日本の浮体式洋上風力の驚異的なポテンシャルとは
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2025年2月15日 – Energy Tracker Japan
浮体式洋上風力発電は水深の深い海域にも設置できることから、再生可能エネルギーの普及拡大の切り札として注目されている。周囲を海に囲まれる日本は広大な海域を有することから、大規模な導入に期待が高まっている。
注目される浮体式洋上風力発電のメリット
浮体式洋上風力発電とは、発電施設を海底に直接据え付けるのではなく、浮力を持つ構造物を利用して洋上に浮かべた状態で発電を行う方法だ。浮体式洋上風力では、波や風、潮流の影響を受けながらも浮力で安定を保ち、アンカーなどで海底につなぎ留めることで位置を維持する。このため、水深の深い海域にも設置が可能であり、これが浮体式の最大のメリットである。
現在、欧米や日本では遠浅の海域に設置可能な着床式が主流だが、浮体式にも洋上風力発電ならではの共通するメリットがある。
浮体式洋上風力の3つのメリット
第一に、大量導入の可能性が挙げられる。日本は四方を海に囲まれ、洋上風力発電を設置できる海域が広範囲に広がっている。一方で、陸上風力発電はすでに多くが設置されており、騒音や振動による近隣への影響が懸念されるため、大規模な増設には制約がある。
第二に、発電効率の高さがある。風力発電の発電効率は30%~40%とされ、太陽光発電の20%~30%を上回る。特に洋上では、陸上よりも安定的で強い風が吹くため、効率的な発電が期待できる。
第三に、経済波及効果が大きい点だ。洋上風力発電設備は数万点以上の部品で構成されており、関連産業が幅広い。事業規模は数千億円に上るとされ、導入拡大により地域経済の活性化や新たな雇用創出が期待されている。
日本の海域は地形上、海岸線付近で急激に水深が深くなるため、着床式での設置場所は限られている。再生可能エネルギーのさらなる普及を目指すうえで、浮体式の導入は重要な役割を果たす。広範囲での設置を可能にする浮体式は、日本の洋上風力発電の切り札として注目される技術なのである。
日本の洋上風力の設置可能面積は世界6位に
2024年3月12日、政府は再エネ海域利用法の改正案を閣議決定し、洋上風力発電の設置対象海域を「領海」から「排他的経済水域(EEZ)」へ拡大する方針を示した。この改正により、設置可能な海域の規模は従来の10倍以上に広がる見通しである。
排他的経済水域とは、沿岸国が天然資源の探索や開発、エネルギー利用の権利を持つ海域を指し、領海の外側に最大200海里(約370キロメートル)まで広がる範囲を含む。
現在の法律では、洋上風力発電の設置対象海域は領海(約43万平方キロメートル)に限定されている。しかし、改正案が成立すれば、対象範囲が排他的経済水域(約405万平方キロメートル)まで広がり、合計面積は約447万平方キロメートルに達する。この広さは、世界第6位の海域面積に相当する。
日本の排他的経済水域は水深が数百メートルから1000メートルを超える地点が多いため、浮体式が主流となると見込まれている。今回の法改正は、浮体式の大量導入を見据えたものだといえる。
浮体式洋上風力の実用化に向けた課題は?
多くのメリットを持つ一方、対策が必要となる浮体式洋上風力の実用化に向けた技術面やコスト面での課題は主に3つあげられる。
浮体式洋上風力の3つの課題
まず第一に、1基あたりの発電量を増加させるためには風車を大型化することが重要だ。しかし、現在、日本国内には大型風車を製造するメーカーが存在せず、海外からの輸入に頼らざるを得ない。この依存構造はコスト増加や供給リスクの要因となり、大型風車の国内製造の推進が重要な課題となっている。
第二に、日本特有の厳しい自然環境も克服すべきハードルである。日本は地震や台風が多く、かつ海底地形も複雑であるため、発電施設には他国よりも耐久性や安全性が求められる。この結果、技術的なハードルが高くなるとともに、建設費や維持管理費も増大する。
そして第三に、地域住民や漁業関係者との共生も重要な課題だ。発電施設の設置にあたっては、国が環境調査を行い適切な場所を選定した後、設置事業者を公募するプロセスを経るが、この際、地域住民や漁業関係者には安全性や海洋生態系への影響について十分な説明が必要である。
特に漁業関係者の中には、発電施設による漁場の圧迫や、設置に伴う海洋環境の変化が魚群に影響を及ぼす可能性を懸念する声がある。このため、発電施設の設置には、漁場外の設置や生態系への影響を最小限に抑える設計が欠かせない。
投資リスク軽減につながる日本の洋上風力の新たな支援策
2021年度末時点で、世界の洋上風力発電の総導入量は約57.2ギガワットであり、そのうち浮体式は約0.12ギガワットにとどまる。米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)によると、今後、世界の浮体式の導入量は増加していき、2030年までに10ギガワット、2050年には約270ギガワットに達すると予測される。
日本では、2020年7月に「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」が経済産業省と国土交通省の主導で設立され、同年12月には「洋上風力産業ビジョン(第1次)」が策定された。このビジョンでは、2030年までに10ギガワット、2040年までに30ギガワット〜45ギガワットの案件形成を目指す目標が掲げられている。
この目標を達成する鍵は、浮体式洋上風力発電技術を早期に確立することだ。現在、グリーンイノベーション基金を活用した実証事業が進行中で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援のもと、電力会社、建設会社、機械メーカーなどが中心となったプロジェクトが展開されている。2030年までに、国際競争力のあるコスト水準で浮体式の商用化を実現することが目標だ。
また、洋上風力発電は初期投資額が数千億円規模に上り、運用期間も40年と長期にわたるため、投資回収に時間を要するリスクが伴う。このため、多くの企業にとって参入のハードルが高い現状がある。
そこで、政府は2025年から新たな支援策を導入し、事業への投資リスクを軽減する方針を示している。この支援策では、公募開始から投資決定までの期間に資材価格が上昇した場合、その最大40%を電力価格に反映できる仕組みを導入する予定である。政府は支援策を通じて投資を促し、洋上風力発電の導入拡大を着実に進めていく姿勢だ。
日本は浮体式で世界をリードできるか
2023年にドバイで開催されたCOP28では、130カ国以上の首脳が、再生可能エネルギーの発電能力を2030年までに3倍にする目標に合意した。その実現には洋上風力発電の導入拡大が欠かせない。
こうした中、日本の海域が有する発電能力のポテンシャルの高さが注目を集めている。世界銀行グループによれば、日本の領海内だけで、550ギガワットもの洋上風力発電が設置可能だという。
さらに、三菱総合研究所(MRI)のレポートでは、排他的経済水域(EEZ)を含む「ポテンシャル海域」の試算が示され、浮体式は2,396ギガワット相当の発電能力があるとされている(着床式では70ギガワット)。このうち、発電コストが1キロワット時あたり10円未満となる事業性の高い海域は、浮体式において、2040年に343ギガワット、2050年には1,477ギガワットに相当する発電能力があると予測された。
これらの数値は、船舶の航行や漁業への影響を考慮した結果であり、日本が持つ洋上風力発電の可能性を明確に示している。
今後、日本で浮体式の実用化と導入が進めば、カーボンニュートラルの実現やエネルギー自給率の向上に大きく貢献するだろう。それにより、国際競争力が強化され、日本が世界の洋上風力発電を牽引する存在になる可能性がある。日本の浮体式が再生可能エネルギーの普及拡大を後押しできるか、今後の進展に注目が集まる。