今はアジアにLNG輸入基地を増設すべき時ではない
Aerial drone photo of LNG (Liquified Natural Gas) tanker anchored in small gas terminal island with tanks for storage
2023年5月15日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2025年4月3日
世界の液化天然ガス(LNG)市場は極端な変動期を経験しており、疑いなく、多くの人はその原因がロシアのウクライナ侵攻にあると言うことだろう。きっと、すぐに価格は安定する、そう思われるかもしれない。
しかし、予測不可能性とエネルギー不安はLNG市場の基本的な特徴であり、一時的なものではない。LNGの価格変動は、ロシアの侵攻のかなり前から始まっており、事態が収まれば予期しない長期的な影響が及ぶことになる。
LNGの調整市場としての欧州の役割は、ロシアのパイプラインガスからの脱却に伴い変化しつつあり、LNGの量をめぐるアジアとの競争が激化する可能性を示唆している。LNGの新規供給能力が大幅に拡大するのは、2020年代の半ば以降になると予想されているが、既存施設の計画外停止は記録的な水準に達している。これは、価格に敏感なアジアのLNGバイヤーが、逼迫した世界市場から締め出される可能性があることを意味する。一方、ロシア産のガスやLNGの欧州向け供給削減の新たな脅威が大きく立ちはだかっており、世界のマクロ経済情勢は、最近のエネルギー危機よりも根本的に不安定になっている。
過去2年間の極端な価格変動の結果、特に途上国では燃料供給の確保が困難になり、燃料不足、電力不足が発生している。こうしたエネルギー不安は、高価な化石燃料を大量に輸入する決定に対して最も責任のない、経済的に弱い立場にあるコミュニティに最も悪影響を及ぼすことが多い。
また、エネルギーセクターの計画立案者にとっては、ボラティリティのために計画期間が複雑になる、という影響もある。結果として、クリーンエネルギーへの移行を促進するどころか、高価な資源の再配分や石炭・石油などの他の化石燃料への回帰を招くこともしばしばだ。
また、信頼できる国家予算の形成も難しくなり、特に政府予算の大部分が燃料補助金に充てられる途上国では、その傾向は顕著となる。このような補助金の配分は、世界的な商品価格の高騰時に、政府を重大な予算リスクにさらす。燃料コストがエンドユーザーに転嫁される市場では、家庭や企業が、不当に世界市場の価格変動にさらされることになる。
しかし、天然ガス業界とガス輸出国の政府は、LNGプロジェクトがエネルギーコストを引き下げ、エネルギー安全保障を改善し、新たな再生可能エネルギー源の統合を促進して、エネルギー転換を円滑に促進するというシナリオを推進している。[1]
その結果、アジアの多くの政策立案者、プロジェクト開発者、金融機関は、新たなLNG輸入プロジェクトやガス火力発電プロジェクトを強化しようとしている。しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、LNGが国内調達の代替エネルギーよりも高価であるばかりでなく、はるかに予測不可能であることを示している。
この記事は、2022年3月1日にInstitute for Energy Economics and Financial Analysisのウェブサイトに掲載された “Now is not the time to build more LNG import terminals in Asia” を、Energy Tracker Japanが許可を得て日本語に翻訳したものです。
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