【企業が知っておくべき水害対策と保険】BCP強化の方法
2024年7月18日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年9月5日
2024年7月、梅雨前線の影響で西日本で記録的な大雨が発生、土砂災害が引き起こされた。全国的に不安定な天気が続いている。連日の雨による地盤の緩みに注意が必要だ。台風の接近が増える夏から秋にかけて、日本では水害が起きやすい。近年は気候変動により水害が激甚化、頻発化している。企業が被害を最小限に食い止めるために必要な対策とは。
近年日本で起きた水害一覧
毎年といっていいほど、日本のどこかで発生している大規模水害。最近では、昨年7月の九州北部の洪水被害、秋田の豪雨被害が記憶に新しい。2018年から昨年までの深刻な水害を振り返ると、その頻度には改めて驚かされる。
年月/気象庁による名称 | 範囲 | 被害状況 |
2018年6月〜7月平成30年7月豪雨 | 西日本を中心に全国的に記録的な大雨 | 死者237名、行方不明者8名、重傷者123名、住家全壊6,767棟(2019年1月9日時点*) |
2019年10月令和元年東日本台風(台風第19号) | 静岡県や新潟県、関東甲信地⽅、東北地⽅を中⼼に広範囲で記録的な⼤⾬ | 死者121名(災害関連死含む*)、重傷者42名、住家全壊3,273棟(2020年4月10日時点*) |
2019年8月〜9月令和元年房総半島台風(台風第15号) | 房総半島を中心とした各地で暴風 | 死者3名、重傷者13名、住家全壊391棟(2019年12月23日時点*) |
2020年7月令和2年7月豪雨 | 西日本から東日本、東北地方、九州で記録的な大雨 | 死者84名、行方不明者2名、重傷者25名、住家全壊1,620棟(2021年2月26日時点*) |
2021年7月令和3年7月1日からの大雨(気象庁命名なし) | 東海地方、関東地方南部を中心に大雨 | 静岡県熱海市で発生した土石流を中心に、死者27名、行方不明者2名、重傷者2名、住家全壊59棟(2022年3月25日時点*) |
2021年8月令和3年8月11日からの大雨(気象庁命名なし) | 西日本から東日本の広い範囲で大雨、中国地方の複数の地点で記録的な大雨 | 死者3名、重傷者1名、住家全壊7棟(2021年11月30日時点*) |
2022年8月令和4年8月3日からの大雨(気象庁命名なし) | 東北地方と北陸地方を中心に断続的に猛烈な雨、東日本や西日本で局地的な大雨、北海道地方や青森県で記録的な大雨 | 死者2名、行方不明者1名、重傷者2名、住家全壊28棟(2022年11月1日時点*) |
2022年9月令和4年台風第14号 | 九州を中心に、西日本から北日本の広い範囲で暴風、九州や四国地方で大雨 | 死者5名、重傷者19名、住家全壊10棟(2022年11月2日時点*) |
2022年9月令和4年台風第15号 | 東日本太平洋側を中心に大雨、特に静岡県で猛烈な雨 | 死者3名、住家全壊6棟(2022年11月2日時点*) |
2023年6月令和4年台風第2号 | 西日本から東日本の太平洋側を中心に大雨 | 死者3名、行方不明者5名、重症者5名、住家前回13棟(2023年6月8日時点*) |
2023年6月令和5年梅雨前線による大雨(気象庁命名なし) | 西日本から東日本の太平洋側を中心に大雨、秋田県を中心に記録的な大雨 | 死者数13名、行方不明者1名、重傷者4名、住家全壊16棟(2023年7月18日時点*) |
※台風、豪雨による被害は上記に限るものではない。
なぜ日本に水害が多いのか
日本で、河川の氾濫や、土砂災害など、水害が発生しやすいのはなぜなのか。2010年〜2019年の過去10年間でみると、日本の約98%の市町村で水害が起きている*。
日本国内においては、都市部であっても、水害は他人事にはなりえない。
日本で水害が起きやすい理由には、都市開発の工程と都市の立地があげられる。実は、日本の諸都市は、海や河川の⽔位より低い⼟地にある場合が多い。
都市開発による地盤の沈下や、人工堤防によって川底に土砂が積もって川面が高くなる「天井川」などにより、周辺の平地と比べて⽔位が上がっている場合が多いためだ。加えて、⼤都市では、地下鉄等の地下空間の多さも浸水被害を起こりやすくしている。
また以前は、日本に多くあった水田が、洪水を一時的に貯めて下流へ流れる水量を減らす治水機能を果たしていた。しかし、多くの水田が姿を消したことで、短期間で大量の流⽔がそのまま流れ、河川の⽔位が急上昇するようになった。
気候変動が水害を増やす
もとより水害の多い日本だが、気候変動が水害の発生頻度に拍車をかけている。温暖化が台風や豪雨に変化を起こしていることが原因だ。
世界中で気候変動による影響が豪雨の増加として現れており、日本では、1時間に50ミリ以上になる豪雨の割合が、約40年前の1.5倍に増加した。短時間に激しく降る雨は、浸水被害や土砂災害に繋がりやすい。
また、地球温暖化が、移動速度の遅い台風を増やしていることにも注意が必要となる*。移動速度が遅い台風は、一箇所に長く留まるため、これも深刻な水害に繋がりやすい。
有効な気候変動緩和策が取られない場合、⽇本を通過する台⾵の移動速度は、2100年までに約10%遅くなるという試算もある*。ここ数年では、自転車ほどの速度で移動する「のろのろ台風」も発生している。
気候変動で最高温度を更新し続ける海面温度
台風や豪雨の変化に最も大きな影響を与えているのは、海面温度の上昇だ。従来の台風は熱帯の海で発生してから温帯へ移動し、下がる海面温度とともに水蒸気量を減少させ、勢力を弱めた。
しかし、上昇を続ける海面温度が台風の勢力を衰えにくくしている*。
アジアにおいて、事態はより深刻だ。世界気象機関(WMO)は、アジア地域の海面温度が世界平均の3倍以上のスピードで上昇していると警鐘を鳴らしている。そして、日本東方の海域は、アジアの中でも特に温度上昇の進行が速いエリアにあげられている*。
水害による経済的損失
実際問題として、水害は資産損失や事業中断を引き起こし、直接的な経済損失のリスクとなる。
ソニー損害保険株式会社の調査によると、日本の過去10年間の水害被害額は合計約7.2兆円にものぼる。2019〜2021年の被害額をみると、水害が日本経済に与える影響の大きさが浮き彫りとなる。
この値は、主に物的被害額であるため、人的損失を入れると被害額はここからさらに膨れあがる。
年代 | 全国の被害額(国土交通省確報値) | 都道府県別被害額上位3位 |
2019年* | 約2兆1,800億円 | ①福島県:約6,823億円 ②栃木県:約2,610億円 ③宮城県:約2,530億円 |
2020年* | 約6,600億円 | ①熊本県:約3,300億円 ②福岡県:約630億円 ③大分県:約570億円 |
2021年* | 約3,600億円 | ①佐賀県:約650億円 ②福岡県:約520億円 ③広島県:約420億円 |
日本はもちろん、世界でも水害による経済損失は甚だしい。アジアから太平洋にかけての地域で、水害は2023年まで4年連続で最大の損害対象となっており、2023年では損害総額の64%以上を占めた。
2010年以降、アジア太平洋地域での洪水は、毎年300億ドルを超える損害を出している。その約半分は中国の洪水によるもので、経済損失は320億ドル以上となる*。
気候変動適応型の水防対策の重要性
製造業や中小企業は、水害において特に大きな経済的ダメージを受ける。地震や火災と比べ、水害は建築基準法などでの規定が定められていないため、現時点で水害対策が、事業所建物の所有者判断に依拠していることなどがその一因だ。
しかし、過去の水害事例を見ても、梅雨入りから水害による被害が多発していることがわかる。企業には水害を含め、気候変動に適応するBCP(事業継続計画)が求められている。
BCPとは?
企業が自然災害等の緊急事態に対して事前に計画する、損害を最小限に留めるための事業継続プラン。
BCPには、適宜、見直しと強化が必要とされるが、近年の気候変動による水害の頻発を考慮していない場合には早急にプランの見直しが必要だ。
水害リスク増加にともなうBCP、保険の見直し
どのようにBCPを見直すべきか。まず、想定される最大規模の降雨や、高潮による浸水範囲、さらに避難所などが確認できるハザードマップ(NHK)や、洪水、土砂災害など災害別に情報を得られるハザードマップポータルサイト(国土交通省)で、拠点単位でのリスク検証を行いたい。
ただ、リスクが低い場合にも無対策で良いわけではない。水害経験頻度の低い市区町村に所在する企業ほど、一度水害に遭遇した際の影響が大きくなる傾向があるからだ。
火災保険においては水災補償で、洪水、土砂崩れ、高潮等による損害をカバーすることができる。ただし、企業向けの火災保険の場合は免責額を設定する必要がある。
免責金額を大きくすれば、保険料は安くなるが、損害額がこれを超えない場合は自己負担となってしまう。水害のための損害への支払いが縮小される保険タイプもある。
気候変動による自然災害の発生は、今後増えることはあっても減ることはないと考えるのが妥当だ。あらゆる事態に対応できるように保険を見直すべきだろう。
温暖化にともなって増加する水害に対し、水防を強化させることは、いまや企業にとって不可欠なリスクヘッジとなっているのだ。
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