日本で2050年カーボンニュートラルは実現するのか

1181

日本で2050年カーボンニュートラルは実現するのか

GreenOak / Shutterstock.com

日本は、化石燃料に固執し続けていることに対して世界の批判を受ける。2050年に掲げるカーボンニュートラルの目標は達成可能なのか。

2023年7月12日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia

最終更新日:2024年9月5日

日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成目標を掲げる。しかし、これまでの経過や脱炭素戦略を考慮すると、この目標は非現実的なものに見える。目標達成ができなかったなら、それは大きな問題だ。しかし、それ以上に問題となるのは、日本が自国や気候変動の影響を受けやすい国々での化石燃料プロジェクトを支援し、気候変動による危機を積極的に拡大させてきたという事実だ。

日本は気候危機を拡大させている

日本は、世界第5位のCO2排出国だ。最も革新的な国の一つとして、気候への影響を抑える方法を模索するのは当然の責任のはずだが、現実はそうではない。

化石燃料を延命する選択肢を探る

この1年、日本は化石燃料の使用延長を図るために、いくつかの手順を踏んできた。

国をあげ、「クリーン石炭」テクノロジーの構想を発信に勤しんでいる。これは、一言でいえば、石炭とアンモニアの混焼を目指すものだ。しかし、混焼計画ではブルーアンモニアを使用することになり、排出量削減にはつながらない。しかし、政府は2030年までにアンモニアと石炭の混焼率を50%以上とする目標を打ち立てている。

次の手立ては水素だ。水素をベースとした先進的な経済圏を目指し、突き進む。しかし、その大半でブルー水素を使用することを予定している。専門家によると、水素は全体として未開拓の技術であり、グリーン水素の実現性にも疑問が残される。

水素やその他の実証されないの技術に重点を置くことで、太陽光や風力といった、よりクリーンで実績のあるエネルギー源への投資から焦点をずらしている。また、化石燃料がエネルギーミックスで果たす役割は大きい(総発電量の88%)。

この戦略では、日本は今後も主要な排出国であり続けるだろう。このような動きは、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標から日本をさらに遠ざける。

国内外の化石燃料プロジェクトへの資金提供

日本がG7で海外への石炭融資の廃止に合意するまでには、多くの説得が必要だった。しかし、Fossil Free Japanによれば、日本はその後もバングラデシュやインドネシアなど海外の石炭プロジェクトに融資を続け世界最大の化石燃料の公的融資国であり続けている。

単位:10億米ドル、出典:Fossil Free Japan

日本が海外の石炭支援とつながっていることは、企業レベルで見ても明らかだ。日本の民間金融機関や年金積立金管理運用独立行政法人は、歴史的に石炭産業の最大の融資者となってきた。現在でも、日本の銀行は海外の石炭プロジェクトに資金を提供し続けている。

2022年のG7会議後、日本はようやく他のグループと一丸となって石炭の段階的削減に合意した。しかし、文言が不明確で、期日も決まっていないため、コミットメントには緊急性が感じられない。国内では、現在も167基の石炭発電所が稼働しており、4基が建設中、3基が停止中となっている。合計で7つのプロジェクトが中止または廃止された。

そして、日本の海外石炭への公的支援が終わりつつある今、その戦略はLNGへと向かう。2022年には世界最大のLNG輸入国となった。また、LNGの上流プロジェクトへの投資を強化する計画も存在する。日本企業はこのようなプロジェクトにおいて、依然として主要な海外投資家となっている。

日本が抱えるリスク

日本の脱炭素戦略は、日本にとって、そしてアジア地域にとっての、さまざまなリスクをはらむ。

日本が2050年までにカーボンニュートラルを実現できないリスク

科学者によると、パリ協定の目標を達成するためには、OECD諸国は2030年までに石炭を廃止する必要がある。  

しかし、日本の2030年エネルギーミックス案では、石炭の占める割合は19%と高い水準だ。LNGは20%を占める。

日本の2030年エネルギーミックス案
出典:SPグローバル

Climate Action Trackerによると、日本の脱炭素化の進捗と戦略は不十分だという。現在の計画では、28~33%の排出量削減レベルにとどまる見込みとなる。これは2030年までに46%という目標を大きく下回り、野心的とはいえない。その結果、日本が2050年までにカーボンニュートラルを達成するのは難しいだろう。

国際的な批評と世論による精査

日本の脱炭素戦略は、世論の信用を失いつつある。 

この1年、官民の金融機関が化石燃料を支援しているとして批判にさらされている。世論や投資家からの圧力を受け、各機関はいくつかのプロジェクトから撤退した。

また、ロシア産の化石燃料への依存を解消することにも苦戦している。年間を通じてロシアからの輸入が上位を占めた。そしてこの傾向は現在も続く。報道によると、日本企業は2022年、ロシアの国家予算へ大きく貢献している国の一つとなった。

また、日本の移行債プログラムは、移行債のグリーンウォッシングの懸念を表面化さた。世論は、日本の脱炭素戦略にグリーンウォッシングの兆候と不誠実さを感じ取っている。

市民団体は、日本に対し、化石燃料や誤った解決策を支持することをやめ、再生可能エネルギーを優先するよう求めている。日本のテクノロジー企業についても、脱炭素化が進んでいないことが露呈している。

未来のエネルギー依存と電力コストの高騰が現実に

それでも日本が化石燃料と水素やアンモニアなどの代替電源ソリューションに依存し続けるなら? 2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標から遠ざかることはもちろん、エネルギー依存の問題が深刻化する。

現在日本は、石炭需要のほぼ100%を、インドネシアとオーストラリアからの輸入で賄う。全体として、日本は、エネルギー需要の96%を輸入に頼る。その結果、G20の中でも上位の化石燃料支持国であり続けている。

また、混焼プロジェクトのために、大量のアンモニアを輸入する計画を立てている。国内生産では水素計画を実行することもできない。政府は2050年までに総需要の最大8割を輸入で賄う計画を立てている。

日本のエネルギー自給率はわずか13.7%で、アジアで最も低い水準にある。さらに、国内の一次エネルギー生産量と消費量の比率は11.2%(EUは60.7%)となっている。 

このような輸入への依存の結果、日本の電力コストは2022年に過去最高を記録している。日本のすべての電力会社は9月、燃料費の上昇を転嫁するため、年間上限まで値上げを行った。政府は補助金によって事態を収拾しようとしたが、その効果は一時的なものだ。

気候変動リスク

日本は気候変動リスクが最も高い国として、常に上位に位置する。

この1年間、東京では1875年の記録開始以来、35°Cを超えた連続日数が最長となった。このような高気温は、高齢化が進む日本にとって、熱中症のリスクを高める。また、食糧安全保障を脅かし、国内の珊瑚礁は破壊されている。

しかし、気温の上昇は問題の一部に過ぎない。

島国である日本は、特に海面上昇の影響を受けやすい。環境省は2012年、60cmの上昇によって、日本の4大都市がある3大湾岸地域において、海抜以下で生活する人口が最大で50%増加すると試算している。

実は、日本は大気汚染にも悩まされている。大気汚染に直接関連する死亡者数は増加の一途をたどっているのだ。 

日本は模範としてリーダーシップを発揮すべき

日本は、世界で最も裕福な国の一つであり、気候変動危機の最も大きな要因となっている国の一つでもある。つまり、明確な責任があるということだ。国として、化石燃料への支援をやめ、各国がクリーンエネルギーに移行するのを支援すべきなのだ。

今年のG7開催国である日本は、エネルギー危機から世界を導き、気候変動に効果的に対処するための火付け役として注目されている。これが上手くいけば、経済を保護し、グリーン成長への道を歩むことができる。日本のクリーンエネルギーの大きなポテンシャルを考えれば、この機会を逃す手はない。日本の立場としても、これを逃すわけにはいかない。

※この記事は、2023年2月19日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

関連記事

すべて表示
【COP28注目の6つの論点】気候変動に強い社会へ
【アンモニアの罠】回避不可能な投資リスク
期待のブルーグリーンアンモニアの実態は「悪あがき」
日本の風力発電の利点と将来性

読まれている記事

すべて表示
						
LNG価格の高騰で輸出企業が市場に参入する中、アジアのバイヤーは出口を探す可能性がある
今はアジアにLNG輸入基地を増設すべき時ではない
アジアにおけるLNGの経済的意義は崩れつつある
世界的なエネルギー危機でフィリピンでのLNG計画に支障か