世界的なエネルギー危機でフィリピンでのLNG計画に支障か

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世界的なエネルギー危機でフィリピンでのLNG計画に支障か

2023年5月15日 – Energy Tracker Japan

最終更新日:2024年8月2日

輸入燃料価格の高騰と世界的な供給量の限度により、LNGプロジェクトはますます競争力を失っている

フィリピンは、2022年、初の液化天然ガス(LNG)の輸入を目指しており、LNGインフラの拡張提案がかつてないほど増えています。

しかし、同国は極めて不確実な時期に世界のLNG市場に参入しようとしています。ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、世界のLNG供給は制限され、LNG価格は史上最高値を更新し続けています。

競争力のある価格でLNGを購入できない場合、新設のターミナルやLNG火力発電所が使用されることなく、立ち往生する可能性があります。一方、低コストの国内再生可能エネルギーが急速に普及したことで、LNG投資の機会は閉ざされつつあります。

挫折の歴史

CEED(Center for Energy, Ecology, and Development)の最新レポートによると、フィリピンでは、29.9ギガワット(GW)のガス火力発電プロジェクトとともに、年間3,650万トンのLNG輸入ターミナル施設の開発が進行中です。San Miguel Corporationだけで、そのうちの14.1GWを占めています。

2016年以降、プロジェクトのパイプラインは飛躍的に伸びていますが、フィリピンでは2003年以降、LNGプロジェクトの中止が繰り返されています。最近では、国内唯一のガス生産源であるマランパヤガス田の枯渇により、LNG会社の動きが活発になっています。2022年、First Genおよびシンガポールに拠点を置くAtlantic Gulf & Pacific(AG&P)が提案した2つのターミナルが稼働することが見込まれていました。

両社は、国内初のターミナルの稼動に向けて競い合いました。First Genは、2019年にプロジェクトの起工式まで行いましたが、2022年6月にまたもや延期を発表しました。

LNG調達は課題が山積

一方、AG&Pは最近、2022年内にLNG輸入ターミナルを稼働させる方針を改めて表明しました。しかし、世界的にLNGの供給が限られている中、どのように調達するかは不透明なままです。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州はLNGの買い増しによりロシア産ガスへの依存を減らす計画を発表しました。世界的にLNGの供給余力がほとんどないため、欧州のバイヤーは既存の供給に対して他国を上回る入札を行うことを余儀なくされています。

カーゴは、最高価格を支払う意思のあるバイヤーに流れています。2022年3月、LNGのアジアスポット価格は、2021年3月の15倍以上となる100万英国熱量単位当たり84.76米ドル(MMBtu)に達しました。価格は、少なくとも重要な新規供給施設が稼動する2026年までは高止まりすると広く予想されています。

一部のLNG輸入国は、既存の長期購入契約によって保護されています。この契約では、販売者は事前に決定されたスケジュールと価格フォーミュラでLNGを引き渡すことが求められます。しかし、国際エネルギー機関(IEA)が最近発表したガス市場の最新情報によると、フィリピンは長期契約を一切締結していません。

つまり、限られたLNGの供給について、欧州や北東アジアの裕福なバイヤーよりも高く入札しなければならず、同国は高い価格と極端な変動にさらされることになります。燃料を手頃な価格で手に入れられないなら、フィリピンにおけるLNG発電の計画は遅延、中止、または立ち消えになる可能性があります。

LNG発電のコスト問題

輸入燃料のコスト高騰は、発電コストの上昇に直結します。現在のLNG価格は約35米ドル/MMBtuであるため、フィリピンの電力価格は、燃料だけで1キロワット時あたり約PHP12.33~15.70(22~28米ドル/kWh)になります。これは、発電所を建設するための資本コストを加算する前でさえ、すでに国内の平均的な電力価格よりもはるかに高い価格です。

ところが2021年2月、San Miguelの子会社であるExcellent Energy Resources Inc.(EERI)は、計画中のLNG火力発電所からの電力をわずかPHP4.1462/kWh(7.4米ドル)で供給すると約束して、Meralcoとの電力供給契約を獲得しました。同社は当初、2023年3月の稼働を目指していました

現在のLNG市場では、EERIが契約を獲得するために提示した価格は、燃料費のみに基づく実際の発電コストのおよそ3分の1です。EERIがすでに低コストのLNGの調達を確保していない限り、2026年までの世界のLNG市場の見通しを考えると、同社が2021年の入札価格を達成することは困難と思われます。

EERIが法的な申し立てにより契約の再交渉を行った場合、燃料コストの上昇がエンドユーザーに転嫁される可能性があります。現在は輸入燃料コストの高騰を踏まえ、他の2つの発電所についてもエネルギー規制委員会に一時的な料金引き上げを求めています。

San Miguelは、LNG価格が非常に不安定であることを十分に認識した上で、LNG火力発電プロジェクトの具体的な価格を約束しました。今後、入札価格に応じられない場合、世界的な燃料価格上昇のコストをフィリピン市民ではなく、同社が負担すべきです。

LNGプロジェクトの機会は急速に狭まりつつある

世界のLNG供給量の限界と法外なコストをめぐるリスクは、今後10年間にわたって続くと予想されます。輸入燃料価格の高騰が消費者に転嫁されれば、フィリピンの家庭や企業の電力料金が上昇し、経済発展が阻害される恐れがあります。

一方、国内の再生可能エネルギーは、グリーンエネルギーオークションプログラムの最近の成功が示すように、低コストで大規模な電力供給を行うことができます。このオークションが毎年開催されれば、今後10年間に同国が新たに必要とするLNG生産能力を大幅に削減できます。フィリピンがクリーンエネルギーへの移行を加速するにつれて、LNG資産はさらに競争力を失い、不要となる可能性が高くなります。


※この記事は、2022年8月1日にInstitute for Energy Economics and Financial Analysisのウェブサイトに掲載され、Energy Tracker Japanが許可を得て日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら

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