【日米首脳会談】石破がトランプに約束した「記録的数量」のLNG

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【日米首脳会談】石破がトランプに約束した「記録的数量」のLNG

ホワイトハウスでトランプ大統領との日米首脳会談に臨む石破首相。2025年2月7日(出典:首相官邸ホームページ)

石破が日米首脳会談でトランプに約束した「記録的数量」のLNG購入。しかし追加購入したLNGは南アジアや東南アジア諸国に流れる可能性が高い。

2025年2月25日 – Energy Tracker Japan

2月7日に開催された日米首脳会談で、石破首相は米LNGの購入拡大をトランプ大統領に約束した。日本国内のLNG需要が減少する中、転売での利益獲得を目論む日本の動きが、南アジアや東南アジア諸国の脱炭素を妨げている。


初の日米首脳会談

石破茂首相は2025年2月6日(現地時間)にホワイトハウスを訪れ、翌7日にドナルド・トランプ米大統領と初の日米首脳会談を行った。

首脳会談後の共同記者会見での石破首相とトランプ大統領
首脳会談後の共同記者会見での石破首相とトランプ大統領。2025年2月7日(出典:首相官邸ホームページ

2期目をスタートさせたトランプ大統領は、バイデン前大統領の功績の多くを覆すように(編集部注:2月20日時点で100本を超える)大統領令を次々と発令している。政治的激変のさなかに、石破首相がワシントンに到着した。現在、トランプ大統領はカナダとメキシコにも関税を課そうとしており、両国からは即座に反発の声が上がっている。

トランプ大統領は会談後の共同記者会見で、日米間の1,000億ドルの貿易赤字に言及し、日本が米国の石油やガスをより多く輸入するだけでこの問題を解決できると主張。日本が米国産LNGを「記録的な数量」で輸入するようになるだろうと発言した。 

しかし、日本が米国産LNGの輸入を増やすことは、それほど簡単ではなさそうだ。日本はすでに相当量の米国産LNGを輸入している。2023年度の輸入量は約580万トンで、これは日本のLNG総輸入量の約9%に相当する。さらに、日本国内のLNG需要は2014年以降、2,200万トン以上(25%)減少しているのだ。

なお、日本国内のLNG需要の低下は、2011年の福島原発事故後すべて停止していた原発が、徐々に再稼働(現在は13基が運転中)していること、そして再エネ電力の増加による。


日本のLNG転売が増加する中で

近年、日本は第三国へのLNG転売を徐々に増やしている。米エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)の調査によると、2023年度には日本企業が取り扱うLNG量の37%が国内で消費されずに海外に転売された(5年前の16%から21%増)

日本企業のLNG取扱量グラフ
日本企業のLNG取扱量(出典:JOGMEC、IEEFA /翻訳Energy Tracker Japan)

▶︎日本の2023年度のLNG海外転売量は過去最高を記録

国内需要を減少させ続けているLNGだが、日本企業は、南アジアや東南アジア諸国への転売で利益を得られることから、追加の契約締結を続けている。

日米首脳会談に先立ち、日本最大の発電事業者JERAは、供給源の多様化を図るため、建設中の輸出ターミナルから米国産LNGをさらに購入する計画を発表した。現在、JERAは日本の国内需要の半分以上に相当する年間約3,600万トンのLNGを取り扱っている。


ロシアLNGへの米制裁の行方

首脳会談を前に、トランプ政権が、「サハリン2」を含むロシアの石油、ガス産業に追加制裁を加えるのではないかという憶測が囁かれていた。サハリン2とは、サハリン島北東部のLNGおよび石油の大型開発プロジェクトで、日本のLNG輸入の約8%を占める

ガス輸送を行うタンカー。サハリン、ロシア
サハリン2プロジェクトには、日本からは三井物産、三菱商事などが出資。写真はガス輸送を行うタンカー。サハリン、ロシア(Photo: Gribov Andrei Aleksandrovich/ Shutterstock)

トランプ大統領がサハリンに制裁を課すなら、日本は、米国あるいは他の国からLNGを追加調達するしかなくなるだろう。反対に、ロシア産LNGに対する更なる制裁がない場合には、日本企業は米国産LNGの追加購入に前向きになる可能性はあるが、最終仕向地が日本になる可能性は低い。

日本政府と日本企業は、輸入ターミナル、発電所、パイプラインへの投資を通じてアジア全域のLNG市場の発展に積極的に取り組んできた。バングラデシュやベトナムなどの一部の国では、こうした日本の動きがエネルギー政策にも大きな影響を与え、再エネよりもガスやLNGが優先されるようになっている。

ブルームバーグの最近の試算によると、日本企業は2023年度にLNG事業から140億ドルの利益を得た。アジアのガス需要は今後数年間で大幅に伸びると予想されており、日本企業はインフラの供給者として、またオーストラリア、カタール、米国などとの長期契約で確保したLNGの供給者として利益を得る立場にある。


6兆円超のアラスカLNGプロジェクト

石破首相とトランプ大統領はアラスカLNGプロジェクトについても協議したが、共同首脳声明ではそれについての言及はなかった。

アラスカLNGは、アラスカガスライン開発公社(AGDC)が開発中の440億ドル(約6兆7,000億円)規模のプロジェクトである。

もしこのプロジェクトが順調に進んだ場合には、2031年以降に2,000万トンのLNGが輸出される可能性がある。トランプ大統領は、アラスカから輸出されるLNGは日本まで最短の海路で運ばれることになると強調した。

アラスカLNGプロジェクトは、投資パートナーの不足と多額のコストという大きな障害のために長年停滞してきた。2016年の時点で、すでに石油大手の英BP、米コノコフィリップス、米エクソンモービルが、このプロジェクトから撤退している。

2026年末から新たなLNGが大量に市場に流入すると予想される中、これ以上の遅延はプロジェクトの経済的リスクとなる。


他国の脱炭素を妨げる日本の影響力

他方、石破首相は、日本は米国からバイオエタノールとアンモニアを「安定した価格」で購入することに関心があるとも述べている。日本は、既存の石炭火力発電所からの排出量を削減するため、石炭とアンモニアの混焼を積極的に推進してきた。

アンモニア混焼は、アンモニアのライフサイクル全体を考慮すると、排出量の削減がほとんど見込めないことから広く批判されている。石破首相が「安定した価格」と言及したことにも注意が必要だ。

日本のすべての石炭火力発電所でアンモニア混焼を導入するために必要なアンモニアを確保するとなるとと、莫大な費用がかかる可能性が高いからだ。

トランプ大統領が現状、日本へは関税引き上げを示唆していないことから、石破首相の訪米を成功と見る向きもあるが、エネルギー転換の点では、今回の会談に進展はほとんどなかったといえる。

それどころか、日本が米国産LNGを「記録的数量」購入する約束を実際に果たせば、それらは日本ではなく南アジアや東南アジア諸国に流れ、これらの国々での再エネ普及をさらに遅らせることになるだろう。


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