日本のGXグリーンエネルギートランフォーメーションの正体

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日本のGXグリーンエネルギートランフォーメーションの正体

日本が推進するGX(グリーンエネルギートランフォーメーション)。「グリーン」とは名ばかりで、その内容には液化天然ガス(LNG)、石炭、化石燃料ベースの技術が含まれる。

2023年6月14日 – ティム・ダイス / Energy Tracker Asia

最終更新日:2024年10月4日

世界第3位の経済大国であり、最も炭素集約度の高い国の一つである日本が掲げるGX(グリーントランスフォーメーション)。「グリーン」と冠しているこの計画だが、実情は依然として化石燃料に大きく依存する内容となっている。

5月19日から21日にかけて広島で開催されるG7サミットを前に、4月15日から16日にかけて、札幌で気候、エネルギー、環境に関する閣僚会議が開催された。これは、「現実的なエネルギー転換」を推進するために予定されたとされるが、単なるポーズでは国としての気候変動への責任を取っていることにはならない。

日本政府は2035年までにG7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)グループの各電力セクターを脱炭素化するという2022年のG7の枠組み合意の前倒しに消極的な姿勢を崩さない。

また、G7は2050年までにネットゼロエミッションを達成することを約束し、7カ国間の脱炭素化への取り組みに焦点を当てる予定だ。

頑なに石炭を支持を続ける日本

現在の予測では、少なくとも2030年までは日本の発電需要の約19%を石炭が占めるとされる。政府は燃料の排ガスに対する懸念を払拭しようと躍起だ。いずれは石炭の使用量を減らし、原子力発電に軸足を戻すと主張する。

しかし、政府のエネルギー方針の迷走は続いているように見える。石炭の削減と廃止に向けた明確な道筋を正式に示すことすら未だできていない。2011年の福島原発事故後に導入された安全規制の強化や、地元の反対運動により、国内の原子力発電所のほとんども停止したままだ。問題は深刻化している。

ここで、浮かんでくるのは次の疑問だ。「原子力発電は今の日本にとって適切なのか?」
2022年度時点で、原子力が日本の電力供給に占める割合は8%に過ぎない

さらに、国際エネルギー機関(IEA)によると、日本の総発電量の約88%占めるのは化石燃料だ。これはIEA加盟国の中で6番目に大きい割合となる。

グリーントランスフォーメーション政策

さらに、政府が掲げるグリーントランスフォーメーション戦略(GX)は、その大部分が化石燃料技術に基づいている。これには、LNG、アンモニア混焼、ブルー水素開発、炭素回収・貯蔵(CCS)などが含まれている。

ガスは発電に使用すると、石炭の50%ほどの温室効果ガスを排出する。つまりガス火力発電所はクリーンとは言い難い。また、ガスはメタンガスの主要な排出源でもある。米国環境保護庁(EPA)によると、メタンは二酸化炭素の25倍も温室効果が高いとされる。

化石燃料技術の欠点

また、日本のブルー水素開発は、しばしば政府によって気候変動の突破口として喧伝されるが、実際には憂慮すべき側面が大きい。ブルー水素 は、未検証のCCS技術を用いながら天然ガスを燃焼させて製造することになるからだ。

CCSはまだ大規模な実証がされておらず、現段階では非常に高価な技術だ。また、CCSシステムは非常に多くのエネルギーを必要とする。封じ込められ、貯蔵された排出ガスが漏出することにより、重大な環境問題を引き起こすというエビデンスが集まってきてもいる

化石燃料の使用への対応として、18カ国140以上のグループが、日本の岸田文雄首相に対し、化石燃料の使用の促進、拡大を停止し、アジア全域の再生可能エネルギーへの移行を遅らせないよう求める書簡を提出した。

日本の気候変動対策は、化石燃料を利用した技術による成果、また、それが環境にもたらす害についての誤った仮定に基づいている。つまり、単なるグリーンウォッシングの一例に過ぎないと見なされても仕方がない。

日本から東南アジアへの圧力 

さらに悪いことに、日本のGXは、近隣の東南アジアに同様の政策や化石燃料を使った技術を使うよう推進する。

その一環として、今後10年間で1.1兆米ドル以上の官民資本を投入し、日本の22の産業セクターを抜本的に見直すとされ、東南アジアの協定国には、技術支援や財政支援を行うとする。

この取り組みは、日本政府が東南アジア全域で「クリーンエネルギー」に資金を提供する活動を始めてから2年足らずで実現している。この100億米ドル規模の計画には再生可能エネルギーも含まれていますが、LNGインフラの開発とガス火力発電所の資金調達も同時に進めているため、「的外れ」と指摘される。

この2年間で、世界のLNG推進はさらに勢いを増し、2024年には420億米ドルの投資額でピークを迎えると予測される。

エネルギー経済学は再生可能エネルギーを支持

再生可能エネルギープロジェクトのコストは、化石燃料を使用する発電プロジェクトとほぼ同等まで低くなっている。それどころか、多くの場合、再生可能エネルギーの方が安価なのだ。本来であれば、日本がガス政策を東南アジアに押し付ける必要はどこにもない。

日本政府は石炭問題に正面から取り組む必要があるだろう。5月開催されるG7会議までに、電力セクターを石炭依存から脱却させるための具体的で検証可能な計画を打ち出す必要がある。これができなければ、G7全体の排出削減目標や、2030年までに電力の脱炭素化を目指すという2022年に設立されたグループの枠組みを揺るがすことになる。

※この記事は、2023年4月19日にEnergy Tracker Asiaに掲載され、Energy Tracker Japanが日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

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