日本の水素戦略はカーボンニュートラルへの遠回り
2023年7月5日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年9月5日
日本が先進国であるなら、世界のクリーンエネルギーへの移行をリードすべきだろう。しかし、国内のエネルギー市場の進展には不安要素が多い。日本に必要なのは、持続可能性に沿ったビジョンと施策であるはずだ。
世界では、再エネと二酸化炭素排出量の目標値の底上げにいとまがない。一方、日本はネットゼロに向けて水素に賭けている。日本の水素戦略は長く、困難で、コストがかかるものだ。時間との戦いの中にいながら、この戦略は理想的といえるだろうか。
遅々として進まない日本の脱炭素化
日本は世界第3位の経済大国であり、最も革新的な国の一つだと認識されているかもしれない。しかし、BloombergNEFのGlobal Climatescopeでは、日本は電力市場のファンダメンタルズ、クリーンエネルギーへの移行の機会や経験の観点から、50位にランクされている。アジア太平洋地域全体では、9位だ。
2020年現在、日本の再生可能エネルギーによる発電量は、欧州などの地域と比較して低い。エネルギーと気候の研究機関である環境エネルギー政策研究所によると、日本は電力の20%をクリーンエネルギーで賄っているに過ぎない。一方、欧州はすでに38%に達している。日本が欧州の水準に到達するのは、かなり先のことだと考えられている。
化石燃料への依存
大きな要因は、日本ではまだまだ化石燃料が欠かせないということだ。2019年には、日本の一次エネルギー供給の88%を占めた。割合としては世界第6位だった。さらに、エネルギー需要を満たすために96%以上を輸入に頼っている。結果として、日本は世界的に見ても最も炭素集約度の高い国の一つとなっている。
大きな問題の一つは、日本が頑なに石炭や液化天然ガス(LNG)フリートを拡大し続けていることだ。化石燃料の段階的な廃止は、日本にとって最優先課題ではないように見える。COP26で日本は、世界的な石炭使用廃止の公約に署名せず、国際的な環境グループや活動家の反感を買っている。さらに、COP26の圧力や気候変動協議の後も、石油・ガスを支持し続けてもいる。
水素戦略は化石燃料から脱却するためなのか
日本は、化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えるのではなく、水素技術に着目する。実際、日本は世界で初めて水素経済圏を目指した。すでに何年も前から水素に注力していたのだ。大規模な水素供給インフラを検討し、水素プロジェクトの数も増えている。川崎重工業は、世界初の液化水素を発表した。
日本の水素基本戦略
2017年、日本政府は水素基本戦略を発表。世界に先駆けて国家的な水素の枠組みを採用している。一連の法整備と計画により、2030年までに300万トン、2050年までに2000万トンの水素経済と水素生産を拡大する目標を掲げた。
しかし、ワシントン・ポスト紙が報じたように、水素やその他の未検証の技術に重点を置くことは、クリーンで再生可能なエネルギーへの投資から焦点を逸らすことになる可能性がある。そうなれば、グリーン成長戦略を実行することは困難だ。
ブルー水素への注目度が高まる
再エネから製造されるグリーン水素は、ネットゼロの移行に果たすべき役割があるが、日本の水素は主にブルー水素として製造される。ブルー水素の問題は、天然ガス生産の副産物であり、化石燃料と密接に関係していることだ。
グリーン水素はブルー水素より高価なのか。その答えは「Yes」だ。現在、ブルー水素はグリーン水素よりも安価に製造することができる。しかし、ネットゼロへの移行を急ぐ日本にとって、ブルー水素は二酸化炭素排出量の大幅な削減や輸入エネルギーへの依存の解消にはあまり貢献しない。
日本は明らかな戦略の欠陥に気がついていないかのように見える。2021年、日本はオーストラリアと共同で、褐炭を水素に変えるプロジェクトを開始した。「グレー水素」と呼ばれる最も汚染度の高い水素のプロジェクトだ。オーストラリアで水素を製造した後、炭素を回収せずに日本へ輸送する。両国とも、現場で発生する二酸化炭素を回収することを示唆していたが、詳細については軽く触れるにとどまった。
また、こうしたプロジェクトは、今後何年にもわたって日本の石炭との結びつきを強めることになるだろう。石炭プロジェクトにともなう炭素回収技術のような経済的合理性に欠ける技術への注力には大きなリスクがある。
しかし、最も重要なのは、再エネからさらに距離を置くことになってしまうということだ。水素戦略は明らかに迂回的道筋を描いている。
ブルー水素は気候変動対策にならない
これまで日本は、アジア各国に対して数十億ドルの支援を約束し、クリーンエネルギーのインフラ整備を支援してきた。しかし、不思議なことに、化石燃料からの脱却は遅れ続けている。
最近、経済産業省の武本登課長補佐は、ロイターに対し、日本が世界的な石炭の段階的廃止の取り組みを支持しなかったのは、「日本が海に囲まれており」、「単一の完全なエネルギー源」を欠いていたからだと述べた。しかし、分析によると、日本には多様な再エネミックスの大きなポテンシャルがあることがわかっている。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の調べでは、世界で3番目に地熱エネルギーのポテンシャルが高いことがわかった。また、日本の地形には洋上風力発電が適している。
それにもかかわらず、再エネに対する日本の躊躇には、日本の「親石炭」企業が絡んでいるとする見方がある。動機はともかく、ネットゼロエコノミーに向けた取り組みを開始することは不可欠だ。これは世界にとっても、経済的にも重要であり、世界各国への意思表示として、気候変動に配慮した政策が必ず求められる。
30年以内に炭素排出量世界第6位からネットゼロにするためには、早急な対策が必要だ。もはや燃料の延命をしている場合ではないはずで、再エネの確実な機会を受け入れるべきなのだ。
※この記事は、2022年1月11日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら)