オーストラリアの鉄鉱石輸出が激減 天然ガスが解決できない需要の変化

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オーストラリアの鉄鉱石輸出が激減 天然ガスが解決できない需要の変化

西オーストラリア州の鉄鉱石鉱山(Photo:Inc/ Shutterstock)

鉄鉱石の貿易市場にシェア1位のオーストラリアをも巻き込む大きな変化が起きている。市場リードの鍵は、より排出量を削減できる製鉄方法を選べるかだ。

2025年2月27日 – Simon Nicholas / IEEFA / Lead Analyst, Global Steel Translation by SteelWatch

この記事で分かる主な分析結果

世界的に原料炭の需要が落ち込み、輸出の長期見通しが悪化する中、オーストラリア政府は4件の新たな原料炭開発プロジェクトを承認した。

鉄鉱石の価格は、新たな供給量の増加と中国での鉄鋼需要の低迷により、大幅な下落が予想されている。長期的には、低炭素での鉄鋼生産に適した高品位鉄鉱石の需要が拡大し、オーストラリア最大の輸出産業である影響を及ぼす見通しだ。

オーストラリアの低品位鉄鉱石を、低炭素での鉄鋼生産に活用するための取り組みは不可欠だが、世界の競合国がグリーン水素を用いた製鉄技術に目を向ける中、化石燃料の利権にとらわれて天然ガスやブルー水素の使用に舵を切るべきではない。



豪州の鉄鉱石輸出が大幅減

昨年2024年末に、オーストラリア最大の輸出品である鉄鉱石の輸出額が大幅に減少することが確実となった。そして、オーストラリア政府は、クリスマス直前に取引量の減少が進む市場で、4件の新たな原料炭開発プロジェクトを承認した。

鉄鉱石の輸出額の大幅な減少には、短期的には主に、中国での鉄鋼需要の落ち込みが影響している。しかし、長期的にみると、鉄鋼生産技術の変化が、オーストラリアの鉄鉱石と原料炭への需要を恒久的に様変わりさせている可能性がある。

オーストラリアから輸出される鉄鉱石
オーストラリアから輸出される鉄鉱石(Photo: creativevikas/ Shutterstock)

豪タニア・プリバセク環境大臣は、原料炭の新規プロジェクト承認の根拠として、「今のところ、鉄鋼生産に再生可能エネルギーを使用することは、現実的な選択肢ではない」と語った。また、クリス・ボーエン気候変動・エネルギー大臣は、「現時点で、石炭を使用せずにどうやって鉄鋼を生産できるのかご説明いただきたい」と述べている

その問いへの答えは簡単だ。すでに世界中で石炭を使わずに大量の鉄鋼が生産されている。グリーン水素を用いた真のグリーンスチールも、商業規模での生産に向けて順調に進んでいる。ステグラ社がスウェーデンで建設中のグリーンスチールプラントは、2026年に商業運転を開始する予定だ。

原料炭プロジェクトが承認されたのとほぼ同時期に、国際エネルギー機関(以下、IEA)が石炭に関する年次報告書で、今後数年間にわたり「圧倒的な輸出量を誇ったオーストラリアの原料炭のシェアが縮小する見通し」であることを発表、輸出量の減少を予測した。

IEAの予測は、オーストラリア産業科学資源省(以下、DISR)「資源・エネルギー四半期報告書(2024年12月)」の報告とは対照的である。過去5年間にわたり原料炭の輸入実績が減少しているにもかかわらず、オーストラリアの原料炭輸出は増加すると繰り返し予測している。

DISRはこれまでもオーストラリアの原料炭輸出を過大評価してきた(図1)。

オーストラリアの原料炭輸出見通し
図1 オーストラリア政府による原料炭輸出見通し(2020年〜2024年実施)(出典:オーストラリア政府 産業科学資源省(DISR))


低グレード鉄鉱石の需要が落ちている理由

とはいえ、DISRの最新の四半期報告書には、鉄鉱石に関する厳しい見通しも示されている。輸出量の増加にもかかわらず、価格の下落により、オーストラリアの鉄鉱石輸出による収益は2年間で420億豪ドル減少し、鉄鉱石のベンチマーク価格は、現在の1トン約100米ドルから76米ドルに下落すると予想されている。

こうした短期的な価格下落は、世界最大の輸入国である中国で需要が鈍化する一方で、オーストラリアとブラジルからの供給量が増えることによるものと推測される。2026年以降、ギニアにあるシマンドゥ鉱山の開発プロジェクトによる新たな供給が加わることで、価格はさらに下落する恐れがある。

しかし、長期的には、高品質な直接還元(Direct Reduction = 以下、DR)グレードの鉄鉱石に需要がシフトしていくと考えられ、オーストラリアはさらなるリスクに直面すると予想される。なぜなら、現時点では、低排出な鉄鋼生産である直接還元製鉄(DRI法)に、DRグレード鉄鉱石が必要とされているからだ。

英アングロ・アメリカン社は、高炉向けの鉄鉱石の需要が減少する中、DRグレードの鉄鉱石の需要は大幅に伸びるとの業界予測を強調する(図2)。

鉄鉱石に関する長期予測
図2 鉄鉱石に関する長期予測(出典:アングロ・アメリカン社)

オーストラリアはDRグレード鉄鉱石の生産を拡大できる可能性を秘めており、南オーストラリア州は、高品位の鉄鉱石を原料とした輸出用グリーンアイアンの生産において、国内トップレベルの事業機会を手にしてもいる。しかし現状では、オーストラリアの鉄鉱石輸出のほとんどがDRグレードには遠く及ばない。

だからこそ、オーストラリア産の低品位鉄鉱石を、DRI法を用いた鉄鋼生産に使用できるようにする取り組みが非常に重要となる。オーストラリア最大の輸出産業の長期的な未来は、そうした取り組みにかかっているからだ。その実現を目指す有数のプロジェクトの一つが、リオティント、BHP、ブルースコープの3社が共同で進めるネオスメルト(NeoSmelt)プロジェクトである。しかし、最新の進捗状況には懸念すべき点が含まれている。


化石燃料利権が阻むグリーンスチールへの道

昨年12月に石油ガス大手のウッドサイド・エナジー社がネオスメルトプロジェクトに参画したことで、本プロジェクトではDRI法の還元剤として天然ガスに照準を合わせていることが改めて確認された。

世界に目を向ければ、オーストラリアの競合国となりうる国の多くは、真のグリーンスチールを生産するためにグリーン水素の使用を目指している。多くの海外メーカーはDRI法の稼働に際し、まずは天然ガスを使用し、グリーン水素が安価になるにつれて切り替えていくだろう。しかし、ウッドサイド・エナジー社がそのような方針を取ることはないと思われる。

プロジェクトの最新情報では、「鉄鉱石の還元剤として当初は天然ガスを使用して直接還元鉄(DRI)を生産するが、稼働が順調に進めば、より低排出な水素を還元剤として使用することを目指す」と述べられている

「より低排出な水素」とは、ゼロエミッションのグリーン水素ではなく、天然ガスと炭素回収・貯留(CCS)技術を組み合わせて生成されるブルー水素を指す。しかし、回収率の低さなど、CCS技術を左右するさまざまな課題を考えると、ブルー水素は低排出とはいえない。

長期的に見れば、ブルー水素を使用する鉄鋼生産は、排出量とコストの両面において真のグリーンアイアンには太刀打ちできないだろう。また、南オーストラリア州政府によるDRIプラント新規開発計画が、天然ガス業界から圧力を受けていることも明らかになっている。同州は、再生可能エネルギーで圧倒的な優位性があり(2027年までに実質100%の再生可能エネルギー比率実現を目指している)、将来的に競争力のある価格でグリーン水素を生産できるという有利な立場にあるにもかかわらずだ。


製鉄でのグリーン水素使用が市場勝ち残りの鍵

豪フォーテスキュー社は、DRI法における天然ガスの使用を否定し、グリーン水素に照準を合わせている。ブラジルでは、鉄鉱石採掘企業「ビッグ4」の一社であるヴァーレ社が1月、スウェーデンのグリーンアイアン社と共同で、両国におけるDRIプラントの実現可能性やグリーン水素の使用用途の可能性について調査し、取り組みを進めることを発表した。ヴァーレ社は、ブラジルでのグリーン水素生産という商機のため、すでに調査を進めている

カナダオマーンなどの国々も、グリーン水素を使用して真のグリーンアイアンを製造することで、急速に進化する鉄鋼業界でのオーストラリアとの競争にも太刀打ちが可能となるはずだ。

鉄鋼生産技術は変化を遂げつつある。オーストラリアの鉄鉱石と石炭の市場は、大方の予想よりも速いスピードで様変わりするだろう。

オーストラリアが、化石燃料の利権にとらわれて天然ガスを使い続ける道を選択すれば、激化する国際競争に遅れをとることになる。勝ち残りのためには、可能な限り迅速に、鉄鉱石の還元剤を天然ガスからグリーン水素に置き換える必要がある。


この記事はInstitute for Energy Economics & Financial Analysis (IEEFA) 掲載のSimon Nicholasによる記事 “In 2025, Australia needs to accept that its iron ore and coal markets are changing permanently… and gas is not a solution”(公開日2025年1月22日)スティールウォッチが翻訳したものです。


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