【アンモニアの罠】回避不可能な投資リスク
写真:Rudmer Zwerver
2024年9月19日 – ヘバ・ハシェム / Energy Tracker Asia
日本は世界で最も技術進歩の著しい国の一つであると考えられている。しかし、気候変動対策では遅れをとっているとみなされる。今、日本の「クリーン石炭技術」という謳い文句に批判と注目が集まっている。アンモニアを石炭と混焼させ、よりクリーンに発電するというものだ。
しかし、国際的には、アンモニア混焼は石炭を存続させるための施作にすぎず、再エネ移行を遅らせているとの批判が相次ぐ。アンモニア混焼プロジェクトに未来はあるのか。
どうして日本は石炭を燃やし続けるのか
アジア太平洋地域に属する日本は、二酸化炭素(CO2)排出量世界第5位に位置し、世界全体の2.88%のCO2を排出する。日本の発電量の約3分の1を担う石炭の燃焼は、2021年の日本のCO2排出量の40%近くを占めた。
日本政府は近年、エネルギーミックスの多様化を進め、2030年までに26%の温室効果ガス排出削減を約束した。しかし、未だに汚染度の高い化石燃料にしっかり依存している。
2019年の日本の総発電量に占める化石燃料の割合は88%だった。また、資源に乏しい日本は、エネルギー消費需要の96%以上を輸入に頼っている。
さらに、福島原発事故で国内すべての原子力発電所を停止して以来、化石燃料への依存度をより高めている。失った原子力インフラからのエネルギーを補うために徐々に石炭火力発電へと切り替えてきた。
石炭火力がじわじわと日本の首を絞める
石炭は地球の気温上昇の最大の原因とされている。世界の平均気温が1度上昇した場合、そのうちの0.3度以上は化石燃料が原因となる計算だ。
日本は気候や地形から、自然災害の影響を特に受けやすい。地震が起きやすく、台風や集中豪雨も多発する。さらに、海岸浸食や海面上昇の影響も受けている。
それでも、日本政府は国内外かかわらず石炭プロジェクトを推進し、資金提供を止めようとしない。他の先進国が軒並み排出量削減のために石炭を段階的に減らす中、日本は新しい石炭プロジェクトを増やし続けている。
国内140基の石炭火力発電所のうち、約100基を段階的に廃止すると発表したが、その実さらなる建設が続けられている。最新プロジェクトである107万キロワットの石炭火力発電所が、2022年半ばに稼働を開始した。
日本が掲げる「クリーン石炭技術」の実態
日本政府は、電力生産の脱炭素化のために、先進技術を駆使し、「クリーン石炭」技術を構築すると表明している。その一つが、既存の石炭火力発電所への実装を計画するアンモニア混焼技術だ。
アンモニア混焼とは
アンモニアは、窒素と水素の化合物だ。焼却処理の燃料として使用することができる。また、水素エネルギーキャリアとして燃料電池に使用したり、発電のための石炭と混ぜて使用したりすることもできる。アンモニアを直接燃焼させることで、従来の化石燃料燃焼エンジン、ガスタービン、焼却炉の用途において、主燃料源または添加剤として使用される。
しかし、これらは理論上の話だ。実際に燃焼させるのは簡単ではない。どうしてかというと、アンモニアを燃焼させると、一部が酸化することで副産物として窒素酸化物(NOx)と亜酸化窒素(N2O)が生成されてしまうからだ。N2O排出による温室効果は、CO2の約300倍に相当する。CO2と同等の削減を達成するためには、これらのガスを最小限に抑える必要がある。
目的は石炭火力発電所の存続か
日本政府は、アンモニア混焼をネットゼロ計画に含めている。これまで、石炭火力発電所でのアンモニア混焼を、CO2排出量削減の有力な解決策として推進してきた。しかし、この計画は、石炭火力発電所の延命を図るものだとして批判がひろがっている。
経済産業省は、アンモニアと石炭の混焼率を2030年までに50%以上にする目標を掲げる。また、アンモニア混焼バーナーの実証プロジェクトを2030年までに完了させ、商用導入を開始する計画を立てている。
日本の国立研究開発法人であるNEDOは、国内の合弁会社を指定して4年間の調査を実施した。合弁会社は2025年までに1,000メガワットの石炭火力発電所で20%の割合でアンモニアを混焼する実証プロジェクトを完了する予定だ。
コスパ最悪、脱炭素効果も低いアンモニア
ロンドンに拠点を置く気候データ提供会社TransitionZeroによると、日本が開発を進めようというアンモニア混焼技術の二酸化炭素削減の可能性は限られているという。
例えば、混焼率を20%にしても、通常のガス焚きコンバインドサイクル発電所の2倍のCO2を排出するというのだ。
日本政府としては、2030年までに「混焼率50%」という野心的な目標を掲げ、実現すればガス発電の排出量に近づけることができるという心算かもしれない。しかし、IEAのネットゼロシナリオに沿うためには、2035年までに化石燃料の使用量を削減する必要がある。
また、石炭火力発電所でのアンモニア混焼は高コストでもある。現時点で最も安価なアンモニアであるグレーアンモニアでも、燃料用一般石炭の4倍程度コストがかかる。グリーンアンモニアでは石炭の15倍と、コスト差はさらに開く。
そもそも、アンモニアの製造そのものが炭素集約度の高い作業なのだから当然のことかもしれない。世界のアンモニアプラントの98%は化石燃料を原料とする。詳しくは、主に天然ガス(72%)が使用されている。国内には原料となる安価なガスがないので、国産アンモニアは必然さらに高コストとなる。つまり、国内の電力会社は安い輸入アンモニアに頼らざるを得なくなり、エネルギー不安が高まることは避けられない。
当然、アンモニア燃焼に対応させるための石炭火力発電所の既存エンジンの改造も、設備コスト上昇を招く。
日本政府は、すでにアンモニア混焼技術を使った2つの実証プロジェクトに2億4,200万米ドルもの補助金を出すことを計画している。このプロジェクトは、2029年までにアンモニア50%混焼を目指す。総工費は3億9,200万米ドルだ。
アンモニアへの投資は正しいか
日本では現在、総電力の21%を再エネで賄っている。2014年の12%から約9%の増加だ。
しかし、これは他のG7諸国の達成率と比べるとかなり低い水準となる。例えば、ドイツの再エネの割合は49%に達し、英国は39.7%、イタリアは36%となっている。
先日、東京都が2025年4月からすべての新築住宅に太陽光パネルの設置を義務付けるという前向きな一歩を踏み出すことを発表した。都はパネル設置に補助金を出す。この決定は、政府からの多額の投資を必要とする。補助には、設置から10年以内の住宅所有者から、太陽光電力を割高で買い取ることも含まれる。
実際には、上記で触れたアンモニアに使われる莫大な資金は、こうした再エネに必要な資金に振り向けることができるはずのものだ。
日本がアンモニア石炭混焼を積極的に推進する中、同様の戦略をとる国はどこか。韓国、インド、チリでは、石炭火力発電所でのアンモニア混焼への評価が始まっている。
しかし、日本が目論むインド、インドネシア、マレーシアなど、東南アジア諸国への、混焼技術の輸出は、すでに国際的に強い懸念を集めている。
アンモニア混焼の課題はコスト面に限っても両手におさまらない。しかし、特に日本の気候変動対策に大きな支障をきたすことは確実だ。
日本が、高コストで時代遅れの技術に縛られてしまえば、今後世界的に再エネがより進歩し、リーズナブルなものになるにつれて、「クリーン石炭」への投資は座礁資産リスクを高めるだろう。
※この記事は、2022年12月23日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳、再編したものです。(元記事はこちら)