再エネ容量は2030年までに3倍増! 投資ギャップを利するために

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再エネ容量は2030年までに3倍増! 投資ギャップを利するために

COP28前半のハイライトは、2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にするという目標だ。しかし再エネ3倍目標の適用には課題が残る。化石燃料の段階的廃止への合意がなければ、この目標の効果は限定的なものとなるだろう。

2023年12月8日 – Energy Tracker Asia

最終更新日:2024年9月5日

2030年までに再生可能エネルギー容量を11テラワットに

COP28の3日目、115カ国以上が、2030年までに世界の再生可能エネルギー(以下、再エネ)容量を3倍の11テラワットにするとの誓約に署名した。また、エネルギー効率の向上を毎年4%以上に倍増させることでも合意に至っている。その中には、日本はじめ、EU諸国、米国、オーストラリア、ベトナム、そしてCOP28のホスト国であるアラブ首長国連邦(UAE)が含まれる。EUを中心とする多くの国々は、この誓約がサミットの最終合意に入るよう働きかけている。

この再エネ3倍の目標は、今年9月にインドで開催されたG20でも合意されている。加えて、エネルギー転換のギャップを埋め、1.5℃目標の道筋を維持する方法に関する国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の世界エネルギー転換展望(WETO)とも一致している。

再生エネ3倍目標の重要性

Global Solar CouncilのCEOソニア・ダンロップ(Sonia Dunlop)氏は、再エネ目標の重要性について、「再エネを大幅に強化するという100カ国以上のコンセンサスを得ることは、太陽光と風力の市場拡大は止められないという前例のないシグナルとなる」と話す。

現在、世界の再エネの総発電能力は2.3テラワットであり、これは世界の気候変動目標を達成するのに不十分だ。

Emberによれば、風力や太陽光のような再エネを3倍に増やし、エネルギー効率を2倍にすれば、2030年までに気候変動対策目標を達成するために必要な化石燃料削減の85%をカバーすることができる。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までに1.5℃目標を達成するためには、太陽光と風力によって再エネを3倍にすることが、世界がとることのできる唯一最大の行動であると述べる。IRENAのWETOは、この目標を1.5℃の道筋に合わせるための「最も現実的な軌道修正」と説明する。

また、この公約は、再エネ容量を3倍にし、エネルギー効率を2倍にする以外にも、「化石燃料の段階的削減を可能にするためのアプローチを強化する」ことも求めている。具体的な数値目標はないものの、化石燃料の使用を削減する必要性に直接言及している点で重要だ。

Global Energy Monitorのグローバル・ウィンドパワー・トラッカー・プロジェクト・マネージャーであるシュラディ・プラサド(Shradhey Prasad)氏は、クリーンエネルギー拡大の原動力となるのはアジア諸国だと指摘する。「建設中の実用規模の太陽光発電と風力発電の容量の大部分を占めるのは中国であり、326ギガワットと、世界の他の地域の合計よりも170%多く、これらはわずか1〜2年で稼動する可能性が高い。中国、インド、ブラジル、エジプト、フィリピンは、建設中の実用規模の太陽光発電と風力発電の合計容量が350ギガワットで、建設中の世界の太陽光・風力発電容量の65%以上を占める。完成すれば、世界の太陽光発電と風力発電の稼働容量は25%以上増加する」

抜け穴の可能性

世界風力会議の政策・プロジェクト責任者であるジョイス・リー(Joyce Lee)氏は、「2030年までに11,000ギガワットの再生可能エネルギー容量という定量的な目標を掲げたことにより、漠然としたネットゼロの目標から一歩前進することができた」とする。

確かに歓迎すべき野心的な目標が掲げられたといえるが、現在のままの誓約ではまだまだ不確実性が高い。成果を最大化するためには、各国の政策決定者が、「範囲、適用、進捗状況」についての分析を明確に示すことが必要だろう。

投資ギャップへの対応が必要

COP28のファイナンス・デーまでに、各国首脳は40以上の誓約を行い、さまざまな気候変動対策イニシアティブのために570億米ドルを集めた。その中には、300億米ドルの「ALTÉRRA(アルテラ)」基金があり、これはグローバルサウスの民間資金を引き出すことを目指したものとなる。国際開発金融機関は、1,800億米ドルの気候変動資金を確保するとの誓約を発表した。「損失と損害」基金は、本稿執筆時点で7億2,500万米ドルを集めた。緑の気候基金(Green Climate Fund)には、さらに35億米ドルが追加され、補充誓約は合計128億米ドルとなっている。エネルギーに関しては、各国首脳は再エネに25億米ドル、メタン排出削減に12億米ドルで合意している。

幸先の良いスタートではあるものの、集まった資金は未だ不十分だ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究者は、中国を除く新興国および発展途上国の年間投資ニーズを、2025年に1兆米ドル、2030年までに2.4兆米ドルと見積もる。また、IEAは、2030年までの再エネ3倍目標を達成するためには、世界で年間4.5兆米ドルが必要だと見積もる。S&Pグローバル・コモディティは、現在から2030年の間に4.6テラワットの太陽光発電と風力発電が稼動すると見積もっており、投資額は4.7兆ドルになると予測する。これは、巨額の投資ギャップと、再エネのプロジェクトに対する金融支援の強化の必要性を浮き彫りにしている。

このような規模の資金を調達することは簡単ではないものの、専門家は解決策は存在すると指摘する。350.org国際政策担当のアソシエイト・ディレクターであるアンドレアス・シーバー(Andreas Sieber)氏は、「世界の再エネ目標を達成するために、中国以外のグローバル・サウスへ、債務の帳消し、民間資金調達のための年間1,000億米ドルの無償融資、そして強力な公共投資のための2,000億米ドルの助成金などの支援が必要となる。本心から資金が足りないと主張する人はいないだろう。実際、上位3,000人の富裕層に2%の課税をするだけで、年間2,500億米ドルの財源が確保できる」と説明している。

目標達成のカギを握る政策

再エネ目標は、これまでにない導入の加速を必要とする。10年後までに、世界は1,000ギガワット以上の再エネ容量を毎年新たに追加しなければならない。2023年には、過去最大で、2022年より107ギガワット多い440ギガワットの再エネ容量が追加される見込みだ。目標達成のためには、世界は年間再エネ容量を現在の2倍以上に急増させ、2030年を通してその軌道を維持しなければならない。さらに、新増設容量はセクター、地域、国々に均等に分散させる必要がある。

元国会議員でナイジェリアの気候変動法の提唱者であるサム・オヌイグボ(Sam Onuigbo)氏は、「現在の再エネ容量の不公平な配分に注意を払い、このバランスをとるために努力することが重要となる。アフリカはエネルギーを切実に必要としている。再生エネ目標は、膨大な自然の潜在力を活用し、再エネ発電と配給を促進し、エネルギー貧困に対処すると同時に、工業化を促進する機会としなければならない。さらに、公約だけでなく、行動に裏打ちされた言葉、脆弱なコミュニティや国々が搾取されない公平な仕組みが、実行されることを望む」と訴える。

IEAはこの目標を「野心的でありながら達成可能」としつつも、達成には努力が必要となるとしている。弾力的な技術サプライチェーン、太陽光発電や風力発電の安全で費用対効果の高いシステム統合、多くの新興経済国や発展途上経済国での再エネ普及のために、各国政府がより強力な政策行動をとる必要があると指摘する。

前出の世界風力会議のジョイス・リー氏は、「今大切なことは、各国がこの目標を直ちに政策、規制、投資の行動に移すこと。再生可能エネルギーのプロジェクトの許認可を迅速化することから、公的資金を化石燃料から再エネインフラへとシフトさせることまで、その内容は多岐にわたる」と話す。

Global Solar Council CEOのソニア・ダンロップ氏も、同様の感想を述べる。「野心的な誓約も、法的拘束力のある行動と説明責任が伴わなければ、何の意味もない。適切な政策が実施されれば、太陽光発電だけで2030年までに11テラワットの再エネ容量のうち、8テラワット近くを供給することができる。これは、現在中国とアメリカで設置されているエネルギー容量の2倍以上となる」

「再生可能エネルギー」の定義

どのようなエネルギー源が 「再エネ」に該当するのかは、依然として不明確でもある。例えば、アンモニアや産業用バイオマスのような、疑わしい発電源もこの言葉に含まれる可能性がある。これらは排出量を削減できず、産業用バイオマスの場合は生物多様性の損失を引き起こす危険性もある。

原子力もまた、目標達成に向けて議論されている電源のひとつだ。現在、2050年までに原子力発電容量を3倍に増やすという宣言に、すでに20カ国が署名している。しかし、原子力への言及はいずれも2030年以降のものとなる。

Global Energy Monitor プロジェクト・マネージャーのジョー・ベルナルディ(Joe Bernardi)氏は、「現実には、米国の歴史上、原子力発電の大部分は一度も稼働していない。米国は172ギガワットの原子力発電所の計画がキャンセルされており、これは稼働中、廃炉済み、または稼働見込みのすべての発電容量を合計した130ギガワットよりも多い」と指摘する。

ベルナルディ氏は、太陽光発電と風力発電は、市場投入までの時間を大幅に短縮し、より安価な解決策となるという。「この夏、7年ぶりに稼働を開始した米国のボーグル3号機が話題になっている。しかし2023年末までには、米国はその120倍になる風力発電と太陽光発電を、わずかなコストで追加する見込みだ」

COP28のGDAプログラムでは、27カ国がUAE水素声明(UAE Hydrogen Declaration of Intent)に署名し、低炭素水素の世界貿易を加速するための世界的な認証水素基準を支持することに同意した。しかし、新たな再エネを犠牲にすることなくグリーン水素を開発することができるかどうか、疑問が残る。

この目標が世界的な脱炭素化の取り組みに実際の違いをもたらすためには、バイオマス、アンモニア、発電用水素のようなソリューションは、世界のエネルギーシステムの中心ではなく、付随する選択肢であるべきだろう。IRENAとIEAは、2030年までに太陽光発電と風力発電が新しいクリーンエネルギー容量の90%以上を占める必要があると明言している。

再生可能エネルギー目標を最終文書に盛り込む

この協定を最終決定に持ち込むには、200カ国近い参加国すべてのコンセンサスが必要だ。中国とインドは、この目標への支持を表明しているが、今のところ、どちらも全体的な誓約として支持するかどうかを明らかにしていない。

仮にサミットの最終宣言にこの誓約を盛り込むことができたとしても、最初のステップに過ない。課題は、各国政府がそれを追求する意思があるかどうかだ。これまでのCOPを振り返っても、約束の多くが空文化しているのだ。この約束がそのリストに追加されないとも限らない。

この目標が効果を発揮するためには、不遵守に対する罰則と、国際機関による毎年の進捗状況の評価を伴う必要がある。

世界風力会議のジョイス・リー氏は、「各国は、2030年目標に向けた世界的な容量ギャップを埋めるために、障壁の撤廃と再エネプロジェクト建設の進捗状況を国や地域単位で追跡できるような年次報告プロセスを約束すべきだ」と説明する。

スタート地点に過ぎない

再エネ3倍目標は、野心的であり、世界的な脱炭素化への取り組みに急速な勢いを与えることができると期待される。しかしその実現には、国レベルでの野心的な政策と十分な投資が必要となる。IRENAのフランチェスコ・ラ・カメラ(Francesco La Camera)事務局長が指摘するように、2025年に予定されているNDCの更新は、そのための絶好の機会となり得る。

目標達成のための前提条件はすべて揃っている。IEAは、2024年までに世界の太陽光発電生産部門の生産能力が1テラワットを超え、中国がその成長をリードすると予測している。しかし、世界の政策決定者がこれを活用し、目標が現実のものとなるかどうかは、まだ不透明だ。

マーシャル諸島(RMI)気候特使のティナ・ステージ氏は、「これは解決策の半分でしかない。誓約が、化石燃料生産を拡大している国々をグリーンウォッシュするものになってはならない。高い野心連合(High Ambition Coalition)は、新たな再エネの建設は不可欠である一方、それだけでは十分ではないと明言している。COP議長は、化石燃料を段階的に削減する1.5℃目標への道筋を達成しなければならない」と、訴える。

化石燃料を段階的に削減する具体的な誓約を伴わずに、この目標が現在かたちのままにとどまるのであれば、COP28は過去のCOPと同様に、問題の根本解決にアプローチせずに終わることになるだろう。

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