【太陽光ビジネス完全ガイド】配電制度、太陽光パネル設置義務化条例、トレンド情報
2024年6月20日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年9月5日
2040年度までに市場が10倍以上に拡大する予測もある太陽光発電の情報ガイド。太陽光発電は、FIT制度の施行により、日本で急速に導入が拡大した。近年は、初期投資がかからないPPAモデルが普及を後押しする。各自治体の太陽光パネル設置義務化の制度普及も目覚ましい。配電制度、各自治体の義務化条例、ビジネスとしての展望について解説する。
太陽光発電とは
太陽光発電は日本の再エネの先駆けといえる。1970年代のオイルショックを機に、政府は新エネルギーとして太陽光発電開発に乗り出した。その後、2012年にはFIT制度(固定価格買取制度)の導入によって、市場が急速に拡大した。
FIT制度とは
FIT制度とは、再エネの固定価格買取制度のこと。再エネで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が保証する。
太陽光発電の仕組み
太陽光発電は、1秒あたり約42兆キロカロリーに上る膨大な太陽エネルギーを、太陽光パネル(太陽電池モジュール)のシリコン半導体に当てて、直流電気に変換させる仕組み。
電気性質が異なる「N型半導体(表面)」と「P型半導体(裏面)」を重ね合わせ、接合面にN型側に「電子(-)」、P型側に「正孔(+)」が集まる性質を活用する。パワーコンディショナを通じて直流から交流に変換することで、建物内の電気製品に使用できるようになる*。
太陽光の世界の導入状況
2022年度の世界の太陽光発電新規導入量は、240ギガワットに及び、2016年比で6倍に拡大している。国別のトップは中国で、次いでアメリカ、3位がインドとなる*。
グリッドパリティとは
再エネにかかるコストが、化石燃料の発電コストを下回ることを指すグリッドパリティ。発電事業者が国の支援に依存せず、クリーンエネルギーの開発が可能な転換点となる。
ドイツ、イタリア、スペイン、オーストラリア、イスラエル、メキシコでは、2010年代にはすでにグリッドパリティを迎えている*。日本でも、2014年下半期にはグリッドパリティを達成したとする見方もある*。
注:発電単価は、システムを20年間使うとして、設備費諸々を含む1キロワットアワーの発電コスト。設備費は、一般社団法人太陽光発電協会太陽光発電普及拡大センター 「住宅用太陽光発電補助金交付決定件数」を参照。割引率は、加重平均資本コストを算出した値(1.7%)を使用。自己資本比率は、国土交通省「住宅市場動向調査報告書」を参照。貸出金利は、日本銀行「金融経済統計月報」の住宅ローン値(2.475%)を参照。自己資本利益率は、同資料の10年もの新発国債利回りの値(0.32%)を採用。電気料金は、10電力会社の電灯料金収入を電灯販売電力量で割ったもの。
各自治体の太陽光パネル設置義務化条例まとめ
多くの自治体が、新築建物への太陽光設備設置の義務化制度を導入している。京都府、京都市や群馬県をはじめ、制度が施行開始している自治体の条例をまとめる。
今後、導入検討段階にある神奈川県、同県から相模原市、千葉県松戸市、長野県をはじめ、さらなる各自治体への波及が見込まれる*。
自治体名 | 制度詳細 |
京都府 京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例 京都市 京都市地球温暖化対策条例 | 京都府、京都市ともに、2012年4月より、延床面積2,000平方メートル以上の建築物への再エネ設備の設置を義務化。 2022年に新たに延床面積300平方メートル以上建築物(準特定建築物)に対しても設置義務を拡大。 |
福島県大熊町 大熊町ゼロカーボンの推進による復興まちづくり条例 | 2022年4月より、非住宅部分の床面積合計が300平方メートル以上の建築物を特定建築物とし、特定建築主に、建築物やその敷地に、再エネ利用設備設置を義務づける。 |
群馬県 2050年に向けた「ぐんま5つのゼロ宣言」実現条例 | 2023年4月より、延床面積2,000平方メートル以上の建築物を新築、増改築する際に再エネ設置を義務づけ。 |
東京都 都民の健康と安全を確保する環境に関する条例の一部を改正する条例 | 2025年4月施行予定。 全国で初めて戸建て住宅が対象に加わる。 ビルやマンションなどの大規模建物は建築主に、戸建て住宅など延床面積2,000平方メートル未満の建物は年間延べ2万平方メートル以上の建築物を建設する大手ハウスメーカー等の事業者に設置義務が課される。 |
神奈川県川崎市 川崎市地球温暖化対策等の推進に関する条例 | 2025年4月施行予定。 延床面積2,000平方メートル以上の建築物を新増築する際に太陽光発電設備の設置を義務づける。 |
太陽光発電のメリット
太陽光発電は、企業に多くのメリットをもたらす。「電力の自家消費によるコスト削減」、「温室効果ガス削減」、「ビジネスチャンス」、以上3つのメリットを紹介する
太陽光発電の自家消費によるコスト削減
太陽光で発電した電気を自社設備で使用する自家消費型太陽光発電。これを取り入れることで、電力会社から電気を購入する必要がなくなり、電気代を削減することができる。
温室効果ガス削減
火力発電によるCO2排出量は、1キロワットアワーあたり約690グラム。対して、太陽光発電による排出量は17〜48グラム*といわれる。
日本は、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す。さらに、温室効果ガス削減に向け、2030年度再エネ比率36〜38%の導入目標が掲げられている*。太陽光の導入は国の政策ともマッチし、地球温暖化抑止に貢献する。
ビジネスチャンスの到来
日本はGX(グリーントランスフォーメーショ ン)の加速で産業競争力を強化し、経済成長につなげ脱炭素分野で世界のトップを狙う。再エネ導入のためにグリーンイノベーション基金を活用した支援が複数の産業分野で実施される。基金の活用が企業にとって大きなビジネスチャンスとなる。
日本の太陽光発電の現状と課題
日本の太陽光発電の価格帯、設置場所確保や廃棄パネルなどの課題は? また、技術革新や太陽光をめぐる制度などの課題の解決策について解説する。
供給価格低下で国内最安の電力に
日本の太陽光は、施工、人件費等のコストがかかり、国際的な水準よりも割高だった。しかし、2024年に入ってから、大規模太陽光発電システムの電力価格が、平均1キロワットアワーあたり5円台と、国際的な水準にまで下がっている*。
要因の一つは、中国メーカーのシェア競合による生産過剰が招いた太陽光パネルの価格低下。大幅下落はしばらく続くと予想される。
太陽光発電の課題と解決策
太陽光発電は資源の少ない日本にとって、有効な再エネである。ただ、解決に向けての取り組みのただ中にある課題もある。技術力向上や法整備等で解決策を講じる必要がある。
メガソーラーの環境影響
太陽光発電の大きな課題として、環境への影響があげられる。設置には、地域社会や自然環境への配慮が重要だ。しかし、景観や生態系破壊等の問題は各地で発生している。実際に2020年に市民の反対運動によって撤回された、長野県諏訪市の霧ケ峰高原の太陽光発電設置計画といった例もある*。
こうした課題を解決するためには、納得のいく環境アセスメントやゾーニング(適地選定)の実施が不可欠となる。ゾーニングを活用することで、環境保全と開発を両立させるための基礎を築ける。
また、生態系サービスを向上する太陽光発電設備建設の研究や取り組みも拡大している。発電施設周辺の植生管理によっては、生態系サービスを向上できるという報告もある*。
太陽光パネルの大量廃棄
経年劣化や卒FITの事業終了などで、2030年代後半には、最大年間50〜80万トンの太陽光パネルが廃棄されると予測される*。政府は、太陽光パネルのリサイクルを義務付ける制度を検討し、リサイクル、リユース事業を推進する方針だ。
既存の破砕設備を使用し、低コストで再資源化を行うなど、太陽光パネルの循環利用に向けた研究開発や実証試験が行われている。また、東京都の「太陽光パネルの高度循環に向けた実証事業」など、産官学で太陽光発電システムを循環型ビジネスとして構築する取り組みを促進する。
循環型ビジネスとしての太陽光発電の展望
太陽光発電を循環型ビジネスとして確立するために、イノベーション促進が欠かせない。ここではソーラーシェアリングとペロブスカイト太陽電池について解説する。
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)
ソーラーシェアリングとは、営農しながら発電するシステムだ。農地に簡易構造の支柱を立て、上部に太陽光発電設備を設置する。
農作物収入に加え、発電した電力を自家消費することで経済効果を期待できる。農林水産省は、「みどりの食料システム戦略」の実現に向け、再エネを活用したソーラーシェアリングへの交付金支援を実施する。地域循環型エネルギーシステム構築が目指される。
ペロブスカイト太陽電池
次世代太陽電池として日本発の技術、ペロブスカイト太陽電池が注目される。
従来の太陽光発電は約90%がシリコン原料であり、重量が懸念材料となっている。一方、ペロブスカイトは、高い電荷輸送能力と軽量で柔軟という特徴がある。設置場所の課題を解決できる期待が高い。
シリコン系太陽電池の変換効率は理論上、上限がある。その点で、ペロブスカイトは今後の主流となる見込みが高い。また、ペロブスカイトは製造コストが低く、太陽光発電コストの削減にも貢献できる*。
さらに、日本での生産量が高いヨウ素が主要材料なので、国内サプライチェーンを構築できることも大きい。政府は産業化に向け次世代型太陽電池の開発プロジェクト(498億円)を立ち上げ、2030年実装を目指す。
PPA市場の拡大
PPAとは、「電力販売契約(Power Purchase Agreement)」を意味する。PPAモデルは、PPA事業者と契約することで、太陽光発電システム設備を初期費用ゼロで導入し、代わりに利用者は契約期間中、PPA事業者に利用した電気料金を支払う。用途に応じたタイプがあり、再エネの需要と共に近年普及が拡大している。
富士経済は、2023年度のPPAモデル市場は、2022年度比35%増加したと報告した。2040年度には、2022年度比10.4倍の4,224億円の成長を予測する*。
太陽光ビジネスの今後
太陽光発電は我が国のポジティブな再エネであることは間違いない。しかし、持続可能な電源とするための転換期を迎えているといえる。転換期とは大きなビジネスチャンスである。野心的に新ビジネスやイノベーションを展開するタイミングがきている。
太陽光発電が国内において循環型ビジネスとしての地位を築いたとき、約束されるメリットは、カーボンニュートラルへの貢献にとどまらない。エネルギーの安全保障の確立、国際市場での活躍、貿易黒字と、推進に利点の大きい再エネが太陽光だ。
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