日本、ベトナム、韓国における新たなガス発電は、消費者を地政学的リスク、LNG供給の制約、価格変動にさらし、ネットゼロの目標を損う

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日本、ベトナム、韓国における新たなガス発電は、消費者を地政学的リスク、LNG供給の制約、価格変動にさらし、ネットゼロの目標を損う

2023年5月30日 – Energy Tracker Japan

最終更新日:2024年8月2日

アジア諸国は、記録的なエネルギー価格の変動や地政学的な供給ショックから自国を守り、ネットゼロの目標を達成するために、LNGガスへの依存から再生可能な資源へと転換すべきである、とCarbon Trackerが発表したレポート『不確実性を煽るのはやめよう』は指摘しています。

本レポートの筆者であるシニアアナリストのJonathan Simsは、次のように述べました。

「日本、韓国、ベトナムに大規模なガス施設を新設することは、ガス市場のエクスポージャーリスクがかつてないほど高まっている中で、不安定さを増す世界のLNG市場へのこれらの国の依存度を不必要に高めることになります。蓄電池を備えた低コストの再生可能エネルギーを中心とした電力システムを計画することは、気候変動目標の達成という点で最良の選択肢であるだけでなく、商品価格の不安定性や座礁リスクへのエクスポージャーを削減することにもつながります」

アジアはLNG需要の主な牽引役であり、2020~22年に予測される成長の95%を占めています。本リサーチでは、世界のLNG需要の約3分の1を占める日本と韓国、および地域最大の新規ガス発電インフラのパイプラインを有するベトナムに焦点を当てます。

日本、ベトナム、韓国は、2050年までにネットゼロエミッションを達成することを国家として宣言していますが、ガス火力発電が衰えることなく電力系統の中心的な役割を担うという計画を立て続けています。

代わりに、蓄電池を備えた再生可能エネルギーを中心とした電力システムを計画するなら、商品価格のリスクを最小限に抑え、ガス発電施設を新設するより低コストで開発でき、数十億ドル規模のLNGインフラ投資が座礁するのを防ぐことができます。以下に、『不確実性を煽るのはやめよう』の主要な調査結果を示します。

BAUとNZE2050のグローバルガス経済

『不確実性を煽るのはやめよう』は、政策立案者に対し、低コストで低リスクの再生可能エネルギー分野で得られる膨大な機会を把握するよう求めるとともに、この時期にガスプラントに長期投資を行うことは投資家にとって極めてリスクが高いことを強調しています。エネルギーグリッドを不安定で高いガス価格に適合させることは、より低コストでクリーンな再生可能エネルギーと比較した場合、利用者を最悪の結果に追い込むことになります。

日本、韓国、ベトナムにおける再生可能エネルギーの機会はきわめて大きく、ガスよりもコスト競争力があります。日本、韓国、ベトナムで新たに開発される太陽光発電や陸上風力発電は、全体的な投資額が新設のガス発電施設よりもすでに安価になっているか、2025年までに安価になる見込みです。新設のガス発電施設の計画・建設期間が通常4年以上であることを考えると、開発を進める施設はいずれも、より低コストの再生可能エネルギーとの競争が激化する中で、初日から稼動時間の制約に直面する可能性があります。

ロシアのウクライナ侵攻は、ガスが信頼できる移行期の「ブリッジ」燃料であるという概念を破壊しました。戦争が始まって以来、私たちは世界のエネルギー市場の混乱と記録的な価格変動、1970年代以来見られることのなかったエネルギー需要抑制を求める声を伴う深刻なエネルギー供給危機の懸念の高まりを目の当たりにしてきました。

ガス火力発電では、必然的に燃料コストが最大で単一のコスト項目となります。ガス価格は国際商品市場の影響を受けやすく、その結果、コストは年ごとに大きく変動する可能性があります。このような価格変動は、ガス火力発電施設の運転に競争力があるかどうかの分かれ目となります。

燃料価格の変動は、最終的に消費者の電力料金の上昇につながるため、この種の資産への継続的な投資は、運転に必要な限界費用がゼロに近い再生可能エネルギーと比較すると、魅力がさらに弱まります。

 LNG価格と実際のスポット価格の比較

グローバルLNG市場へのエクスポージャーを増やすのは賢明なことではありません。ガスインフラへの投資増に対する環境面の懸念はもちろんのこと、この市場を取り巻く政治的敏感性のために需給は大きく揺れ動きます。今は、各国がガスへの依存度を高めてよい時期ではありません。実際の市場価格は、ここ数カ月で私たちの基本シナリオを300%以上上回る水準にまで急上昇しました。

燃料価格の変動が新規ガスプラントプロジェクトのLCOEに及ぼす影響

新たなガスインフラへの投資が2050年のネットゼロエミッションへの道筋といかにずれているかを考慮する以前に、低コストで低リスクの再生可能エネルギーと比較したLNG市場がアジアのガスプラントの経済性にもたらす高レベルのリスクは、各国がガスへの依存度を高めることを思いとどまらせるでしょう。

蓄電池を備えた新しい太陽光発電施設は、2030年代初頭には、日本と韓国の既存ガスプラント施設に対してコスト競争力を持つようになるでしょう。つまり、これらの国は、10年以内にガス発電施設に匹敵する柔軟性の高いサービスを提供できる低炭素エネルギー源を、より低コストで社会に提供できるようになり、政策立案者は、2050年のネットゼロエミッション目標に沿って、電力セクターのガス使用の段階的廃止を計画できるようになるのです。LNG価格が上昇した場合、この変曲点はさらに早く訪れる可能性があります。

2025年までには、新設の陸上風力発電のコストが新設のガス発電のコストのLRMCを下回るようになります。一方、世界最大級の海域を持つ日本では、洋上風力発電の開発にも大きな可能性があると指摘されています。

韓国の再生可能エネルギー導入の水準ははるかに低いものの、設置に有利な地理的条件から、韓国のプロジェクト建設コストは日本のそれよりも比較的低くなると予想されます。韓国で新たに建設される再生可能エネルギーのコストも、同国のガスとの競争で非常に優位に立っています。

私たちのモデルでは、韓国の新たな陸上風力発電所と新たなガス火力発電所のLCOEを比較して、2025年までに、前者のほうが全体としての投資額が低くなると予測しています。しかし、この変曲点への到達は早まる可能性があり、我々の低範囲シナリオの推定では、早ければ2023年から新設の陸上風力発電が新設のガスプロジェクトを上回ることになります。

アジアにおける洋上風力発電には、非常に高い潜在的成長力があります。広大な海岸線と領海は、今回分析した3カ国がいずれも洋上風力開発の世界的リーダーになるのに非常に有利な位置にあることを意味します。韓国とベトナムの洋上風力発電施設は、この10年で新設のガス発電施設に匹敵するコスト競争力を持つようになるでしょう。

※この記事は、2022年4月8日にCarbon Trackerのウェブサイトに掲載され、Energy Tracker Japanが許可を得て日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら


Carbon Trackerについて
Carbon Tracker Initiativeは金融を専門とする非営利シンクタンクで、気候変動の実情に合わせて資本市場の動きを調整することにより、気候安全保障に資する世界エネルギー市場の実現を目指しています。カーボンバブル燃やせない炭素、および座礁資産に関するこれまでの研究は、金融システムを低炭素の未来に向けたエネルギー転換に合わせる方策についての新たな議論の起点となりました。 http://www.carbontracker.org

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