【20年で2倍】増えた山火事の原因は気候変動
山火事の延焼被害を受けたテメスカル・キャニオン・パーク周辺。カリフォルニア州ロサンゼルス( 2025年1月11日)Photo:Darker Than The Sun/ ShutterStock
2025年1月19日 – Energy Tracker Japan
近年世界各地で山火事や森林火災のニュースが相次いでいる。2025年1月7日に発生した米カリフォルニア州ロサンゼルス近郊の山火事は1週間以上延焼を続け、現在確認されているだけでも27人の死者を出した。世界の山火事による森林消失は、ここ20年でおよそ2倍にも増加している。要因として問題視されているのは気候変動だ。山火事増加の原因とそのメカニズムとは。
山火事の増加による森の減少
山火事によって世界の森林が驚異的なスピードで消失している。2020〜2022年に発生した森林火災は、森林などの緑地を1年で平均して約830万ヘクタール焼失させた。これは2001〜2003年の平均のほぼ2倍に相当する*。
昨年2023年には、実に日本の面積の3分の1に相当する約1,200万ヘクタールの森林が火災によって姿を消した*。
特にシベリアやカナダ、北欧など、乾燥した樹木の多い北方林の火災は、2001年〜2023年にかけて約70%の樹木被覆損失を生み出し、過去20年に発生した山火事の大半を占めている。
2023年にカナダで発生した深刻な山火事は、その年の世界全体で焼失した森林の4分の1以上を占めた。主な原因は、異常な高温と雨の少なさだと考えられている*。
規模の大きな山火事の増加は、気候変動による気温上昇と深く関わっている。
最近の山火事、森林火災の事例
2023年から今年にかけて世界で発生した山火事を振り返ると、その規模の大きさに改めて驚かされる。
2023年カナダの山火事
高温かつ乾燥気候のカナダでは、5〜6月を中心に約7,000件の山火事が発生し、降雨をともなわない落雷(ドライライトニング)が事態をさらに悪化させる。2023年には過去最悪規模の1,850万ヘクタールが焼失した*。これは日本の国土面積の半分に相当する。
2023年ハワイ州マウイ島の山火事
2023年8月にハワイ州マウイ島で発生した山火事は、1918年以降最多の犠牲者を出した。火災は観光地として有名なラハイナの中心部を含む市街地にまで及び、住宅およそ2,200棟、約9平方キロの土地を焼失。死亡者数は102人にのぼった*。
2024年アメリカの山火事
2024年2月にテキサスで発生した山火事では、同州史上最悪の規模となる約4,400平方キロメートルが焼けた。少なくとも2人が死亡、家畜被害は1万頭超といわれる*。
6月のニューメキシコ州南部で発生した山火事では、少なくとも2人が死亡、約500戸の家屋が焼失した*。
また、同じく6月にカリフォルニア州ロサンゼルス北西部で発生した山火事では、少なくとも14万8,000ヘクタール以上に延焼した**。
2024年チリの山火事
チリ中部バルパライソ州で2月に発生した山火事はチリ史上過去最悪となった。少なくとも112人が死亡、夏季休暇中の観光客に多大な影響を与えた*。火災が広範囲に及んだ主な要因は、猛威をふるう熱波と、チリを過去15年間苦しめ続けている干ばつだ*。
2024年ロシアの山火事
7月にサハ共和国とザバイカル地方で森林火災による非常事態が発令された。ロシアでは近年、森林火災シーズンに数百万ヘクタールの森林が焼失している。サハ共和国では特に繰り返し火災が発生しており、930ヘクタールを超える森が焼失した*。
2024年カナダの山火事
2024年5月、カナダ西部では4,700人の住民に避難指示が出る大規模山火事が発生。延焼面積は約1万ヘクタールに達した。火災による煙は米国北部にも達し、ミネソタ州やウィスコンシン州などの5州で大気汚染の警報が発令された*。
2025年アメリカロサンゼルスの山火事
2025年に入ってカリフォルニア州ロサンゼルス近郊で発生した猛烈な山火事が続いている。1月7日に発生した火災は1週間以上延焼し、少なくとも27人が死亡、1万2000棟以上の建物が被害を受けた。150平方キロメートル以上が焼失している。
山火事の原因 気候変動との関連
山火事、森林火災は人為的な要因でも自然起因でも引き起こされる。人為的要因としては焚き火や野焼き、タバコの投げ捨てなどがあげられる。自然に起こる山火事は高温と乾燥、落雷などが原因だ。
しかし、近年の大規模な山火事には、気候変動による気温上昇と生態系破壊が大きく関連している。2023年の世界平均気温は、1850年からの観測史上最も高かった。産業革命以前と比較し1.48℃という高水準の上昇を記録している*。2023年のカナダの山火事を例にすると、2023年のカナダの火災件数は5月と9月前後に増加。JAXA運用の地球観測衛星では、5月にはカナダにおいて平年よりも10℃程度高い地表面温度が観測された。そして、大規模な山火事はこの期間に発生している。
専門家は、気温上昇が地表を乾燥させ、干ばつを招き、発火延焼しやすい条件を揃えてしまったと指摘する*。
また、生態系の乱れも山火事の延焼に拍車をかけている。森林は、動物や植物、微生物など多様な生物と、小川などの水質資源が共存することで成立する。豊かな生態系を維持する森林では、火災が起きても大規模化しにくい。その一方で、一定間隔で植樹するプランテーションのように樹木の種類が少ない森林などでは、火災が拡大する傾向が強まる。森全体の水分量が少ないためだ*。
2025年のロサンゼルスの山火事では、温暖化でより多くの水を吸収、放出できるようになった大気が、乾季と雨季の振り幅を増幅させていたことが延焼に繋がった。「豪雨から干ばつ」というように極端な気候を繰り返す「ウィップラッシュ(むち打ち現象)」が火災が大規模化した原因として取り沙汰されている。
山火事と気候変動の負の連鎖
山火事は負の連鎖を生む。山火事が広大な森林を焼失させることでCO2が排出され、それによって気候変動が悪化し、結果的にさらなる山火事発生を助長するのだ。この悪循環が山火事の起こりやすさと気候変動の両方を加速させる。
例えば、北方地方の北方林は、永久凍土を含む土壌の地下に、地上の炭素の3〜4割もの量を蓄えている。しかし北方林での山火事が、樹木や地中の炭素を大量に放出させてしまう*。山火事が温暖化を加速させ、さらなる山火事を誘発する。
2023年にカナダで発生した山火事によるCO2排出量は、推計30億トンという莫大な量となった*。
その上、大規模山火事は、2030年までに世界で最大14%増えることが予測されている(2010〜2020年比)。2050年までにはさら増えて33%増となる予測だ*。
今後は温暖化の進行にともなって、これまで火災が少なかった地域でも大規模火災が増加する見通しが高い。実際に、比較的森林火災が少なかったオーストラリアや米カリフォルニア州でも近年は大規模火災が発生するようになった。
森林火災の増加による経済影響
森林火災が経済にもたらすダメージは計り知れない。2023年のハワイ州マウイ島の山火事の経済的損失は、最大60億ドルにものぼる*。当然、森林火災が長期化するほど、主要産業の減産を引き起こし、特に観光業への打撃は大きい。
オーストラリアでは森林火災の発生後、観光客のキャンセルが相次いだ。さらに主要産業の石炭も一部減産し、GDP(国内総生産)の伸びを0.4ポイント押し下げた*。
日本に視点を移すとどうか。シベリア森林火災が発生した場合には、日本を含む東アジアも無関係ではいられない。シベリアでの山火事の規模が推計通り2003年の2倍になった場合、PM2.5などの大気汚染物質の増加で日本の年間死亡者は約2万2千人増加するとされる。経済的損失は約840億ドルに上る見込みだ*。
山火事、森林火災は、気候変動が引き起こす大きな経済リスクの一つに数えられる。その影響は確固とした気候変動対策が取られない限り規模を大きくし続けるだろう。
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