおよそ80倍もの温室効果を持つ*。産業革命後の温暖化の約3分の1がメタンの漏洩によるものとする科学者の指摘もある。米国のメタン排出量が、規制当局が試算していたものより4倍多かったという調査結果も大きな話題となった*。
高まるメタンへの警戒、水素アンモニアも難しい
次の指標となるのは、2024年11月にアゼルバイジャンで開催されるCOP29だ。
すでに各国に動きが見られている。米中の気候変動交渉担当者らが協議を持ち、米担当者は2035年までの温暖化ガス排出削減で野心的な目標を設定するよう中国側に要請したと報じられている*。
米国務省は、メタンを筆頭とするCO2以外の温暖化ガスの削減についてCOP29で首脳会議を開催する決定で合意したことを発表した。
メタン削減については、COP28に引き続きCOP29でも議題にあがることになる。日本が推奨する「クリーンエネルギー」LNGへの国際的な風当たりは、今後ますます高まることが予測される。
加えて、水素、アンモニアも問題点が大きい。「グリーン水素」等の低炭素な水素はCOP28でも評価されているが、製造、調整、輸送、そして消費までのインフラ構築にかかるコストは莫大だ。さらに製造に電力を必要とするという点で、再エネ社会が実現していない時点での水素投資は本末転倒になってしまう。
アンモニアについては、日本は混焼を想定して石炭火力発電所温存を目論むが、石炭火力停止を第一義と考える欧米とのギャップを埋めることは難しいだろう。アンモニア混焼のライフサイクル全体で、実際に温室効果ガスが削減されるか否かという本質的な実態も不透明であることはいうまでもない。
グリーンエネルギーとクリーンエネルギー
電力需要が増える可能性が高い現在、世界的に伸び代が絶対視されているのはグリーンエネルギー、つまり再生可能エネルギー(再エネ)だ。
これをややこしくさせるのが、日本でよく使われる「クリーンなエネルギー」という表現だ。「クリーンなエネルギー」には、LNG、アンモニア、水素が含まれるが、これらはグリーンエネルギーとは全くの別物になる。
日本で「クリーンエネルギー」と呼ばれるのは、「グリーンエネルギー(=再エネ)」への移行的役割を持つとされるエネルギーのことだ。
そして「クリーンエネルギー」が、本当に再エネ移行に役立つエネルギーであるのかという点についても議論が大きい。
さらに、それ以前に重要な問題となるのは、移行に許される時間をどう見積もるかだ。2050年のカーボンニュートラルまで、残された時間は25年を切ろうとしている。
「グリーンではない」エネルギーに注意
そもそも、日本の「GX(グリーントランスフォーメーション)」の言葉選びには、かねてから「わかりにくい」という不満の声があった。
英投資助言会社サセックス・パートナーズの共同創設者は、日本の「GX」について「極めて日本特有で、日本以外の場所では聞いたことがない」と指摘している*。
ところが、日本政府は移行国債を発行するに際しては「クライメート・トランジション・ボンド」という名称を採用し、一転して「GX」の表現を避けた。国際的にグリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)批判が出ることを懸念したといわれている*。日本政府にも「独特の言葉遣い」をしている自覚はあるのだろう。
国際エネルギー機関IEAは、再エネの年間使用量を2030年までに過去5年間の平均の2倍に増やす必要があるとする*。最近のグローバル・ストックテイクでは、2030年までに再エネ発電量を3倍にすることが推奨された*。グリーンエネルギーの未来は約束されている。
一方で、「クリーン」と称して、巧妙に「グリーン」を装った「グリーンではない」エネルギーには注意が必要だ。ここを見誤っては、株投資の大損を招きかねない。