日本がエネルギー分野で世界にリードをとるには?
2023年7月11日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia
最終更新日:2024年9月5日
日本のエネルギー転換の進展は、アジア地域、そして世界全体にとって重要となる。IPCCは二酸化炭素(CO2)排出量の急速かつ大幅な削減の必要性を警告した。それを受けて、世界第5位の温室効果ガス排出国として、対策を講じる必要がある。幸い、日本にはエネルギー転換を進めるための手段や能力がすべて揃っているのだ。
日本のエネルギー転換を加速させる必要性
日本のエネルギーシステムを再構築することは、日本が抱える3つの重要な問題を解決する上で不可欠となる。これには、炭素原単位の低減、エネルギー依存の解消、電力料金の競争力強化が含まれる。
これまでのところ、政府の行動と選択は、いずれも上記の問題解決に向けた大きな突破口にはなっていない。
例えば、水素への固執だ。まず、水素は他の温室効果ガスの影響を悪化させるものであり、従来考えられていたよりも「2倍強力な温室効果ガス」であるとの研究報告がある。次に、国内での水素製造では不十分だという点だ。2050年には、日本は総需要の最大80%を輸入で賄うことになる。今のところ、グリーン水素は高価で、ほとんど検証されておらず、商業化には多くの課題が残される。
その一方で、日本は石炭に見切りをつけることを躊躇し、石炭、石油、ガスに公的資金を投入し続けている。そのため、このままでは将来も高排出国家であり続けるだろう。エネルギー輸入への依存度も極めて高くなり、エネルギー価格の急騰は繰り返されることになる。
日本がこれまでに達成したこと
しかし、日本の取り組みは悲観的なものばかりではない。国としての歩みが停滞している一方で、政府は国の軌道修正に向けた有意義な措置も講じている。
例として、資源を最大限に活用するための取り組みを行っていることが挙げらる。その結果、日本は現在、湖上太陽光発電の先進国となり、プラントの建設が進んでいる。
2021年11月のエネルギー需給報告で、燃料の供給量が7年連続で減少していることが明らかになった。一方で、再生可能エネルギーは8年連続で増加し続けている。2012年から2019年にかけて、日本の再生可能エネルギー発電量は70%増加した。太陽光発電は、固定価格買取(FIT)制度に促され、成長のほぼ90%を占める。
Wood Mackenzieは、日本が2030年までに電力需要の30%を再生可能エネルギーで賄うようになると予想する。これは、日本が現在目標としている22~24%を大きく上回っている。
日本の電力セクターは総排出量の37%を占めるが、エネルギー関連のCO2排出量は継続的に減少している。現時点で、2013年と比較して21.7%減少した。2013年以降、G7諸国の中でイギリスとドイツに次ぐ3番目の減少幅を記録していることはあまり語られていない。
日本政府は、科学的根拠に基づく目標やRE100など、脱炭素化を目指す主要なビジネスイニシアチブに署名する企業を支援することに注力している数少ない例のひとつだ。
さらに、国際的協力のもと、気候変動対策を促進する技術や政策を推進することにも積極的といえる。その中には、EU、米国、アジア各国も含まれている。
再生可能エネルギーが日本のエネルギー転換を可能にする
日本には、クリーンエネルギーの大きなポテンシャルがある。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の調べでは、日本は世界で3番目に地熱エネルギーのポテンシャルが高いことがわかった。また、日本の地理的条件は、大規模な洋上風力発電の展開に最適な条件を備えている。
研究によると、太陽光発電は4,000GW以上、洋上風力発電は2,000GW以上のポテンシャルがあるとされる。両者を合わせると、年間13,000TWh以上、現在の14倍もの発電量となる。
このポテンシャルを活用することで、日本のエネルギー自給率が向上し、エネルギーコストの大幅な削減が期待できる。TransitionZero は、太陽光発電の発電量あたりのコスト(LCOE)は、先進的な石炭技術とグリーンアンモニア混焼による発電エネルギーの平均LCOE(200米ドル/MWh)の半分程度であると推定される。
研究によると、太陽電池を主体としたシステムの場合、LCOEはさらに低くなり、1MWhあたり86米ドルになることがわかっている。これは、日本のスポット市場における2020年平均のシステム価格である102米ドル/MWhよりも大幅に安い。
さらに、自然エネルギー財団によれば、供給安定性を犠牲にすることなく、再生可能エネルギーによる100%電力供給を実現することは技術的に可能であるという。
なぜ今、日本は行動を起こすべきなのか
日本には、エネルギー転換を改善するための手段がすべて揃っている。
脱炭素を追求することは、日本が抱えるエネルギーシステム固有の問題の多くを解決に導く。最も顕著に効果が現れると考えられるのは、輸入志向、エネルギーコスト、化石燃料による影響だ。
マッキンゼーによると、日本のネットゼロ達成は決して手の届かないものではない。しかし、国として思い切った対策を講じる必要は避けられない。
その中には、2050年までに太陽光と風力発電の容量を3倍の275GWに増やすこと、2030年までに稼働しつづけている石炭火力発電所を停止すること、工業、輸送、建設セクターを大きく変革することが含まれる。
もちろん、すべての緩和戦略を大規模に展開することも重要だ。これらの取り組みは、経済や重工業の政策や構造改革によって支えなければならない。
そうなれば、よりレジリエントで持続可能な自給型エネルギーシステムへの速やかな移行が可能になる。そればかりではない。日本の変化は全世界に恩恵をもたらすだろう。
※この記事は、2022年5月9日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら)