期待のブルーグリーンアンモニアの実態は「悪あがき」
travellight / Shutterstock.com
2023年6月26日 – ヴィクトル・タチェフ / Energy Tracker Asia
最終更新日:2024年10月4日
日本が掲げるアンモニア混焼をめぐる計画、方針に対する世界からの批判がやまない。「水素の次はアンモニア」。この姿勢が現実逃避とみなされ、グリーンウォッシュであると指摘されている。
日本のアンモニアに関する計画への国際的な批判は根強く、当分の間続くと考えられている。先進国として、世界のクリーンエネルギーへの移行、ネットゼロエミッション、二酸化炭素や温室効果ガスの抑制に向けた取り組みの最前線に立つべき日本。しかし、最も合理的な選択肢である再エネに注力せず、代替策を探しての迷走が続く。
日本のアンモニア計画
2022年1月、日本の排出量の10%以上を排出する企業であるJERAが、アンモニア技術開発に6億米ドル近くを投資する計画を発表した。3つのプロジェクトのうち2つは、2029年3月までに石炭火力発電のアンモニア混焼比率を50%以上とすることを目標とする。3つ目のプロジェクトは、2031年3月までに新しいアンモニア合成触媒を開発することが目標だ。
そのために必要な投資の70%を日本政府のグリーンイノベーション基金で賄うとする。しかし、この動きは憂慮すべきものと考えられている。これは、日本が化石燃料の廃止を目指すどころか、石炭火力発電所の延命を図っていることを示しているからだ。また、この動きにより、日本はネットゼロ戦略の一環として、アンモニアを大量に輸入する必要がある。
なぜ日本はアンモニアを推進するのか
日本でアンモニアが推進される理由は、経済の脱炭素化の遅れへの対応から、代替策の欠如まで、さまざまなものが考えられる。しかし、Hydrogen Science Coalition(HSC)の共同設立者であるポール・マーティン氏は、日本の決断を「悪あがき」だと切って捨てる。
マーティン氏は、Energy Tracker Asiaの取材に対し、「これらのプロジェクトに関する日本の戦略は、脱炭素化を焦点としないどころか、むしろ遅らせている可能性が高い」と述べる。
アンモニア戦略を掲げる日本への批判の背景
気候変動の影響への理解は今や一般にも周知されつつある。「世界第5位の温室効果ガス排出国である日本は、化石燃料を廃止していくべき」。これが世界の共通認識だろう。しかし、世界第3位の経済大国である日本にとって、化石燃料の使用中止は最優先事項ではないようだ。それどころか、現状維持を模索することに終始しているように見える。
「こうした動きは『天然ガスに水素を、石炭にアンモニアを混ぜることで、CO2の排出量をわずかに減らすことができる。これは進歩です。ほら、努力してますよ!』と言いたいがための建前に過ぎない」とマーティン氏は話す。
グリーンアンモニアと再エネ
水素と同様、アンモニアにも「グリーン」なイメージがあるかもしれない。しかし、グリーン水素やグリーンアンモニアは、理論的には実現可能とされるが、実際は手の届かないものだ。多くの場合、法外に高価となるからだ。例えば、グリーンアンモニアは、再エネから製造された水素から製造される。しかし、グリーン水素のコストは依然として高く、競争力も低い。グリーンアンモニアの存在は現状、主に研究室やパイロットプロジェクト内のみに留まる。
一方、JERAのプラントはブルーアンモニア頼りだ。同社関係者はグリーンウォッシングの批判を回避するために、「ブルーアンモニア」をキーワードとして用いている。しかし、ブルーアンモニアは、化石燃料由来の水素から製造される。この点についてのJERAの主張は、「プロセスから排出される炭素は回収される」というものだ。だが炭素回収には、メタン漏れの懸念があり、実現には不安が残される。
さらに、サウジアラビアのプロジェクトサイトで生産されたブルーアンモニアの事例では、当初の予測よりも多くの二酸化炭素を排出する可能性があることが示された。これは、JERAの主張への疑惑を色濃くさせる。もっと悪いことに、日本のブルーアンモニアの輸入の一部を担っている大手石油会社サウジアラムコは、回収した炭素の2/3を「石油増進回収」に使用し、化石燃料の生産を計画している。
アンモニア混焼は経済的合理性がない
マーティン氏はLinkedInの投稿で、日本の決定の基盤となる経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)を分析し、「無駄なグリーンウォッシング」と表現した。
「アンモニアを採取して日本に運び、35%の効率の石炭火力発電所で石炭と混ぜて燃やすという一連のプロセスは、お金を石炭に混ぜて燃やし、バイオ燃料と呼んでいるようなもの」。マーティン氏はEnergy Tracker Asiaにこう語る。「シンプルに電気を直接使うコストに比べて、プロセス全体のコストが高くなる。日本が今やっていることはそれより遥かに非効率だ」
マーティン氏は、他国の経済活動で使用されるエネルギーの「1ジュールあたりのコストの少なくとも5倍」のコストを要すると見積もる。「日本は豊かな国なので、そのような価格でエネルギーを買えないというわけではない。しかし、これは国内産業の競争力に影響を与える」
また、IEAによると、発電用の低炭素アンモニアは2030年まで高価な状態が続くとされている。日本の石炭火力発電所で低炭素アンモニアを60%の割合で混焼した場合の発電コストは、2030年には通常のエネルギー市場価値より30%高くなると指摘される。
問題はまだある。アンモニアによる発電効率の低さだ。エネルギー転換の専門誌Rechargeによると、1トンのグリーンアンモニアを生産するには、合計14.38MWhの電力が必要で、燃やすと5.16MWhの電力が発生する。アンモニアの発電量は、石炭プラントで燃やすと1.96MWhに激減するのだ。CSIROの調査によると、アンモニアを燃料として使用した場合のサイクル効率(電気から電気に戻す)は11~19%となる。研究者は、アンモニアを作るのに比べ、再エネ電力を直接使用する方が、「明らかに効率が良い」と結論付ける。
アンモニアは日本の輸入依存をほとんど解決しない
現在、日本は化石燃料由来のアンモニアの約20%をマレーシアとインドネシアから輸入している(一部はサウジアラビアから)。日本がアンモニアの採用を拡大すれば、輸入量は急増するだろう。石炭火力発電所でアンモニアを20%の割合で混焼すると、合計で年間2,000万トンのアンモニアが必要となる。
また、アンモニア輸出市場における多様性の低さも問題だ。そのために、日本が供給リスクや価格変動リスクに直面するシナリオもあり得る。しかし、価格変動リスクについは、皮肉にもガス輸入の経験から日本にとっては特別なことではないのかもしれない。例えば、2021年1月、日本の卸電力価格は1MWhあたり約1,500ドルという史上最高値を記録した。これまでの最高値である2011年の3倍以上となった。
残念ながら、アンモニア戦略をめぐる簡単な解決策は存在しない。マーティン氏によれば、すべての選択肢を検討する価値はあるという。とはいえ、日本は間違った方向に突進しているようだ。
「日本の経済を脱炭素化できる簡単な解決策があるとは言わない」とマーティン氏はEnergy Tracker Asiaに語った。「しかし、提案されている解決策はまっとうだとは思えない。もしこの問題に真摯に向き合い、数字を認識しているなら、必死になって風力タービンを作っているはずだ。なぜそうしないのか、思うに彼らは問題と駆け引きをしている」
日本の最近の動きは、ネットゼロの目標達成からさらに遠ざかることを意味する。時間が経つにつれて目標は遠ざかっていくことになるだろう。「アンモニアは現実逃避」とマーティン氏が語るように。
※この記事は、2022年1月27日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら)