日本が洋上風力発電を推進するべき理由
銚子沖洋上風力発電所(出典:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))
2024年6月4日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年9月5日
洋上風力発電の概要と仕組み、メリットの具体的な解説、及び日本での取り組みの現状。気候変動対策の一環として世界のエネルギーは、化石エネルギーからCO2排出量の少ない再生可能エネルギーへとシフトしている。なかでも洋上風力発電は、発電効率や経済波及効果の高さから、世界的に導入が拡大している。四方を海に囲まれる日本は洋上風力のポテンシャルが高い。今後、ダイナミックな展開が期待される洋上風力の基本情報と現状とは。
洋上風力発電とは
風力発電とは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の一つであり、風車(風力タービン)を回転させることで発生する風力エネルギーを電力に変換するシステムだ。その中でも洋上風力は、海洋上に風力発電装置や制御および、監視装置を直接設置して発電する。
洋上風力は、欧州を中心に導入が拡大しており、近年では中国、台湾、韓国を中心に、アジア市場の成長の可能性が注目を浴びている。今後、大量導入が可能であること、経済波及効果が望めることから、再エネの主力電源としての期待が高い。
洋上風力発電の種類
洋上風力発電は設置海域の水深により「着床式」と「浮体式」の2種類に分けられる。
着床式
着床式洋上風力発電は、「支持構造物が流体力荷重にさらされる風車」と定義される*。海底に設備を固定する方式で、コスト的に水深50〜60メートル未満の海域に適する*。
着床式は、さらに以下のような構造形式に分類される。
形式 | 特長 |
モノパイル式 | 低コストで海底の整備は基本的に不要 |
重力式 | 保守点検作業をあまり必要としない |
ジャケット式 | 急峻な地形や軟弱な地盤に優位 |
浮体式
浮体式洋上風力発電は、「風力発電設備を有する浮体式海洋構造物」と定義される*。コスト的に水深50メートル以上に適しており、つまり、着床式と浮体式、それぞれに有利な水深の境界は50メートルにある。具体的には浮力体にタワー及び、ロータが搭載されたものを指す。
浮力体には、以下のような種類がある。
形式 | 特長 |
ポンツーン/バージ型 | 構造が単純なため低コストで施工が容易 |
スパー型 | 水面貫通部分が小さく、波浪からの影響が少ない |
TLP型 | 浮体の上下の揺れが抑制される |
セミサブ型 | 港湾施設で設置が可能、浮体が波の影響を受けにくい |
洋上風力発電が注目される背景と各国の状況
洋上風力発電が注目される背景には、カーボンニュートラル達成のため、国際的に再エネの需要が拡大していることがあげられる。各国の洋上風力発電導入状況を見てみると、2020年時点で、EUは2030年までに60ギガワット、アメリカは22ギガワット、韓国は12ギガワットの目標を掲げていた*。
その後の導入実績を見ると、2023年時点で、EUが32.4ギガワット、アメリカはギガに届かず41メガワット、中国が37.3ギガワット、日本は0.2ギガワットにとどまっている。中国の躍進が、欧州の累計導入を上回り、アジアの風力導入を底上げしている。
資源エネルギー庁によると、全世界での洋上風力導入量は2040年には562ギガワットに達し、2018年比で24倍となる見込みだ*。日本においても、その潜在的な発電能力は、552ギガワットにも上るとする見方もある*。
政府は将来的なアジア市場の急成長を見込み、世界第3位の市場を創出することで国内外からの投資を狙う。そのために、2030年までに10ギガワット、2040年までに30~45ギガワットに及ぶ洋上風力発電の導入目標が掲げられている*。
洋上風力発電のメリットと今後の課題
洋上風力発電のメリットは大きいが、課題がないわけではない。洋上風力発電のメリットと、課題にはどのようなものが想定されるだろうか。
洋上風力発電のメリットとは
洋上風力のメリットは、特に、「高効率で安定した発電性」、「高い経済波及効果」、「島国のポテンシャル」という3つの視点から語ることができる。
高効率で安定した発電性
風力発電の発電効率に重要なのは、一定の風向きと風力である。しかし陸上の場合、地形の状態などで風向きも風力も頻繁に変化する。そのため、風況がよく、風の乱れが少ない洋上の方が風力発電に適し、高効率で安定した発電が期待できる。
また、洋上風力は、陸上と比較して、発電量が上がる大型風車を導入しやすいため、さらに安定して電力を得られる。陸上と違い、景観や騒音の影響が小さいこともメリットといえる。
高い経済波及効果
洋上風力発電は、経済波及効果が高い。洋上風力発電の設備は、構成機器や部品が数万点にも及ぶため、事業規模は数千億円に上る。
現状、洋上風力発電の関連産業は国外がメインとなっている。しかし潜在的サプライヤーは日本にも多く存在し、技術力を活かした新たなビジネスとして産業育成や雇用創出が期待できる。
島国のポテンシャルを活かせる
日本は島国で、国土面積も狭い。そのため陸上では風力発電を設置できる場所が限定される。しかし、洋上であれば、理論上は約43万平方キロの領海と約405万平方キロの排他的経済水域(EEZ)*を活用し、膨大なエネルギーを得ることが可能となる。
洋上風力は、四方を海に囲まれた日本の地理的条件と相性が良い。
洋上風力発電の課題と解決策
洋上風力発電の課題としては、「海洋生態系への影響」と「コスト」があげられる。しかし、改善に向けた技術は現在、急速に進化している。
生態系への影響と解決策
洋上風力発電の建設にあたって発生する騒音は、海洋生物の音声コミュニケーションを阻害する。また生息場所を減少させ海洋環境を変化させる可能性もあるため、海洋生物の生残や繁殖への影響も否定できない。
生態系への影響を軽減させるため、適切な工法と運用が必要だ。具体的には、騒音伝播防止策の徹底、建設地選定のための長期的で詳細な環境アセスメントの実施などがあげられる。その点、浮体式は必要となる基礎建設が小規模であるため、その分海洋生物への影響が少ない*。
一方、漁業においては風車の基礎に魚介類が集まるため、漁業者にとってむしろ新たな漁場となり得るという指摘もある*。工夫と施作を講じることで、洋上風力発電はよりサステナブルなエネルギー源となる。
コスト面の課題
洋上風力発電は、海上に設置されるため、陸上の風力発電と比較して、海底基礎工事などに、倍ほどのコストがかかるといわれる*。 稼働時の部品交換や維持管理のメンテナンス費用についても、陸上と比べて費用がかかる。
コスト面の課題を解決するため、経済産業省は「グリーンイノベーション基金」を設立し、洋上風力発電への支援を実施する他、低コスト化のための施策を打ち出している。現在は、浮体式のの普及に向け現場実証の事業者の選定が進む*。企業の量産化に向けた取り組みも、コスト面の課題解消の大きな柱となる。
日本の洋上風力発電の現状
日本政府は「洋上風力産業ビジョン」において、洋上風力発電の案件形成を加速化し、産業界として、2040年までに国内調達比率60%とする目標を打ち立てた。すでに洋上風力発電に係る基地港湾及び促進区域の指定等が実施されている。
国内の取り組みと再エネ海域利用法改正案
秋田港内及び能代港内におけるプロジェクトでは、発電容量は約14万キロワットに及ぶ着床式洋上風力発電所を建設。秋田港に4.2メガワット風車を13基、能代港に20基設置し、2023年1月に全面的な商業運転を開始している。総事業費は約1,000億円となる。
北海道石狩湾新港におけるプロジェクトでは、8メガワット風車を14基設置し、発電容量約112メガワットとなる着床式洋上風力発電所を建設した。総事業費は約740億円となる。
長崎県五島市沖のプロジェクトは、日本初の浮体式洋上風力発電所となる。2,100キロワットの風車8基を有し、総出力は16.8メガワットとなる*。日本が掲げる2040年45ギガワットの目標値は、五島市沖規模の洋上風力であれば、単純計算で2700カ所近くの想定となる*。
しかし、3月12日に政府が閣議決定した洋上風力の設置場所を領海内から排他的経済水域に拡大する改正案が、今後日本の洋上風力の未来をさらに広げることになるだろう*。
洋上風力発電は一大事業に成長
政府による洋上風力発電プロジェクトコンペには、石油製品を中心に扱うENEOSホールディングスも参戦している。ENEOSホールディングスは国内再エネ事業社大手JREを約1,900億円で買収し、洋上風力発電事業を次世代事業の柱に据える考えだ。
さらに大手ゼネコンやマリンコントラクターも洋上風力を次世代の成長事業と位置づけ、積極的な参戦を開始している。
洋上風力発電設備を国産化することで、国内のサプライチェーンが構築されるとともに、導入促進によるサプライチェーンの拡大が期待される。洋上風力発電事業は、官民一体となった一大事業へと成長しつつある。
洋上風力発電は、再エネのなかでもとりわけ脱炭素化や経済活性化の切り札となる可能性が高い。世界的に脱炭素化に向けてのエネルギー転換が進められている中、日本の産業振興やイノベーション創出の鍵となる再エネだ。