2022年のアジアのLNG需要の減少が産業成長の課題を浮き彫りにする
2023年5月15日 – Energy Tracker Japan
最終更新日:2024年7月22日
液化天然ガス(LNG)業界は長年、アジアが信頼でき、急速に成長する顧客になるだろうと想定してきました。
しかし、世界のガス市場が乱高下した1年で、この前提に疑問が呈されることになりました。欧州でのロシアのパイプラインガスをLNGに置き換える動きにより、2022年の価格は過去最高を記録しました。これを受け、アジアのLNG需要は7%減少し、2015年以降初めて年間需要の減少を記録しました。高すぎる価格のためにアジアの需要が逼迫するにつれて、電力会社の利益は減少し、提案された輸入プロジェクトは頓挫し、各国は燃料不足と停電の絶え間ない脅威にさらされることになりました。
エネルギーミックスに占めるLNGのシェア拡大を計画している国々にとって、2022年の教訓は来るべき課題の前触れとなるはずです。今後も不安定な価格と不安定な供給によりアジアの主要市場が疎外されることが続けば、域内のLNG需要は、業界関係者が予想するほど急増することはないでしょう。
アジアにおけるLNGの需要破壊の実態を把握する
アジアのスポット市場におけるLNG価格は、2022年には100万英国熱量単位(MMBtu)当たり平均34米ドルで、2021年の年間平均の2倍以上となりました。
その結果、IHSマークイットのデータによると、アジアのLNG需要は2021年の2億7,000万トンから2022年には2億5,000万トンに減少しました。最大の落ち込みを記録したのは中国で、長く続いた新型コロナウイルス関連のロックダウンや価格高騰の影響でLNG輸入量が前年比19%減となりました。
結果的に、日本はLNG輸入量が減少したにもかかわらず、2022年に世界最大のLNG購入国の座を回復しました。同国は、不安定なガス市場による影響を減らすため、原子力発電所の再稼動に向けた取り組みを加速させています。
南アジアは、おそらく価格高騰の影響を最も大きく受けました。パキスタンとバングラデシュでは、LNGカーゴを購入する余裕がなかったためガスと電力が不足し、主要セクターの経済成長が阻害され、重要な外貨準備が圧迫されました。パキスタンとインドへの供給業者は長期契約の不履行を繰り返し、買い手は高価なスポット市場に追いやられるか、LNGカーゴを完全に断念せざるをえませんでした。
アジアのLNGスポット市場からの輸入は、2022年に17%減少しました。2023年も価格の乱高下が続くなら、買い手は引き続きスポット購入を制限し、代わりに新たな長期契約の締結を目指す可能性があります。しかし、報道によると2026年までの引き渡しをオファーする長期契約はなく、LNGの需要増は緩やかなものになるかもしれません。
アジアの電力会社は燃料価格上昇の痛みを感じている
ロシア・ウクライナ危機を受けて、アジア諸国政府は、エンドユーザーのガスや電力の価格に上限を設けることで燃料価格上昇によるインフレの影響を緩和しようと何度も試みました。その結果、投入コストの上昇が民間および国有の電力会社の損益計算書に反映され、財務実績が悪化しました。
韓国では、政府が2022年、インフレ抑制のために電力料金の大幅な値上げを見送りました。しかし、燃料費の高騰により、国営の韓国電力公社(KEPCO)の損失は急増し、2022年には240億米ドルを超える見通しです。損失を軽減するため、政府は2023年第1四半期の電力料金を9.5%引き上げ、40年ぶりの大幅な値上げとなりました。
日本では、電力会社による家庭用電気料金の値上げについて、政府による上限が設けられています。その結果、国内の大手電力会社10社のうち9社が、上半期に大幅な当期純損失を計上しました。世界最大級のLNGバイヤーであるJERAは、同期間に9億9,500万米ドルの純損失を計上し、残りの会計年度も赤字となる見込みです。
タイは国営電力会社EGATに対し、2021年9月に電力料金の上限を設定するよう求め、2022年4月まで17億3,000万米ドル、2022年5月から8月までに31億7,000万米ドルの財務負担が発生しました。
LNG市場への参入を目指す国にとって、これらの問題は今後の課題を予感させるものです。フィリピンは現在LNGを輸入していませんが、国内の電力会社SMC Global Powerは、輸入石炭と国内ガスのコスト高(世界の原油価格と連動)のため、2つの発電所で2億7,500万米ドルの損失を計上したことが報告されました。また、同社は年間3,650万トン以上の新たなLNG輸入能力を提案しており、これが建設されれば、変動するLNG価格から受ける影響が飛躍的に大きくなることになります。
アジアのLNG、価格変動のために先行き不透明に
欧州の温暖な天候による最近のLNG価格の下落は、輸入国にとって歓迎すべきニュースです。しかし、アジアの価格は、依然として過去5年間の平均である14米ドル/MMBtuの2倍であり、アナリストは2023年も価格は高止まりすると予想しています。
価格が不安定な状態が続けば、輸入業者がLNGの消費を最小限に抑えようとする傾向が強まり、LNG業界の長期的な成長見通しに支障をきたす可能性があります。その代わり、多くのアジア諸国では、低コストの国産再生可能エネルギーの導入が加速しています。例えば、インドやフィリピンなどの主要なLNG成長市場は、世界のガス市場への依存度を抑えるため、より高い再生可能エネルギー目標を発表しています。
2022年は、国際的な化石燃料市場の変動がエネルギー安全保障や経済成長に極めて不安定な影響を及ぼす可能性があることを明確に示しました。LNGの価格がどのように変動するか、誰も正確に予測することはできませんが、各国は再生可能エネルギーやエネルギー貯蔵技術を強化することで、不確実な燃料価格による影響を抑えることができます。
結局のところ、歴史はガイドであって、占い師ではないのです。
※この記事は、2023年1月11日にInstitute for Energy Economics and Financial Analysisのウェブサイトに掲載され、Energy Tracker Japanが許可を得て日本語に翻訳したものです。(元記事はこちら)