【ヒートドームの発生】気候変動と利益を上げ続ける石油大手
2023年9月4日 – エブリン・スメイル / Climate Impact Tracker Asia
最終更新日:2024年8月2日
世界中の人々、その中でも特に、グローバル・サウスの国々で暮らす人々は、すでに何十年もの間、気候変動がもたらす深刻な影響に直面してきた。
2023年の上半期だけでも、すでに気候変動による致命的な影響がもたらされた。2023年後半にはエルニーニョ現象の発生にともなうさらなる極端な気候災害が懸念される。
致命的な山火事、極端な豪雨、海面上昇、熱波、熱ストレス、暴風雨が世界的に猛威を振るい、家屋、生活、人間の健康、食糧供給にダメージを与えている。
2023年7月は観測史上最も暑い月となり、12万年で最も暑い月であった可能性も指摘される。
このような災害が繰り返され、事態が悪化しているのは、温室効果ガスの排出を抑制できなかった歴史的な失敗の結果だ。
30年にわたって国際的な気候変動会議を続けているにもかかわらず、化石燃料の使用による温室効果ガス排出量は2022年に過去最高を記録した。
『ネイチャー』誌に掲載された研究によると、このまま温暖化が進めば、地球の自然システムを永久に不安定化させてしまう危険があるという。
こうなれば、将来の世代に深刻かつ壊滅的な影響を与えることになる。
気候科学者の第一人者であるキャサリン・ヘイホー教授は、「このまま温室効果ガスを排出し続ければ、適応は不可能。その結果は、前例のないものとなり、あらゆる生物が影響を受ける」と警告する。
ヒートドームの発生
2023年、アジア、北アメリカ、北アフリカ、南ヨーロッパの上空に、4つの 「ヒートドーム」が発生。記録的な猛暑となった。
World Weather Attribution(WWA)の研究で、中国での最近の猛暑は、気候変動によって少なくとも50倍以上も起こりやすくなっていることが明らかとなった。
この猛暑によって、カナダ、ギリシャ、ハワイで山火事が大規模に広がり、野生生物や地域社会に壊滅的な打撃を与えた。
海洋温度も新たな極限に達し、海洋熱波がサンゴ礁や海洋生物に影響を与えている。
致命的な暑さとともに、前例のない大雨と洪水が中国、インド、韓国の大都市を襲った。
世界的な異常気温と気候災害がより深刻になり、頻度も増すなか、復興への取り組みはますます困難となる。世界中で、数十年にわたり数兆ドルを費やして重要なインフラが建設されてきたが、こうしたインフラは現在では過去のものとなった気候にあわせてのものだ。新たなる極端な気候には適応できていない。
特に経済的に貧しい国々は、現在、そして将来にわたり、気候変動の影響に、より脆弱になるだろう。
数十年にわたる気候変動対策の失敗
2022年、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「気候に関する約束違反の数々」が気候変動の炎を燃え上がらせているとして、世界の政治家や企業を痛烈に非難した。
「政府や企業の指導者の中には、あることを言いながら別のことをしている者もいる。簡単に言えば、彼らは嘘をついている。そして、その結果は破滅的なものになるだろう」
また後に、「新たな化石燃料インフラへの投資は、道徳的にも経済的にも狂気の沙汰だ」とも付け加えた。
その翌週、世界最大のエネルギー企業20社が、新しい油田やガス田の開発に、2030年末までにほぼ1兆米ドルを投じるとの予測が報告書で明らかになった。
それに対して、再生可能エネルギー・プロジェクトに割かれているのは、そのごく一部に過ぎない。しかし、その一方で、これらの石油大手が、気候変動対策に積極的であるかのように見せかけるPRには毎年数億ドルを費やしていることはあまり知られていない。
政府もまた、石油大手の活動を助長し、温室効果ガスの排出を増加させた責任の一端を負わなければならない。今年だけでも、バイデン米大統領はアラスカでの「炭素爆弾」ウィロー開発計画を承認し、スナク英首相は埋蔵量を「限界まで使い切る」ため、北海での新規石油・ガス掘削ライセンスを100件承認した。
国際エネルギー機関(IEA)が、「地球温暖化を1.5℃に抑えるためには、石炭、石油、ガスの新規プロジェクトは適合しない」と述べているにもかかわらず。
実証されていない技術に賭ける石油大手と政府
大手石油会社も政府も、炭素回収・貯留(CCS)のような実証されておらず疑問が残る技術を強調し続ける。
理論的には、CCS技術は二酸化炭素を発生源で、あるいは大気中から直接回収・貯蔵することを目的としている。
例えば、アメリカの石油会社オキシデンタル・ペトロリアムは、大気から直接二酸化炭素を回収するプラントに多額の投資を行っているが、二酸化炭素回収のベンチャー事業は高コストで規模拡大が難しいため、大きなコスト負担に直面している。
これには、このような事業は化石燃料の使用を長引かせ、業界の利益を最大化させるだけだと指摘する批評家の声もあがっている。
実際に、今日に至るまで、CCSプロジェクトの大半は期待通りに進まない、あるいは大幅な実績不足に終わっている。
COP28の議長であり、石油業界の重鎮であるスルターン・アフメド・アル・ジャーベル氏もCCSを推進していることが懸念される。最近、アル・ジャーベル氏は、化石燃料を直接使用するのではなく、CCSが役割を果たす「排出量の段階的削減」の必要性を強調した。
これに対し、気候行動ネットワークのTasneem Essop事務局長は 「新たなリスクと脅威をもたらす可能性のある、信頼性が低くて検証されていない技術的処置が、気候危機の解決策であるかのように装うことはできない」と述べた。
緊急の脱炭素化への取り組みへのさらなる打撃として、シェルやBPなどの石油大手が最近、二酸化炭素削減目標を引き下げた。
最大の変化はシェルで、同社は今後、石油とガスにより多くの支出を割く計画すら発表している。
これは、明らかに2015年に各国政府がパリで交わした、温暖化を1.5℃に抑えるという気候協定とは相反する。
石油大手の動きは特に若者からの反発を高めている。化石燃料産業が、気候変動の影響に直面する将来の世代に、不公平な負担を強いていると、多くの若者が訴えている。
2021年には、若者の活動家がシェルを提訴し、同社から譲歩を勝ち取った。また2023年には、石油会社のエクソンモービルとシェブロンが、気候変動の影響を悪化させたとして法廷闘争に持ち込まれている。
地球温暖化の将来的な影響と化石燃料時代の終焉
化石燃料の使用を劇的に削減しなければ、2023年に気候変動がもたらした莫大な影響すら、数十年後に比べ、大したものではなくなってしまう可能性が高い。
現在の世界の気候変動政策を総動員したとしても、80年以内に2.7℃の「破滅的な」温暖化が起こるといわれている。
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)によれば、この場合、世界人口の50~75%が、「生命を脅かす気候条件」の猛暑や湿度にさらされることになる。
気候変動の影響は、無差別に降りかかるが、熱波、食糧不足、海面上昇などのリスクに最も直面するのは、最貧困層、発展途上国、そして次世代だ。
太平洋諸島のような気候変動に脆弱な国々を代表するグループや、法的措置を追求する若者たちの運動が、住みやすい未来を訴えているのは、当然のことなのだ。
今年後半にアラブ首長国連邦で開催されるCOP28は、政府にとっても企業にとっても、気候変動に対する野心的な目標を新たにする機会となる。
気候科学者のフレデリケ・オットー博士は、危機の規模に対応するには、各国政府が今年の会議を利用して、化石燃料の段階的廃止を最終的に法制化することが「絶対に重要」だと述べる。
しかし、化石燃料の利害関係者は、今年の会議でも混乱を招き続け、迅速な解決策が切望される緊急事態をさらに遅らせるかもしれない。