日本企業は自ら掲げた脱炭素目標を守っているか

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日本企業は自ら掲げた脱炭素目標を守っているか

日経225社の40%近くが掲げるネットゼロ公約。そして、主要企業の30%近くが表明する再エネ投資の強化。脱炭素の目標は実際に守られているのか。

2023年7月10日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia

最終更新日:2024年9月5日

日本企業の気候変動やサステナビリティに関連する公約は、政府方針を色濃く反映している。書類上ではそれらは一見野心的に見える。しかし、現実にはミクロレベルでも、産業レベルでも、やるべきことが行われているとはいえない。

日本企業は、政府が進める脱炭素化の原動力だ。だからこそ、日本企業は全世界に影響を与え得る。日本政府の気候変動に対する方針は野心的なように見え、現実には具体的な結果は得られていない。世界でも有数の炭素集約型経済を変えるには、すでに結果が出ているべきタイミングが来ている。日本の最大手企業は、そろそろ公約やCSRの陰に隠れることが難しくなるだろう。実際に変化していることを示す数字が必要とされるフェーズがやって来た。

日本企業のカーボンフットプリント

日本は、世界第5位の温室効果ガス排出国です。エネルギー転換、産業、輸送などのセクターが、CO2排出量の大半を占める。

出典:Statista

例えば、日本の電力、熱セクターは、世界のCO2排出量の1.18%を占めている。運輸セクターが0.43%、製造セクターが0.4%だ。

具体的には、2019年の日本の技術セクターは、2020年のニュージーランド全土で消費された電力よりも多くの電力を消費している。日本の電力の75%が化石燃料で賄われていることを考えると、これは非常にまずい事態だろう。

本のセクター別温室効果ガス排出量(2018年)
出典: OurWorldInData

日本企業の気候変動へのコミットメント

近年、日本の最大手企業の多くが、国のネットゼロ方針に沿った気候政策や目標を発表している。現在、日経225社の40%近くがネットゼロ公約を掲げている。さらに、日本の主要企業の30%近くは、収益や利益とともにグリーン投資を強化する計画を表明している。

三菱重工業は、2040年までにネットゼロオペレーションとネットゼロバリューチェーンの実現を目指す。住友商事は、2035年までに2019年比で60%の排出量削減を約束し、2040年代後半にはすべての石炭火力発電を停止する公約を掲げている。みずほフィナンシャルグループは、2050年までにカーボンニュートラルを目指している。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2050年までに金融資産比率において、2030年までに自社事業において、ネットゼロエミッションを目指す。また、三井住友フィナンシャルグループでは、2030年までにネットゼロを目指すとしている。

加えて、みずほ、三井住友、三菱UFJといった大手金融機関は、石炭火力発電所への融資を停止すると宣言している。そして、サステナビリティや気候変動に対する積極的な支援の開始も表明済みだ。

日立は、2030年までにすべての事業サイトでカーボンニュートラルを達成することを目標としている。また、2050年までにバリューチェーン全体でCO2排出量を100%削減することを目指している。東芝は、2030年までにバリューチェーン全体で排出量を50%削減する公約を掲げている。ソニーグループは、米国では2030年、グローバルでは2040年までに再生可能エネルギー100%への移行を計画する。実際に、欧州と中国ではすでにこれを実現している。しかし、グループ全体の排出量の8割は国内事業が占めているため最難関は日本での計画実行になるだろう。ヤフージャパン楽天は、それぞれ2023年、2025年までに再生可能エネルギー100%を公約に掲げている。

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、再生可能エネルギーの目標をより野心的に引き上げるよう政府に要請している。また、JCLPは、石炭火力発電所の段階的廃止、新規建設中止、カーボンプライシングの導入などを政府に要請した。

日本の最大手企業の気候変動へのコミットメントの裏側

現状はどうだろう。多くの日本企業が自ら掲げた公約に真っ向から反している。

三井住友銀行三井住友信託銀行などの銀行は、JCLPの一員であると同時に、石炭産業への最大の融資者でもある。日本の最大手投資機関が未だ石炭に関心を示しているために、日本は最も石炭に投資する投資家ランキングと金融機関ランキングで、それぞれ2位と3位に位置している。 

三菱重工業は最近、広野町で石炭ガス化一貫プラント、インドネシアのジャワ島で500MWの天然ガス火力発電システムの建設を完了させた。また、子会社の三菱電機は、インドネシアで500MWの天然ガスタービンの商業運転を開始した。その他、三井物産丸紅伊藤忠商事J-POWERなども化石燃料のプロジェクトを支援している。

住友商事は、CO2排出量を2035年までに60%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを目指しているにもかかわらず、EPC請負業者の一つとして、バングラデシュのマタバリ石炭発電所プロジェクトに参画している。しかし、大きな世論の圧力に押され、同社はプロジェクトから撤退した。

日本のテクノロジー産業も気候変動対策へのコミットメントを失速させている。キヤノンは、2050年までにCO2排出量ネットゼロを達成することを約束しているにもかかわらず、同社シンクタンクのキヤノングローバル戦略研究所(CIGS)が、気候変動の否定論を広め、気候科学への疑念を植え付ける誤った情報を流し、化石燃料を推進していることが明らかになった。  

グリーンピースの報告書Race to Greenによると、東芝キヤノンなどの企業は、いまだに再生可能エネルギーについて目標値を掲げていない。しかし、ソニーパナソニックなど、再エネ100%を掲げる企業にしも、その目標達成時期は、2040年から2050年という遠い未来に設定されている。

さらに、カーボンニュートラルの目標を政府に報告することが義務付けられているはずの、エネルギー消費量の多い日本企業の8割以上が、いまだカーボンフリー化のロードマップを策定していない。

出典:Nippon

日本企業が世界に遅れを取る理由がここに

日本が2021年までに国際的な石炭融資を廃止するという公約を反故にしたことを考えると、営利企業セクターに模範的な態度を求めることが非現実的なのかもしれない。官民セクターは、日本の温室効果ガス排出量の80%(世界第5位)を占めている。実際には早急な対策が必要なはず。政府と企業は一丸となって気候変動対策に注力すべきだろう。そうでなければ、世界のコンセンサスであるネットゼロの足を引っ張る気候変動対策後進国の称号を消すことはできない。

※この記事は、2022年5月16日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

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