日本の風力発電の利点と将来性
2023年11月27日 – Energy Tracker Asia
最終更新日:2024年11月17日
2024年の日本の風力発電予測
Global Wind Organisation(GWO)と世界風力会議(GWEC)による報告書『Global Wind Workforce Outlook 2022-2026』によれば、世界の洋上および陸上風力発電容量は、2022年の837GWから2026年には1,394GWに急増すると予測されている。
その結果、世界では風力発電産業において、新たに449,800人の風力発電技術者が必要となる。そのうちの約86%は9カ国に集中しており、日本もそのうちの一つだ。
日本には浮体式洋上風力を中心に膨大な風力エネルギーのポテンシャルがあり、石炭、石油、ガス、ウランなどの輸入エネルギーに依存することなく、エネルギーを自給できる可能性を備えている。エネルギーの自給に加え、より安価なエネルギーを確保し、脱炭素化の加速にも繋がる。
日本の陸上・洋上風力の電力容量
GWECとGWOによれば、日本は現在までに、4.5GWの陸上風力発電容量と52MWの洋上風力発電容量を設置している。2026年までに陸上風力を3.5GW、洋上風力発電を1GW近く追加する計画だ。
日本の風力発電のポテンシャル
世界銀行は、日本には地理的条件から、550GWあまりの洋上風力発電の技術的可能性があると推測している。GWECは、水深の浅い海域での着床式風力発電で約128GW、水深の深い海域での浮体式洋上風力発電では424GWの容量の可能性があるとみる。
ゼロ・カーボン・アナリティクスによると、日本の洋上風力発電の技術的可能性は合計で9,000TWh/年以上となり、これは2050年に予測される日本の電力需要の9倍以上にもなる数値だ。
日本で再生可能エネルギー100%のエネルギーを供給するのに必要な量の14倍以上の太陽光と洋上風力の資源があるとする試算もある。日本の排他的経済水域には、現在の電力消費量の50倍の電力を供給できる洋上風力発電のポテンシャルがある。
日本風力発電協会(JWPA)も、日本が持つ計り知れない風力発電の可能性を認めている。現在の発電容量はわずか5GWにとどまるが、2050年までに、陸上風力を40GW、着床式洋上を40GW、浮体式洋上を60GW、合計で140GWまで増やすという野心的な目標を掲げる。この目標が実現すれば、風力発電は日本の電力需要の約3分の1を満たすことになる。
しかし、政府の計画はそれほど野心的ではない。現在は入札を通じて、2030年までに10GW、2040年までに30GWから45GWの追加を促す計画を発表するにとどまっている。
風力発電が日本にもたらす利点
日本の風力エネルギーの計り知れないポテンシャルは、電力コスト、エネルギー自給率、CO2排出量、座礁資産リスクなど、化石燃料技術に関連するあらゆる課題に対する解決策となり得る。
JWPAは、目標が実現した場合、新たな風力発電設備と洋上風力発電所によって、2050年には年間約444億米ドルの経済的利益を生み出し、35万5,000人の雇用創出と、年間約167億米ドルの化石燃料コストの削減が期待できると予測する。
より安いエネルギー
GWECの『Global Wind Report 2023』は、風力エネルギー技術のコストは過去20年間で大幅に削減されたと報告している。風力はすでに、太陽エネルギーと並んで、世界的に最も安価な電力のひとつとなっているのだ。
TransitionZeroの試算によれば、2030年までには、最も複雑で高価な風力技術である浮体式洋上風力発電でさえ、現在最も価格競争力のある石炭火力発電(削減対策がなされていないものを含む)よりも安くなるとみられている。
2030年までには、洋上風力発電の新規建設コストは、新設の原子力発電や炭素回収・貯留が可能な石炭発電よりも低くなると予測される。
エネルギー自給の確保
現在日本はエネルギー需要の約90%を輸入に頼っており、世界最大のLNG輸入国でもある。再生可能エネルギーを優先させることは、日本の輸入依存の問題を緩和するのに役立つ。
専門家の試算では、1GWの洋上風力発電所があれば、同量の発電に必要な天然ガスを8億立方メートルを削減することができる。2022年だけでも、1GWの風力発電所で9億2800万米ドルの輸入天然ガスコストを回避できたことになるのだ。
その上、石炭や天然ガスから風力発電などの再生可能エネルギーへの転換は、数十億ドルが滞留した化石燃料の座礁インフラの問題を解決することにもなるだろう。
脱石炭の加速と信頼回復
クライメート・アクション・トラッカーの分析では、日本は現在の野心的とは言えない温室効果ガス削減目標でさえ、達成の見込みがない。同団体は、すべての国が日本と同様のアプローチをとった場合、温暖化は3℃に達すると警告している。
風力発電を大規模に導入すれば、日本の脱炭素化は大きく前進し、遅々とした気候変動対策への国際的な批判を覆すことができる。2035年までに洋上風力のエネルギーミックス全体に占める割合を18%にするだけでも、日本の電力部門を90%脱炭素化させるための軌道に乗せることができるという試算もある。
日本の洋上風力発電における政府の役割
GWECは、日本には洋上風力プロジェクトの初期展開のために十分な目標と政策があると捉えているようだ。しかし、一部の専門家は日本が風力を大規模にスケールアップするためには、強固な政策とプロジェクトのパイプラインが必要だとする。
改善すべき重点分野には、長期間の環境影響評価(EIA)の簡素化、グリッド接続プロセスの合理化、プロジェクト開発者の参入を容易にするための入札ルールの明確化、遅延のない調達管理の担保、洋上風力産業の支援などが挙げられる。JWPAは、官民間の協力関係の強化が重要だと指摘する。一方GWRは、風力調査、資源測定、送電網接続の効率化を改善するため、集中入札制度への移行を提唱している。
競争力のあるカーボンプライシングシステムの導入も、風力発電投資を促進するための重要なステップだ。日本では現在も、炭素税への非常に強い反対風潮が根強く蔓延しており、税率は世界でも最低水準にとどまっている。
陸上送電網と野心的目標の重要性
一方、IEAは洋上風力発電導入の成功は、陸上送電網の容量開発にかかっていると指摘する。陸上送電網ネットワークのアップグレードや拡張に失敗すれば、日本の洋上風力のポテンシャルのかなりの部分が未使用のままとなる可能性があるというのだ。
しかし、いまや洋上風力発電所の平均建設期間はわずか18ヶ月に短縮されている。コスト低下とともに、日本には風力発電開発を加速させるための前提条件が揃っている。
実際の導入のために最も重要なステップのひとつが、既存の目標よりも野心的な長期目標を策定することだ。
日本政府の2040年までに45GWの洋上風力発電を設置するという目標は、JWPAの目標(2050年までに140GW)をはるかに下回る。JWPAは、2050年までに国の目標を少なくとも100GWに引き上げるよう求めている。
明確なロードマップを策定することにより、海外投資家や現地のサプライチェーン開発に関心を持つ企業の誘致にも繋がる。サプライチェーンの現地化は、日本政府が優先課題としてあげる悲願だ。
※この記事は、Energy Tracker Asia(元記事はこちら2023年11月6日)掲載の記事をEnergy Tracker Japanが許可を得た上で翻訳掲載したものです。