【生成AI革命】データセンター市場は2025年末までに1.4倍に拡大する
2024年8月19日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年9月5日
減るといわれてきた日本のエネルギー需要。しかし、2022年11月にChatGPTがリリースされ、エネルギー分野も分岐点を迎えた。生成AIブームによって世界的にデータセンターが急増している。電力需要が想定を超えて増加し、既存のエネルギー源をフル稼働させても電力が不足する未来が近づいている。
日本の電力需要の今後
日本の電力消費量は、2007年度をピークに減少傾向にあるといわれてきた*。理由としてあげられたのは、生産拠点の海外流出、経済不況、人口減少や省エネなどだ。
2021年の経済産業省の発表でも、2030年度の電力需要を8,640億キロワットアワー程度と見込み、需要減少を想定していた*。
しかし今、電力需要の見通しに大きな変化が起きている。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、2024年に入って、電力需要は増加傾向に転じるとの予測を発表した*。それによると、約8千億キロワットアワーある需要が、10年後には約4%増加するとされる。さらに、2050年には1兆キロワットアワーを超えると予測される*。
これまでの日本の電力需要の見通しは、大きく書き換えられた。理由としては、生成AIの台頭が大きい。
想定を超えた生成AIの急速な発展とシェア拡大、クラウド多用のデジタル化が、電力消費量の見通しを変えたのだ。
生成AI以後の世界
2022年11月にリリースされたOpenAI社のChatGPTに代表される生成AIの台頭は、それ以前と以後での世界的な分岐点と記憶されることになるだろう。
生成AI(ジェネレーティブAI)とは、従来のAIとは違い、膨大なデータ内のパターンと関係性を識別、学習し、ユーザーのリクエストに応え、テキスト、画像、動画、音声や音楽、ソフトウェア、コードなどのコンテンツを作成する人工知能だ*。
生成AI | 従来のAI | |
主な機能の内容 | データのパターンや関係性の学習 | 検索、分類などの情報整理 |
出力の形式 | オリジナルコンテンツを生み出す(Generate) | 分類や予測の自動化 |
ChatGPTは、公開からわずか2ヶ月でユーザー数1億人を突破。日本からのトラフィックはアメリカ、インドに次ぐ3位と非常に多い*。
生成AI市場の成長は日本でも加速している。
金融、エンターテイメント、ヘルスケアなど、多くの業界で利用が増加。日本の市場規模は2023年で9億1,720万米ドルと推定され、2024年から2030年にかけて、さらに37.5%の年平均成長率で拡大すると予想される*。
生成AIはビジネスのあり方を根底から変え、各業界は営業戦略の至上命題として、いかに生成AIを活用するかに取り組まざるを得なくなった。
成長中のChatGPTには情報保護の側面で未解決の問題があり、中国、イラン、北朝鮮、ロシアなどで利用がブロックされ、イタリアをはじめ各国で自主規制の動きがある*。とはいえ、生成AIの市場拡大は加速度的に進む。
ここで問題となるのが、生成AIの消費電力だ。
ChatGPTの回答に必要な電力量は、従来のGoogle検索のおよそ10倍。毎日90億回の検索を想定すると、1年間で約10テラワットアワーの追加電力が必要となる計算だ(国際エネルギー機関IEAレポート)。
データセンターの増加が電力需要を増やす
ビジネスでも、ライフスタイルでも、生成AIの恩恵は非常に大きい。しかし、そこには懸念すべき変化もある。例えば、データセンターの急増だ。
データセンターはコンピューティング能力にはもちろん、IT機器の冷却、IT機器の排熱を冷却するための空調に莫大なエネルギーを消費する*。
データセンターで使用されるGPU(画像処理半導体)の進化にも注意が必要だ。米半導体大手メーカーのエヌビディアやTSMC社など、性能が高いと同時に電力消費量も大きいGPUメーカーが台頭してきているからだ。すでにこれらの企業には莫大な投資が集まっている。
例えば、エヌビディアは2024年6月18日に、時価総額で世界1位に上り詰めた。8年前には、現在の3兆3400億円(2024年6月18日時点)の時価総額の1%に満たなかったが、急成長し、2024年は年初からほぼ約2倍の伸び率を記録している*。
IEAの予測では、世界のデータセンターのエネルギー消費は2026年までに2023年の倍増、AI専用のデータセンターに限れば10倍超の水準に達する可能性があるという*。
世界最大のデータセンター市場であるアメリカでは、2030年までに、データセンターの電力消費量が2022年の3倍を超える未来も見えている*。
その中で、日本も例に漏れず、すでにデータセンター建設ラッシュの渦中にある。
世界最大の事業用不動産サービス会社CBREは、国内のデータセンターの容量は2025年末に2023年末比1.4倍に増えると推計する。さらに、2024年から2029年にかけて約6%の年平均成長率で増え続ける見込みだ*。
日本のデータセンターの立地と今後の展開
現在のところ、国内のデータセンターはその大半が関東首都圏及び関西に位置している。しかし、大規模災害等への備えのためにも、地方分散が課題だ。
そこで、再エネが多様であることと冷涼な気候で、立地に適性があるとして、北海道が注目を集めている。
さくらインターネットなど、大手インターネットサービス事業者が石狩市にデータセンターを構える。この先も、石狩と苫小牧をケーブルでつなぐ誘致プロジェクトなどの建設計画が持ち上がっている。
東北地方では、首都圏からの好アクセスなどを理由に福島県に建設が集中。デジタルインフラ企業であるIDCフロンティアの福島白河データセンターが代表的だ。
また、災害が起きにくく、気候が安定している岡山市、広島市、高松市にも大規模データセンターが集中する。その他、中部では名古屋市、九州では福岡市が人気だ。
今後の予定を見ると、ソフトバンクとIDCフロンティアが北海道苫小牧市に総受電容量50メガワットの日本最大級となる建設計画を有している。経済産業省の補助を受け、2026年の開設を目指す**。
その他、広島県三原市に、グーグル系の総投資額1000億円の国内最大級データセンター建設が予定される*。そして、依然として東京では西部の昭島市や多摩エリア、東部エリアでは千葉印西市など、首都圏での建設予定も途切れていない。
主力は再エネにせざるを得ない
この先、AIの進化が爆発的にデータセンターを増やし、電力需要を想定を超えて増加させることは確実だろう。
何が起こるか。これまでの電源と開発中の電源を、ともにフル稼働させても電力不足が起こる可能性がある。
AIの電力需要は世界的な共有目標、2050年までのカーボンニュートラル達成への道半ばに持ち上がった最大の誤算である。
この誤算を前に、AIに大きく行く末を左右される大手はどのように動いているのか。
まず、マイクロソフトは、2024年5月に再エネ電力供給会社ブルックフィールド社(ブルックフィールドリニューアブル及びブルックフィールド・アセット・マネジメント)と、10.5ギガワットの風力及び太陽光開発のための電力販売契約(PPA)を結んだ*。このプロジェクトの投資額は100億ドルを超える。
2026年から2030年の間に予定されるこの契約は、欧米最大のPPAと比べても約8倍、過去最大規模となる*。
続いて、Metaは2023年12月に再エネ開発企業のオーステッド及びSRP(ソルト・リバー・プロジェクト)とのPPAを発表。データセンター用電力のために、アリゾナ州で建設中のソーラーファーム等から太陽光300メガワットと蓄電池300メガワット分を導入する計画を明らかにした*。
想定外の電力需要に注がれる厳しい視線こそ、マイクロソフト、グーグル、Metaなどの巨大テック企業やAI主要企業が、再エネ確保にいとまがない大きな理由だ。
AI台頭後の未来で、企業は電力確保のための努力と脱炭素の取り組みの双方を強いられることになる。
再エネへの投資は、AIがもたらすデータセンターバブルの勝ち残りの鍵なのだ。
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