【2023年7月の熱波】気候変動の未来を垣間見た

1537

【2023年7月の熱波】気候変動の未来を垣間見た

2023年7月、世界各国でかつて経験したことのない熱波が発生した。世界のリーダーたちが今すぐ気候変動対策に動かなければ、この記録もすぐに破られることになるだろう。

2023年8月15日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia

最終更新日:2024年9月5日

7月の熱波、猛暑は新たなレベルに

欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスと世界気象機関(WMO)の科学者によると、2023年7月は過去12万年間で最も暑い月となった。ドイツ・ライプチヒ大学のカーステン・ハウシュタイン博士は、産業革命以前の7月の平均気温よりも、1.5℃暑かったと指摘する。

出典: Carbon Brief

アントニオ・グテーレス国連事務総長は「地球温暖化」の時代は終わり、「地球沸騰」の時代が到来したと宣言した

World Weather Attribution(WWA)の調査によると、7月、南ヨーロッパ、アメリカの一部、メキシコ、中国では45℃を超える厳しい熱波が発生している。カリフォルニア州東部では53.3℃に達し、中国は52.2℃という史上最高の気温を記録した。スペイン、イタリア、アルジェリア、チュニジア、フランス、日本、ベトナム、フィリピンなど、世界中で記録が更新されている。

6月も記録を更新したことを考えると、2023年の夏は人類史上最も暑い夏になると予想される。

WWAの科学者は、気候変動によって熱波の期間や頻度も増加していると警告している。中国では、7月のような熱波が、少なくとも50倍以上発生しやすくなっている。アメリカやメキシコでは、15年に一度の頻度で発生する可能性が指摘される。南ヨーロッパと中国では、それぞれ10年に1度、5年に1度という頻度になっているという。さらに、気候変動によって熱波はヨーロッパで2.5℃、北米で2℃、中国で1℃も暑くなったと結論付けられた。

Climate Centralによると、人口の81%にあたる65億人が7月に気候変動に起因する暑さを経験した。

6月から8月の世界の平均気温、出典: CNN

熱波の原因

WWA調査の著者の一人であるフリーデリケ・オットー博士は、この結果は驚くべきものではないという。 

「世界は化石燃料の燃焼を止めておらず、気候は温暖化し続け、熱波はより極端になり続けている。単純なことだ」

同様に、Climate Centralの分析では、石炭、石油、天然ガスを燃やし続ける限り、熱ストレスはより頻繁に、より激しくなると指摘している。

しかし、気候変動の最大の原因である化石燃料業界は、1970年代からそのことを知っていたとされているにもかかわらず、警告を無視し続ける。

2022年、石油・ガス大手5社は、2,000億米ドル近い過去最高益を記録した。その一方で、石油・ガス業界の設備投資の1%から8.6%しか、脱炭素化に向けた投資は行われていない。その代わりに、企業は新たな化石燃料プロジェクトへの投資、配当、自社株買いを優先してきたのだ。

さらに、石油業界には、業界が環境に配慮していると見せかけるグリーンウォッシュをしてきたという歴史がある。今日に至るまで、石油大手はグリーンPRに数億ドルを費やす一方で、排出削減目標を後退させてきた。

DW Graphic, 出典: Influence Map

ブラウン大学環境社会学客員教授のロバート・J・ブリュレ博士は、こうした戦術の問題点を、このように指摘している。

「これらの企業は、自分たちの知識を公開し、この問題(気候変動)に対処しようとするのではなく、科学的に誤った情報を流して世間を惑わし、気候変動を緩和するための行動を阻止するためのロビー活動を行い、莫大な資金をPRキャンペーンに投じ、気候変動を阻止するために行動する必要はないと世間や政府に信じ込ませてきた。こうしたキャンペーンは今日まで続いている」

熱波の経済への影響

未曾有の熱波は物的資産に損害を与え、農業生産に打撃を与えている。医療を圧迫し、企業のエネルギーコストを増大させ、労働生産性を妨げ、経済生産を減少させた。

多くの国で、7月の熱波は8月も続いている。たとえばイランでは、2日間にわたって政府機関や銀行、学校を閉鎖し、休日にすることが決定した。

1990年代以降、気候変動は世界経済に約16兆ドルの損失をもたらしているとされる。そしてこの損失の大部分は、発展途上国や海抜の低い地域が負わされるのだ

米国だけでも、気候変動のツケは年間2兆米ドルを超えると推定される。世界全体では、世界のGDPの4%から18%を占めることになり、アジアが最大の損失を被ることになる。たとえば中国は、気候変動対策を講じなければ、経済生産の最大24%を失う可能性がある。

オックスフォード・エコノミクスは、2050年までに2.2℃の温暖化が起こった場合、世界のGDPを最大20%減少させる可能性があるとしており、デロイトは、気候変動によるコストは2070年までに178兆米ドルに達すると予測する。

熱波によって失われる労働可能時間(地域別) 出典: IFRC

環境と社会への影響

WHOによると、強い熱ストレスは、重度の脱水症状、急性脳血管障害、熱中症、疾病の発生、死亡を引き起こす可能性がある。さらに、気温の上昇は、メンタルヘルス関連の罹患率や死亡率を著しく増加させている。

推計では、2022年にヨーロッパで発生した熱波は、6万1,000人以上の命を奪った。2023年には、アメリカ、イタリア、日本、メキシコなどの国々で、気温の急上昇による入院死亡率の急上昇が報告されている。

WWAのフリーデリケ・オットー博士によれば、早急な対策を講じなければ、毎年何万人もの人々が暑さが原因で死亡し続けることになるという。

また、バングラデシュで見られたように、熱波によって移民が増えることも考えられる。

さらに、熱波の影響は他の生態系にも及ぶコペルニクス気候変動サービスの調査によると、6月の世界の海洋表面温度は、その時期としては前例のないレベルに達した。

南極大陸の海氷レベルは史上最低となり、昨年の記録を塗り替えました。科学者たちは、氷床が「記録的なペース」で溶けているグリーンランドでも、同様の現象を観測している。

さらに7月に発表された研究は、気候危機によって、海流の重要なシステムが早ければ2025年にも崩壊し、地球の気候システムに壊滅的な影響を及ぼす可能性があると警告する。

6月の海洋表面温度の異常値  出典: Copernicus

最悪の状況を避けるために

科学者たちは、パリ協定に署名したすべての国が、排出量を急速に削減するという現在の誓約を完全に実行しない限り、気温上昇は30年前後で2℃に達すると警鐘を鳴らす。その結果、現在の熱波のような現象が2年から5年ごとに起こるようになるというのだ。

しかし、フリーデリケ・オットー博士によれば、安全で住みやすい未来を守るために、まだ時間はわずかながら残されている。残り時間を有効に使うために、世界は化石燃料の燃焼を止め、最も脆弱で影響を受けやすい地域が、気候災害への備えを改善できるように支援する必要がある。

化石燃料を過去のものに

世界の政府や企業の意思決定者が、最優先すべきことは、化石燃料業界のロビーイングの圧力に屈せず、今年のCOP28の会議で、最終的に化石燃料の段階的廃止を決定することだろう。

世界の排出量の80%を占めるG20諸国が主導権を握る必要がある。

OECD諸国は2030年までに、それ以外の国々は遅くとも2040年までに、石炭から撤退する計画を提示することが求められる。

国際エネルギー機関(IEA)の勧告によれば、2050年までにネットゼロを達成するためには、新たな化石燃料インフラを建設するべきではない。つまり、各国政府は新たな発電容量の計画を中止し、金融機関は石炭、石油、ガスプロジェクトに資金を提供しないようにすべきということだ。

再生可能エネルギーの拡大

前国連気候変動担当事務総長であるクリスティアナ・フィゲレス氏によれば、世界の電力の3分の1は太陽光と風力だけで生産できる。しかし、的を絞った国の政策がなければ、その転換は不可能となってしまう。転換が叶わなければ、「私たちはみな干上がり、焼け焦げる」と氏は表現した。

太陽光、風力、その他のゼロエミッション燃料にのみ焦点を当てることが重要だ。アンモニア混焼やグリーン水素以外の水素、低排出技術は、国のエネルギー政策の焦点にあげられるべきではない。

再生可能エネルギーへの投資はすでに急増しているものの、そのペースを上げることが必要なのだ。そのための最も効率的な手段は、民間のグリーン資本提供者をより歓迎する国の政策を実現することだ。クリーンエネルギーのための資金ニーズは、規制改革や、さまざまなインセンティブ、革新的な投資メカニズムを設けることによって、十分に対処することができる。

適応と緩和への投資

多国間開発銀行、政府、市民社会、企業は、気候変動がもたらす影響に、最も脆弱な人々が守られるよう、一丸となって取り組む必要がある。

気候危機の最前線にいる国々は、十分な資金を受け取るべきだが、今のところ、口約束に終わっている

災害への備えと復旧の両方に投資が必要となる。例えば国連は、2027年までに地球上のすべての人を早期警報システムでカバーすることを提案している。地域ごとの熱ストレス適応計画の策定も重要だ。その他に必要な対策としては、気候難民を適切に受け入れられるよう都市を変革すること、公衆衛生システムを改善すること、清潔な飲料水を十分に供給すること、都市部に緑地を増やすこと、洪水調整機能のある施設を設置することなどが挙げられる。

損失と損害に必要な資金源としては、カーボンプライシングの仕組みや石油・ガス会社に対する超過利潤税などが有効だろう。

7月の熱波をニューノーマルにしないために

これまで、世界のリーダーたちは、気候危機の警告のサインを無視してきた。1.5℃の目標を維持するためには、温室効果ガスの排出量が2025年までに減少傾向に転じ、2030年までに43%削減しなければならない。科学者によれば、化石燃料の燃焼をすぐに止めなければ、今目の当たりにしている夏は、将来的には「涼しい」とみなされるようになる

現在の政府の政策のままでは、今世紀末には平均気温は産業革命前より2.8℃上昇してしまうIPCCは、もしそうなれば、生態系は破壊され、連鎖的かつ相互作用的な災害が起きるとする。

解決策はシンプルだ。問題は世界のリーダーたちが、それを選択できるかどうかに懸かる。アフリカ気候サミット、G20サミット、国連気候野心サミット、COP28は、いずれも化石燃料の終焉を宣言する機会となり得る。未来は世界のリーダーたちの手の中にある。

関連記事

すべて表示
日本が洋上風力発電を推進するべき理由
2022年のアジアのLNG需要の減少が産業成長の課題を浮き彫りにする
日本企業は自ら掲げた脱炭素目標を守っているか
【COP28】 ファイナンス・デー、気候基金へ125億ドルの誓約を獲得

読まれている記事

すべて表示
						
2022年のアジアのLNG需要の減少が産業成長の課題を浮き彫りにする
世界のLNG見通し、バングラデシュの先行きは厳しい
LNG価格の高騰で輸出企業が市場に参入する中、アジアのバイヤーは出口を探す可能性がある
今はアジアにLNG輸入基地を増設すべき時ではない