LNG価格の高騰で輸出企業が市場に参入する中、アジアのバイヤーは出口を探す可能性がある
2023年5月15日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年7月22日
液化天然ガス(LNG)市場のボラティリティは、すぐには解消されないでしょう。2022年4月26日、世界銀行は、世界のガス市場の逼迫と動揺が何年にもわたって続くと警告しました。この点を強調するかのように、ロシアはその翌日、欧州連合2カ国へのガス供給を停止し、世界のガス価格に新たな衝撃を与え、モスクワがガス輸出を武器にすることを示唆しました。
輸出産業にとって、今日の高価格は、長年にわたって生命維持に苦しんできたLNG供給プロジェクトの除細動器として働きました。しかし、アジアを中心とする輸入業者にとっては、価格の高騰がLNG需要を圧迫し始めています。短期的には、とてつもない高値が燃料需要を抑制しています。しかし、LNG輸出企業にとってより長期的な問題は、新興市場での需要創出の減少です。
価格の高騰と供給の途絶により、LNGに対する経済および安全保障面での否定的根拠が劇的に強化されました。アジアの途上国の中には、LNGの輸入拡大計画を見直す国も出てくる可能性があります。新たに認可されたLNG輸出プロジェクトが市場に登場するまでに、少なくとも5年はかかると予想されますが、それまでに潜在顧客はすでに立ち去っているかもしれません。
アジアのLNG需要を破壊しつつある価格高騰はいつまで続くか?
ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州各国はロシアからのパイプライン輸入から脱却するため、LNGの輸入拡大を宣言しました。世界のLNG供給会社はすでにフル稼働に近い状態で操業しており、今後数年間に予定されている新規生産能力はわずかであるため、欧州のバイヤーは、他の(主にアジアの)輸入業者から既存の供給を手に入れるために高額なプレミアムを支払う必要があります。
政府の指示ではなく、価格が取引を動かしているのです。アジアのバイヤーは、価格高騰を回避するため、LNGスポット市場から一斉に撤退しました。スポット購入は、2020年4月以来の低水準に落ち込んでいます。アジアのバイヤーが価格競争に参加するかどうかは、天候と貯蔵量に大きく左右され、その時点で欧州向けカーゴの裁定取引の機会が減り始める可能性があります。
中国や韓国の一部のバイヤーは、スポット市場を避けるために新たな長期契約を結んでいます。20年間の新規購入契約は、限られた輸出施設をゴールまで押し上げるのに役立つかもしれません。 しかし、米国などでは、提案されたプロジェクトの大部分が未契約のままとなっています。新規契約があるにもかかわらず、中国のLNG輸入量は12月以降毎月減少しており、北京はロシアからのパイプライン輸入を拡大することを目指しています。
また、LNGから恒久的に手を引く可能性を示唆するバイヤーもいます。日本では、輸入燃料費の高騰により電力供給の維持が困難になるとの懸念が高まる中、福島原発事故後初めて原子力発電への回帰を支持する意見が過半数を占めました。同国は、上流のLNGプロジェクトへの投資を継続していますが、最新のエネルギー基本計画では、2030年までに発電に占めるLNGの割合が37%から20%に減少すると想定しています。
価格が高止まりし、不安定な状態が続けば、バイヤーはLNGスポット市場を避け続け、徐々にLNGから手を引く可能性があります。
大局:アジアにおける長期的な需要創出の欠如
東南アジアと南アジアは、2040年までの世界需要の伸びを牽引すると広く予想されていますが、新たなLNG需要の創出には、アジア途上国が高価格で不安定な燃料コストを外貨建てで負担する必要があります。
スリランカはその好例です。米国を拠点とするNew Fortress Energyは、輸入ターミナルの設置によるLNG需要の喚起を目指しており、2023年の完成を目標に、3月にプロジェクトに取り組むことを改めて表明しました。スリランカが独立以来最悪の経済危機の中、破綻の危機に瀕しているにもかかわらず、です。外貨準備がほぼ枯渇しているため、スリランカは輸入燃料を購入するために世界銀行とインドから借り入れをしなければなりませんでした。
これは、企業や政策立案者がLNGの輸入を推進する一方で、手の届かない燃料価格やマクロ経済の不安定さが、需要の伸びに厳しい制限をもたらす可能性があるという、より大きな地域的問題を象徴しています。
パキスタンは最近、LNGを購入する余裕のなさと、契約しているサプライヤーの度重なる不履行により、燃料と電力の削減を余儀なくされています。LNGの供給不足により同国の10%近い電力が発電できなくなり、全国的な負荷制限が実施されました。3月にイムラン・カーン首相が失脚したのも、エネルギー危機が一因であり、現在デフォルトの危険性が高まっています。需要破壊が進んでいることに加え、同国はLNG火力発電所の増設は想定しておらず、代わりに再生可能エネルギーの比率を国内の電力ミックスの60%にすることを目指しています。
ベトナムとフィリピンは2022年、LNG市場に新規参入し、第4四半期までに新たなターミナルが稼働する見通しです。
しかし、LNGのリスクに対する国家の許容度が低下している兆候も見られます。燃料価格の不安定さが、ベトナムが長期的な電力セクター計画を最終決定する能力に支障をきたしています。フィリピンでは、エネルギー省がエネルギーの効率化を推進し、世界的に調達される燃料への依存度を下げるとともに、国内の再生可能エネルギーによる代替を促進しています。
結論
米国では、2019年以降、新規の液化プロジェクトについて最終投資決定(FID)は行われていません。現在、LNG開発業者は、高いグローバル価格を獲得するために新たなプロジェクトを推進しています。一部の企業は2022年中にFIDを達成する可能性がありますが、業界の拡大は高いグローバル価格と長期購入契約に依存しています。とはいえ、このような状況は、アジアにおける長期的な需要拡大の見通しを損う可能性があります。
新たなプロジェクトが2026年までに稼働する可能性は低いと言えます。不安定な価格が続く中、成熟したLNG輸入国や新興国は最も近い出口を探しています。LNGの需要を制限するためのより恒久的な措置が講じられるなら、輸出企業は液化設備がますます不要になるか、存続不可能になるかもしれません。
LNGサプライヤーにとって良い時代が続いていますが、問題はいつまで続くかです。
※この記事は、2022年5月31日にInstitute for Energy Economics and Financial Analysisのウェブサイトに掲載され、Energy Tracker Japanが許可を得て日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら)