【猛暑と日本の経済】2024年夏、エルニーニョ現象の影響
2024年7月21日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年9月5日
2024年夏、日本を襲う猛暑が経済に与える影響とは。2023年から今年にかけて、世界的に高気温が続く。全国的に短めの梅雨明け後、7月早々から猛暑日が連続している。熱波、猛暑は、単に労働力の低下やインフラ、医療への多大な影響で経済損失を引き起こすのみならず、消費者行動を根底から変えかねない。猛暑はビジネスにどのように影響するのか。
スーパーエルニーニョがもたらした異常事態
ーー世界の平均気温の最高記録を更新させ続けるエルニーニョ現象とは?
世界の月間平均気温の記録更新が止まらない。世界気象機関(以下、WMO)によって、昨年2023年が観測史上、地球が最も暑い年となったことが正式に発表された。そして、今年に入ってもその傾向は継続している。
過去12カ月 (2023年5月〜2024年4月)の世界の平均気温は、1991年から2020年の平均気温に比べて0.73度高くなっている。さらに、産業革命前の1850年から1900年の平均気温に比べると1.61度も高くなっているのだ*。
異常事態の背景にはエルニーニョ現象の影響が大きい。エルニーニョとは、ハワイ諸島の南、赤道域からガラパゴス諸島に至る海域の海面水温が6カ月続けて0.5度以上高くなる現象で、地球の平均気温を押し上げることで知られる。2023年に発生したエルニーニョは、記録史上5本の指に入る強力なもので、スーパーエルニーニョと呼ばれている。結果、この年の平均海面水温は、1991年から2020年の平均海面水温を約2.0度も上回った*。
反対に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象をラニーニャ現象というが、現在、エルニーニョは緩やかに弱まり、ラニーニャとの中立状態にある。とはいえ、北極、南極以外の月間平均海面水温は依然として最高温度を記録しており、予測は難しいが、今後も気温の記録更新は続く可能性が高い。
35℃超えの猛烈な暑さ続くおそれ
関東甲信と東海で7月18日に梅雨明けが発表された。梅雨空が去った途端に猛暑日が連続している。
日中のみならず、夜間も気温はそれほど下がらず、続く熱帯夜に悩まされる人も多いだろう。
環境省は未曾有の暑さを警戒し、4月24日から熱中症特別警戒アラートの運用を開始している。アラートは、10月23日まで実施され、制度下では、地域の気温だけでなく、湿度や周辺環境からの熱を計算した暑さ指数が35以上になる場合に発表される。
アラートが出された場合には、エアコン使用の推奨等の熱中症対策が呼びかけられる他、公共施設や民間施設が冷房避難所として開放され、高齢者や乳幼児など熱中症のリスクが高い人々への特別な配慮が求められる*。
同アラート発表の翌日に、小中学校などを休校とする方針を打ち出す自治体もある。専門家は災害対応と捉えるよう訴えており、猛暑はもはや災害の域に入ったといえる。
猛暑による経済的損失は2.4兆ドルを超える
暑さは経済に甚大な影響をもたらす。エイドリアン・アーシュト・ロックフェラー財団レジリエンスセンターのリサーチによると、アメリカでの暑さによる経済損失は控えめに見積もっても年間1,000億ドルをくだらないという。
リサーチは労働者の生産性に焦点をあてた内容だが、実際のところ、暑さは、観光、インフラ、医療費、エネルギーコストなどにも大きく影響を与えるため、それらを計算に含めると損失は倍にも膨れ上がる。さらに、将来的には2050年までに約5,000億ドルにも達する見込みだ*。
日本では、これまで猛暑は消費にプラス効果をもたらすと考えられてきた。しかし、実際のところ統計データには、猛暑が消費に与える影響は明確には表れていない。それどころか、実際にはやはり労働生産性への悪影響の他に、猛暑が連鎖的に引き起こす天候不順、気候災害などが消費支出に及ぼす悪影響が危惧されている*。
世界的に見ると、国際労働機関(ILO)は、特に労働者の日中の屋外労働が妨げられるなどの結果、猛暑によって2030年までに世界GDPの約2.5%にあたる2.4兆ドルの損失が世界的に生じるとしている*。異常な暑さは経済を冷やすのだ。
国際規制、累進課税の議論が進む
科学者らは現在、気候システムが人間の活動により、加速度的に気候変動が進行する転換点へと至っているのか、その答えを出すための調査に入っている*。温暖化の進行はすでに科学者の予想を超え、未知の領域に突入したといえるだろう。
「地球沸騰」の時代となり、温室効果ガス(以下、GHG)の排出削減数値が非財務情報の中でも大きな指標となっている。2026年度には国や企業ごとに定めたGHGの排出枠を取引する「排出量取引」が本格的に始まる*。そればかりではない。昨年ドバイで開催された国連気候変動会議(COP28)で、化石燃料からの移行が合意され、「資金をどこから調達するのか」について移行金融などの議論が始まろうとしている。
特に気になるのは炭素集約度(エネルギー消費量単位あたりの二酸化炭素排出量)の高い活動に対する累進課税を求める声が高まっていることだ*。具体的には、二酸化炭素排出量1トン当たり5ドルを課税した場合には、年間2,100億ドルを移行資金として調達できる、といった具合である。
国際通貨基金(IMF)が、気候変動への対策資金として、二酸化炭素排出と化石燃料採掘に対する課税を長年提唱し続けてきたが、追い風が次第に強くなっている。国境を越えて課税を行うハードルは低くはないが、フェーズ移行にともない、国際規制を後押しする世論も徐々に成熟しつつある。
猛暑は企業の好機となり得るのか
一方で、グリーンマーケティングによって消費者の心を掴み、成長を遂げる企業の活躍が著しい。気候変動への危機感の高まりに上手く適応し、環境に配慮した商品やサービスを提供する企業である。
実際に、グリーン・マーケティング市場の成長は右肩上がりだ。2021年の約492.5億ドルから、2031年には約700億ドルへと毎年約3.58%拡大することが予測されている*。
年々暑くなる夏、日々飛び込む気候災害のニュースに触れ、気候変動への危機感が大きくなっていることで、消費者の関心に変化が起きているのだ。
持続可能な製品やサービスに関連するGoogle検索数が、2017年から2022年にかけて約3割も増加していることからもわかるように、消費者のサステナビリティへの貢献の意欲は高まり続けている。マッキンゼーの2020年の調査では、全回答者の66%、ミレニアル世代の75%が購入の際に持続可能性を考慮すると回答した*。
グローバル経営コンサルティングファーム、ベイン・アンド・カンパニーの2023年の調査によると、環境負荷の低い製品に対して、消費者がより多くの金額を支払う傾向にあることもわかっている。環境への影響を最小限に抑えるために、平均して1割以上の値上げを許容するというのだ*。
同調査では、平均値を下回りはするが、日本においても消費者は環境負荷の低い製品には、6%を上乗せして支払う用意があることがわかっている。
企業には、消費者のニーズの変動への理解、この先に決して低くはない確率で国際的な規制が設けられることへの準備などが求められ、事業コンセプトの路線変更を迫られる場合もあるだろう。
近年の過去最高の暑さには、気候変動が加速的であることを体感させられる。高まる一方の危機感は、消費者に環境への配慮の度合いや質をより厳しく値踏みさせるようになる。グリーンビジネスへの投機というよりは、乗り遅れへのデッドラインが迫っているのかも知れない。
(2024年6月1日の記事を再編集)