アンモニア、ブルー水素の投資リスク解説
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2023年7月3日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia
最終更新日:2024年9月7日
ブルー水素、アンモニアプロジェクトへの資金調達に移行債を使用するリスクとは。
アジアの有力企業は、ブルー水素とアンモニアに視線を向ける。しかし、科学者や専門家は、これらの技術の脱炭素を評価せず、十分な財政的根拠がないと声を揃える。再生可能エネルギーと比較すると、コストが高く、リスクが大きく、また汚染度も高い。投資家は移行債発行者の資本の使い道について、これまで以上に警戒する必要がある。
ブルー水素、アンモニア【日本企業の焦点】
マーケットフォースの最新分析によると、三菱商事、JERA、三菱重工業(MHI)、住友商事、三井物産などの企業が、ブルー水素・アンモニアに焦点を当てていることが明らかになった。さらに、投資家から資金を集め、プロジェクトに融資するために、移行債を利用している。
三菱商事
三菱商事は、米国で年産100万トンのブルーアンモニア設備の開発に取り組む。同社は、シェル社とともにカナダでブルー水素を製造する計画を掲げる。また、三菱商事は、インドネシアにおけるブルーアンモニア製造の実証調査に、他のパートナー企業とともに参画している。
三菱重工は、100億円の移行債プログラムを立ち上げ、その一部をブルー水素製造に充当するとしている。また、インドネシアやシンガポール近郊のジュロン島でもアンモニア発電を計画している。
JERA
JERAも、アンモニアと水素の混焼プロジェクトへの資金調達として移行債を発行する。報告によると、JERAはインドネシアでも水素とアンモニアの混焼を推進している。
住友商事
住友商事は、オーストラリア産の石炭から、グレー水素よりも汚染度が50%高いブラック水素を製造するパイロットプロジェクトに参画している。また、英国やオマーンでブルー水素の実証調査を実施している。
三井物産は、米メキシコ湾に年産100万トンのブルーアンモニアプラントを建設するプロジェクトに参画する。
このような取り組みは、水素国家戦略に基づく。現在日本は、世界第5位の炭素排出国であり、化石燃料産業向け開発融資の主要な供給国となっている。
ブルー水素とアンモニアは姿を変えた化石燃料
Market Forcesによれば、ブルー水素を扱う企業は、その活動により、気候変動対策へのコミットメントを一挙に損なっているという。
これは、日本の水素、アンモニア計画の拡大を「グリーンウォッシング」と評していたエネルギー専門家が、以前から指摘していたことと重なる。ブルー水素、アンモニアは、潜在的に、石炭やガスを延命するものだからだ。ブルー水素・アンモニアを製造する際に二酸化炭素が排出されるため、化石燃料を燃焼させる場合と比較しても、気候変動対策の恩恵を完全に打ち消しているという。
暖房に使う場合、ブルー水素は天然ガスよりも温室効果ガスの排出量が20%多いという研究結果もある。
ブルー水素の製造には、大量の二酸化炭素の排出がともなう。
石油会社やガス会社は、二酸化炭素回収・貯蔵(CCS)を使って対処することを提案している。しかし、この技術の実績には疑問が残されている。
例えば、三菱商事が関わっているシェル社の既存のブルー水素施設は、回収するよりも多くのCO2を排出している。さらに、政府から7億2,000万カナダドルの補助金を受け取っているにもかかわらず、稼働から6年近く経っても黒字化されていない。
投資家が注意すべき移行債
推進派は一貫して、ブルー水素技術の費用対効果や気候変動対策としての信頼性を強調してきた。
しかし、Market Forcesの報告書が指摘するように、エネルギー産業によるこのような汚染度の高いプロジェクトに対し、三菱重工やJERAのケースのように、移行債で資金調達される場合、大きな問題となる。
JERAの移行債プログラムは、すでに気候債券イニシアチブからの批判の対象になっている。気候債券イニシアチブは、このプログラムはネットゼロの目標に沿ったものではないとする。
さらに、Market Forcesが指摘するように、日本の経済産業省が独立保証業者とともに行う評価では、JERAと三菱重工が提案する資金使途の技術的実現可能性や関連する財務リスクは対象に含まれない。
両社とも、収益金の使途による排出量を報告する必要すらないのだ。結果として、投資家は融資を受けた排出量について情報を得られない状態となる。
Market Forcesは上記の企業の投資家に対し、ブルー水素、アンモニアに基づく技術の使用に反対する声を上げて、リスク管理を行う必要性について警告している。
ブルー水素、アンモニアは再生可能エネルギーに勝てない
環境問題を抜きにしても、ブルー水素、アンモニアプロジェクトは、再生可能エネルギーよりも高コストとなる。また、クリーンエネルギー技術や再生可能エネルギーで作られた電気のコストは下がり続けている。そのため、ブルー水素、アンモニアの技術の合理性についての疑問が生じることになる。
例えばアンモニアの場合、インドネシアの電力セクターの脱炭素化ロードマップによると、インドネシアの石炭工場でアンモニアを20%の割合で混焼する場合、炭素価格が1トン当たり200米ドル以上でなければ、経済的リターンがプラスにならないとされている。参考までに、2022年末に施行が計画されているインドネシアの新炭素税は、1トン当たりわずか2米ドルだ。
TransitionZeroによると、ほとんどのアジア諸国ではすでに、石炭からクリーンエネルギーへの移行は、石炭からガスへの移行よりも安価となっている。その他の国でも同等の価格であり、2024年にはクリーンエネルギーの方が安価となる。さらに、再生可能エネルギー電力のコスト低下が進めば、アンモニアや水素発電に対する優位性はさらに高まる。
結果として、天然ガス業界がブルー水素・アンモニアプロジェクトに投資することは、大きなリスクになる。内訳には、リターンの低下、座礁資産、ネットゼロコミットメントの不履行などがあがるだろう。
ブルー水素、アンモニアは化石燃料に関連する技術であるため、カーボンニュートラルに向かう世界では将来性がない。結果として、このようなインフラは、注ぎ込まれた投資家の資金とともに、座礁資産となるリスクを増大させる。
こう警告するのは、Market Forcesだけではない。Institutional Shareholder ServicesのESG部門は、ブルー水素への投資が「重大なリスク」になると警告する。
しかし、失敗の代償を負うのは投資家だけではない。当然。ブルー水素、アンモニアプロジェクトを開発する企業もともに、重大な座礁資産リスクにさらされる可能性がある。株価を損ない、競合他社に遅れをとる原因にもなりかねない。
移行債を「クリーン」に
シェル社のCEOが指摘するように、ガス価格の高騰により、ブルー水素は競争力を失っている。グリーン水素も同様だ。結果として、ブルー水素、アンモニアのような技術に投資することは、経済的にも環境的にも無意味といえる。また、企業や投資家にとっても大きなリスクを伴う。
さらに重要なことは、化石燃料関連のプロジェクトを支援するために移行債を使用することは、気候変動融資の将来性を危うくする危険性があるということだ。
投資家はゼロエミッション技術に資金を振り向ける代わりに、意図的でないにせよ、現状を支持するリスクを負う。最も脆弱な国々が緩和、適応、損失、損害に対して融資を求める声が日に日に大きくなっていることを考えると、これはESG投資家にとって最も避けたいことといえる。
※この記事は、2022年10月24日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら)